第62話 仮冒険者⑤



 

 ネロの話を聞いていたフオンは仏頂面でそう答えた。ただ、ネロがフオンの問いに答える前に──凛が間に入る。


「フオン君、ネロちゃんをあまり責めないであげて欲しいの。それに、今回ここにフオン君を呼んだのは私達が提案した事なの」

「──諸星さん、達が?」


 フオンに聞かれたセリナと凛の二人は頷く。


「そうよ?に直接口頭で伝えて欲しいと──で何かと忙しいリーダーから頼まれたから。仕方なく、本当に仕方なくあなたに会いに来てあげたのよ。だから、喜びなさい」


 そんな、凛と変わる様に伝えてきたセリナの言葉に「素直じゃ無いなぁ〜」や「セリナはお兄ちゃんと同じツンデレだからね」とネロと凛の二人はフオン達に聞こえないぐらいの声量でヒソヒソと話していた。


 そんな中、フオンは──


「別に、そんなに会いにきたく無いなら諸星さんだけで良いのだが」


 ただ、正論な事を俺は伝えたつもりだが──


「──何よ?私が来たらあなたに何か不都合でも?それに私は「夕凪の日差し」のリーダーよ。そのリーダーがリーダーの言伝を伝えに来るのは当然でしょ?」

「………そうだな」


 「副リーダー」という言葉を何故か強調するセリナの相手をするのが面倒くさくなった俺は適当に相槌を打つ事に留める。


 そんなフオンの様子を見たセリナは「そうよ、あなたは後輩なんだからいつもそうやって素直にすれば良いのよ」と笑みを見せていた。──フオンの内心など知らずに。


「じゃあ、早速リーダーからの言伝を私自ら伝えるのだから光栄に思いなさい!コホンッ!──『フオン君、ネロちゃん。俺達は二日後に以前話した通り、異変が起きている「東京ダンジョン」に潜る事になった。──」


 セリナは一つ先払いをすると千堂を意識してか、少し硬い口調で話だした。



 ──今回は俺一人ではなく今集められる最大勢力で行くつもりだ。そこで何か異変が見つかれば良いのだが、何も見つからなくとも危なくなったら直ぐに引き返す予定だ。──俺だけの問題じゃ無い、他のメンバーの命も預かっている身だからな。ただ、出来る事なら原因を突き止めて異変を止めるつもりだ。だが、その時に俺達に何かあった時は──後は君達二人に頼みたい。本当は君達も一緒に来てもらえると安心できるのだが、冒険者ランクや、君達がまだ冒険者になったばかりの初心者だからな。少し同行は難しそうだ。


 ──まぁ、こちとら簡単にやられるつもりはないがな。他の団員を逃してでも俺一人でなんとかするつもりだ。──と、暗い話はやめにして、無事、また会えたら前、出来なかった君達二人の歓迎会件昇級会をやろう。その時にまた、会える時を心から思うよ──



「──フオン君とネロちゃんも二日後に「集団ダンジョン探索」があるそうだな。君達の事は心配していないが、気をつけてくれ』──という事をあなた達に伝えてくれと言われたわ。しっかりと伝えたからね?」


 フオンとネロに千堂からの言伝と言うものを口頭で伝えたセリナは二人にそう伝える。


 セリナに問われたフオンとネロの二人は素直に頷く。そんな二人を見ると「そっ、なら良いわ」と言うと長文を喋った事で喉が渇いてしまったからか、目前に置いてあるレモネードを手に取ると一口、口に含む。


 そんなセリナと変わる様に凛が口を開く。


「セリナちゃんに全部任せちゃったけど、うちのリーダーからフオン君とネロちゃんにそう伝えて欲しいと頼まれたの──本当は自分が直接会って色々話したかったと嘆いていたけどね」


 そう話すと凛は苦笑いを浮かべる。ネロも「千堂さんらしいね!」と相槌を打つ。


「──そうか、なら俺からは何も言わないさ。それに、言伝、わざわざ助かる」


 フオンは意外にもセリナと凛の話を素直に受け取るとお礼を口にする。その事にセリナと凛は驚いていた──勿論、ネロも驚いている。


(──やっぱり………お兄ちゃん、いや、には人との触れ合いが必要だったみたいだね。前までだったら"こう"はならなかった。でも、今は少しましに、良くなったかな?)


 ネロは内心でそんな事を考えるとフオンの成長に自分の子が成長する様な気持ちになり、とても嬉しかった。


 ネロがそんな事を一人密かに考えているとフオンとセリナが何やら二人で話していた。


「──それで?あなたは私達に何か、言う言葉は無いわけ?」

「………ふむ。そうだな──よく、あんなに長い長文を間違えずに言えたな」

「そこじゃ無いわよ!あなた、分かっていてふざけているわね?」


 フオンの言葉が気に入らなかったのか、セリナは威圧しながらをフオンの口から聞こうとしていた。近くで聞いている凛はそんなフオンとセリナの言い合い?を聞いてオロオロとしていた。


「いや、別にふざけてはいないのだが、そうだな──強いて言うなら」

「何よ?怒らないから言ってみなさい」

「あぁ、強いて言うなら──そのレモネード、美味しいか?」


 そんな的外れな事を聞かれたセリナは──


「そんな事は、どうでも、良いのよーー!!」


 ──と、叫び。立ち上がってしまった。


 周りにいた他の客達も「何かあったのか?」とフオン達の席をチラチラとみていた。その事に凛は恥ずかしそうに俯く。フオンはそんな周りの視線など気にしていないのか──「怒らないと言ったでは無いか」と不満げに呟く。


 ただ、セリナはそんな中、ある事に気付く。


 それは──


(──ッ!ま、まさか、彼は私を試してるの?でも、それしかないわよね?彼は言った──「そのレモネード美味しいか?」と。それは即ち──「そのレモネード俺に飲ませろよ?そしたら間接キスの完成だ。これで俺達も──夫婦だな?」──って事なの!?な、なんて破廉恥な男なの!?)


 ──「コレはフオンからの誘いなのではないか?」と、変な事を想像してしまったセリナは顔を真っ赤にすると絶賛勘違いしていた。その事もあってかこの、公共施設で"そんな事"を堂々と言えるフオンに戦慄していた。


 なので、セリナは──


「こ、この、破廉恥男!!あなたなんて「集団ダンジョン探索」で死ねば良いのよ!この、女の敵!!そ、それに!私には別に好きな人がいるのよ!!!──だから!あなたなんて、眼中にないのよ!!?」


 と、顔を真っ赤にしながらも支離滅裂な事を叫びフオンに伝えるとその場で直ぐに立ち、走って何処かへ行ってしまった。


「──何がなんだか全く、分からん」


 そんなセリナの突拍子な行動を間近で見たフオンの口から素直な言葉が出た。


「あ、あはは。ま、まぁ?多分セリナちゃんも何かを勘違いしてしまっただけ、じゃないかな?」

「──だと、良いがな」

 

 凛の言葉に相槌を打つとゲンナリとした顔を隠す事なくフオンはそう、伝える。そんな中、セリナを探しに行くために凛も立ち上がると、フオンとネロに顔を向ける。


「二人共、今日は集まってくれてありがとうね?ちょっと予定違いでセリナちゃんが何処かに行ってしまうと言うトラブルはあったけど………伝える事は伝えたからね?」

「あぁ、しかと伝わった。千堂さんと会ったらまた近いうちに会おうと伝えてくれ」

「分かったよ!」


 フオンと話し合った凛は嬉しそうに頷く。その後にネロと凛の二人でセリナの話で何か少し話していたが、フオンは女子の会話には興味が無いのか定員を呼ぶと深入り珈琲を頼んでいた。



 ◇閑話休題珈琲は美味



 珈琲が届いたので飲んでいたら、丁度ネロと凛の話し合いが終わったのか──「またね!」や「ネロちゃんこそ!」と抱き合っていた。そんな二人の姿を珈琲を飲みながら無言で見ているフオン。


「──ネロちゃん、その話はまた今度ね?と、フオン君、私はもう行くね」

「あぁ、早く探しに行ってやれ」

「あはは、そうだね」


 フオンと凛は一言、二言話すとそのまま別れた。


 ──ただ、凛が走り去って行く前にフオンがある事を伝える。


「──諸星さん、そう言えば伝えてないことが一つ。いや、二つ程あった」


 レジまで来ていた凛はフオンの声が聞こえたからか、振り向く。そんな凛に──


「その、お前達も「東京ダンジョン」の探索、頑張れよ。と、今日の服装、いつもと違って似合っていたぞ?勿論いつもの装備もだがな──それだけだ。引き止めて悪かったな」


 フオンはぶっきらぼうにそんな事を凛に伝える。ただ、凛は始め何を言われたか分からなかったが、次第に顔を真っ赤にすると──


「う、うん!頑張るよ!ありがとう!!セリナちゃんにも伝えときゅ!!!」


 と、言葉を返し。その場を急いで走って行ってしまった。──噛んでいた様な気がしたが、フオンは気にしていないのかそのまま珈琲を飲んでいた。


 隣で聞いていたネロは──


「ハァ、コレだからお兄ちゃんは。プレーボーイも程々にしなよ、本当」


 と、やれやれと首を振っていた。




 





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