第61話 仮冒険者④




 「ふ〜みや〜」の店内は赤と白を基調で女性が好きそうな可愛らしいデザインの内装だった。店内は小綺麗にされて清潔さが久々と感じられる。普通の喫茶店と同じで観葉植物が置かれたり、雑誌などが置いてあったり、何処にでもある喫茶店だ。


 ただ、少し普通の喫茶店と違うところといえば──冒険者専用の装備置き場があったりソファーは一つも無かったりする事だろう。席にはそれぞれ椅子やテーブルが置いてあるが「ネコカフェ」だからかネコが椅子やテーブルの足の間を通れる様にどれも足が長い物になっていた。


 ──フオンの目線の先でもネコが喫茶店内なのに闊歩していた。──まぁ、「ネコカフェ」なのでそれは当たり前なのだが。しっかりとネコと触れ合う広場も設けられているらしいが殆どの人々が自分の席に座りネコと戯れていた。


「わぁぁぁぁあーーー!!ネコだ!ネコだぁ!!ネコだあっ!!!」

「…………」


 そんな風景をネロは羨望の眼差しを向けて声を高らかに喜び。フオンは無言でネコを見ていた。2人は正反対な感情で見ていたが、暫し見ていたと思うとネロがそのまま目の前を通りかかった女性の店員に話しかける。


「──あぁ、お客様のお待ち合わせのお方なら窓際の席に座ってますよ」

「分かりました!ありがとうお姉さん!!」

「どういたしまして!」


 ネロと女性の店員は少し話すと話し終わったのか笑顔で別れた。場所を聞いたネロは背後にいるフオンに振り向く。


「お兄ちゃん!場所が分かったから行くよ!!────何やってるの、お兄ちゃん?」

「………俺が、聞きたい」


 ネロが振り向くと──何故かフオンの顔や身体中に数匹のネコ達に纏わり付かれていた。それは正にネコ塗れ状態だった。そんな纏わり付かれたままでいないでネコ達を退かせれば良いじゃないかと思うかもしれないが──これはフオンなりの配慮なのだ。


 何が配慮なのかと言われたら、無駄な殺生をしない為だ。ネコ達は小動物だ。そんな小動物に半分の力を封印しているからと言ってフオンがネコに触れようならば──考えたくもない事が起こる。


 そんな悲惨な事が起きない為にもフオンは少しも身動ぎをする事なくジッとしていた。正直に言うとここふ〜みや〜に来たくなかった理由はネコとの触れ合いも多分に含む。


「──お兄ちゃん。ネコ達を救助するからまだジッとしていてね?」

「分かってるから、早く頼む」


 その後は「なぁ〜なぁ〜」鳴いているネコ達をネロとフオン達に気付いた店員達が駆け寄り救助していた。ただ、何故かフオンからネコを取り上げる際に女性の店員達がフオンの身体を必要に触ってきたのだけが気になった。


 それ以外は特に何もなく、無事にネコの救出が終わると先程ネロが聞いた席まで歩いて行った。



 ◇閑話休題俺は悪くない



 フオンとネロは待ち合わせの席まで漸く来ていた。そこに待っていた待ち人とは──


「──漸く来たようね。それにしても少し、遅いんじゃない?それに──5分前行動も出来ないのかしら?──フ・オ・ン君?」


 橋本セリナがテーブルに頬杖をついて何故かフオンだけを睨むとそう少し威圧的に声をかけるのだった。


 そんなセリナに対してフオンは──


「──俺達は──「!遅くなってごめん!ちょっと店内に入ってからトラブルがあってさ!──ね?お兄ちゃん?」………そうだな」


 ──何かを伝えようとしたが、フオンが何か口を挟む前にネロが話に割り込むと話しかける。逆に質問されたフオンはただ相槌を打つ事しか出来なかった。


 そんなフオンを他所に席に着いている先客に気心しれた感じにネロはフレンドリーに名前呼びで話しかける。ネロが声をかけた通り、席に着いていたのは──橋本セリナと諸星凛の2人だった。


 この二人とネロは前回のフオンと千堂の模擬戦の後に行った"スイーツ巡り"で出会ってからとても仲良くなっていた。セリナはを否定していたが、同じ狢と言うこともあり現在進行形で三人はとても仲良くしていた。


 そんな二人共、今は動きやすい私服姿だ。セリナは白色のニットを着て下は灰色のハーフパンツの清楚感溢れる服装だった。逆に凛は肌色のポンチョコートを着て、下は黒色のロングスカートを履いていた。ただ、凛が着ると身長のせいか子供が大人の真似をしているようにどうしても見えてしまうが──コートを盛り上げるある一点お胸さまを見れば子供ではない事が分かる。


「良いよ〜多分さっきまで奥の方が騒がしかった件でしょ〜?フオン君がネコちゃんにでも絡まれたの?」


 ネロに返事を返したのは凛だった。返事も何処か的を得ている返答で言われたネロは苦笑いを浮かべる。


「あはは、凛の言う通り、お兄ちゃんが目を離した瞬間にネコに絡まれていてね」

「やっぱりか〜フオン君、ネコちゃんに好かれてるね?」


 ネロと話していた凛は納得と言う様な顔をすると顔をフオンに向け、そう聞いた。


 聞かれたフオンは──


「好かれてるかは知らんが、ネコは──苦手だ」


 と、難しい表情を浮かべるのだった。


 そんなフオンを見ていたセリナは少し小馬鹿にした様にフオンに突っかかる。


「何よ、あなた?あんなに愛くるしくて可愛いネコが苦手なの?──案外、ダサいのね」

「…………」


 セリナににそんな事を言われたフオンは本当のことなので何も言い訳をできず、難しい表情を作るとただ、無言になった。そんな二人の会話を聞いていたネロは脱線してもアレだと思ったのか二人の間に入り今回、ここ「ふ〜みや〜」に集まった本当の目的を話し合う事にした。


「あ〜はいはい、二人共。今はそんな話はやめて今回、ここに集まった目的を話すから、まずは席に着いて、一度落ち着こうか?」

「そうだね。ほら、フオン君も座って、座って!──セリナちゃんも高圧的に絡まないの!」


 ネロと凛に言われたフオンは渋々、既に席についているネロの隣の椅子に腰を下ろす。凛に指摘されたセリナは「べ、別に高圧的になんか話して無いわよ!」と言い、そっぽを向いてしまったが一応、聞く体制をとってくれているのかネロの方をチラチラと見ている。


 そんなフオンとセリナを見てネロと凛は苦笑いを浮かべていた。


「よし、じゃあ、話をしようか。お兄ちゃんはなんとなくはここに来た理由は休日を休む──だけの為じゃ無いと分かっていると思うけど僕から話すね?」

「あぁ、頼む」


 ネロの言う通り、ここ「ふ〜みや〜」に来た理由は別にあると初めから思っていたフオンは相槌を打つだけで特に何も言わない。


 そんなフオンを一瞥したネロは一つ頷く。


「──まず、僕達が今回ここに集まった理由は──セリナと凛が所属する「夕凪の日差し」がこの頃"何かしら"の異変が起きている「埼玉ダンジョン」に二日後に潜る。その際にセリナ達からある話を僕達に伝えると言っていたから、集まることにした」


 ネロが話すと、セリナと凛も同意する様に頷く。聞いていたフオンは「そうか」とただ呟く。


「──うん。それで、僕達も同時期の二日後に「集団ダンジョン探索」があるから話し合うのは一石二鳥だと思ってね。暫しの別れの挨拶も込めて集まったのさ。お兄ちゃんも知ってると思うけど前々から話そうと思っていて、その事についてセリナと凛とさっき通話で話して決めたんだ」

「──そうか。だが、初めからその通話で全て話してしまえば事、足りたんじゃないのか?俺に話さず、ここに連れてきたのは俺が逃げると思っての事だと思うしな」










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