ダンジョンの異変

第63話 集団ダンジョン探索①





 ◇埼玉ダンジョン



 「埼玉ダンジョン」。埼玉県越谷市の南東部に位置する「ダンジョン」のことだ。


 元々「東京支部」では「東京ダンジョン」、「埼玉ダンジョン」、「隠しダンジョン」通称────「川越ダンジョン」の三つの「ダンジョン」の管轄を任されている。


 「隠しダンジョン」が「川越ダンジョン」と呼ばれている由来はただ単に川越近くにあるから、そう呼ばれている。


 ────まぁ、「隠しダンジョン」は「川越ダンジョン」と名付けられたが、今は"誰か"の手により崩壊させられ、存在しないため今は特に考えないで良いだろう。


 そんな中、フオンとネロは冒険者姿に身を包み「埼玉ダンジョン」に来ていた。ただ今回一つ違う所といえば──フオンだけがいつもの灰色のロングコートの上からを着ている事だ。フードを目深まで被っているので周りからはフオンの表情を窺えない様になっていた。勿論、フオンはフード如きを目深に被る事程度で何も支障も無いので問題ない。


 ただ、コレはネロや凛が考えた『恋敵ライバル』をこれ以上増やさない為の手段だった。「東京支部」では"もう"無理だが、他の支部や「ダンジョン」ならの顔すら見られなければどうとでもなると思ったからだ。


 それに今回からはフオンの異常な強さも感知されない様になっていた。それはネロが急ピッチに作った──今、フオンが着ている緑色のローブが関わっていた。このローブは気配、或いはつまるところ存在自体を消せる──遮断してしまうと言われる『ステレオンカメレオン』と言う魔物の皮を使った素材で出来ている。そこにネロお得意の魔石の調合によりこの緑色のローブも『魔道具』となっていた。コレによりフオンの素性・強さが周りから見えない様になったのでネロ達は安心していた。


 ──因みに俺も面倒臭いいざこざ女性達に絡まれるが回避できるならとこの緑色のローブを着るのを了承した。


 そんな二人は一度、「埼玉支部」に顔を出した方が良いのではと思っていたが蔵から「直接「埼玉ダンジョン」に向かってしまっても構わないよ」と言われていた為、そのまま目当ての「埼玉ダンジョン」まで赴いた。


「──人が、沢山いるな。コレが全て今日「C」ランクになる為の試験を受ける人達か」


 建物の壁を背にして周りを眺めていたフオンはそう呟く。フオンが言う通り指定されていた「埼玉ダンジョン」の入り口近くには沢山の人々で溢れかえっており、知り合い同士で話し合っていたり一人で黙祷している人など様々だった。当初の蔵の話では「D」との事だったが──今回集まった人数は想定より多い様だ。


「まぁ、他の支部の人達も来てるみたいだからざっとこんなものじゃないかな?」

「そうか」


 フオンの言葉に反応する様に隣で自分の杖を弄って遊んでいたネロが答える。フオンはフオンで短く相槌を打つとその場で目を瞑った。今の時刻は8時30分と「集団ダンジョン探索」が集まる時刻の9時にはまだ早いので無駄話もアレかと思ったフオンはその場でただ、目を瞑り無言で静観した。


 その事に気付いたネロは特に何も言わずに背負っていたバックを地面に下ろすとガサゴソと何やら中を漁っていた。


 フオンとネロはそれぞれ適当に過ごしていると──


「──そこの可憐なレディ。俺様と一緒に今回の「集団ダンジョン探索」を一緒に回らないか?」


 ──誰かが話しかけてきた。ネロに向けて。


 その事にフオンは特に何も反応を示さずにいるとネロは誰かが話しかけてきたのが分かったのかそちらに顔を向ける。顔を向けた先には──美少女を五人、男を二人引き連れた煌びやかな外装の装備を身に付けた高校生ぐらいの年齢の顔が整った茶髪の男性がいた。


 そのいかにもアピールをしている装備を身に付けた男性にネロは少し嫌そうな顔をしたが、それは一瞬でバック漁りを止めると立ち上がり、その男性に返事を返す。──まぁ、反応しなければこの後ネチネチと関わって邪魔してくる人種だと思ったことは多分に含むが。


「えっと〜、僕に、話しかけてるのかな?」

「そうだ、周りには君ぐらいしか可愛いお嬢さんはいないだろぅ?だから、そんな可愛い君は俺様の隣が相応しい。俺様達と一緒にどうかな?と思ってさ」


 無駄に爽やかな笑みを浮かべると白い歯を見せる様にニカッと笑う。そんな茶髪の男性を見た周りの取り巻きの女性達は「キャッー!雅紀様、カッコイイ!!」と騒いでいた。男性陣は「よっ!強さもカッコ良さも世界一!!」と煽っている。


 その事に調子を良くしたのか「まぁ?俺様レベルになれば何もしなくてもカッコ良いがな!!」と嬉しそうにしている。そんな雅紀と呼ばれた自信過剰な男性は自分がなど微塵も思っていない。


 だが、ネロは──


「ごめんね。僕はお兄ちゃんと「集団ダンジョン探索」を回るって決めてるからさ!」


 と、側に佇んでいるフオンに抱きつくと言ってのけるのだった。


 そんなネロの行動、断られたという現実が受け止められないのか──


「………へっ?」


 ──と、間抜けな表情を浮かべるとそんな言葉しか出てこなかった。ネロ達の会話を見ていた取り巻き達もありえないとでも言いたげな表情でネロとネロに現在進行形で抱き付かれているフオンに目線を向けていた。


 巻き込まれたフオンは──


(──チッ、俺を巻き込むな)


 ──内心で悪態を吐いていた。今はフードを被っている為表情は伺えないが。

 

 そんな中、漸くネロの言葉が理解できた茶髪の男性は憤怒の表情を浮かべると──ネロではなくフオンに喰いかかってきた。


「おい、お前!兄か何なのか知らんがその子を俺様に渡せ!!それに、俺様に楯突くとどうなるか分かってるんだろうな?俺様は──『冒険者装備開発部アピタ代表取締役』の社長の一人息子──鳴金雅紀なりがねまさのりだぞ!!」


 そんな事を堂々と告げるとドヤ顔を浮かべて「決まった!」とでも言いたげな表情を浮かべた。


 周りの取り巻き達も──


『雅紀様素敵!!』

『貴方のお陰で私達冒険者達は「ダンジョン」に潜れるのよ!抱いて!!』

『神はにもつを与えると言うが、雅紀様はその才能・容姿からさんもつ、よんもつは貰っているな!!』

『愚民が、楯突くな!!』


 ──と、又もや煽り散らして鳴金の調子を向上させていた。他の人々は関わりたくないのか皆んな、見ないフリをしていた。


「…………」


 そんな中、フオンは興味が無いのかソッポを向いていた。ただ、そのフオンの態度を見た鳴金はヒートアップしてしまったのか──


「き、貴様!!?何だ、その態度は!!何も反応を示さないどころか無視をして──俺様が直々に話しかけてやっているのだぞ!喜び、泣き叫べ!この、愚民が!!?」


 唾を飛ばしながら激昂していた。


 それを見ていたフオンは──


「…………」


 無言ながらも鳴金に対して完全に無視を決め込んでいた。ただ、このまま放置をするのはうざい──面倒臭いだけなので未だに抱きついて来ているネロに"ある事"を耳打ちする。


「──ッ!お兄ちゃん!!僕は──」

「安心しろ、少しの辛抱だ。だから、頼む」

「………分かったよ」


 フオンに何かを言われたネロは言葉を返そうとしていたが、フオンにすかさず止められてしまった為、渋々言う事を聞く事にした。


 そんな二人の様子を見ていた鳴金は──


「お前ら!二人でコソコソと話すな!それで、俺様に楯突くのか?つかないのか?」

「──分かった。僕が君達と一緒に「集団ダンジョン探索」を回るよ。──ただし、この探索だけだからね?」


 ネロは少し嫌そうな顔をしながらも鳴金にそう伝えるのだった。ネロから了承の言葉を聞いた鳴金は──


「そうか、そうか!やはりそんな愚図の兄よりも俺様を選ぶよな!!それが賢明な判断だ。それに俺の強さを知れば今後も俺のパートナー伴侶として寄り添いたいと思うさ!!」


 と、そんなに嬉しかったのかネロの大きい胸をイヤらしい表情で見ながら話していた。その鳴金の視線に気付いたネロだったが特に何も反応をせず、苦笑いを浮かべるだけで留めた。


 そんな鳴金はネロを引き連れてフオンから少し離れると何やら話し合っていた。


 その様子をフオンはを保ちながらただ、無言で見ている。

 

 そんな中、「埼玉ダンジョン」入口付近にある建物から何人かの冒険者の装いをしている人物が出てきたので今回の「集団ダンジョン探索」の監督官と思っていた。


 フオンが周りにある時計塔を見て時刻も確認すると──「集団ダンジョン探索」が始まる9時となっている。




  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る