第60話 仮冒険者③
「──何か、
行きたくはないが、ネロにあっさりと却下をされてしまったからか一応理由だけでも聞いてみようと思ったフオンはそう問い返した。
万が一でももしかしたら
聞かれたネロは──
「んんー?特に深い意味はないよ?」
「──おい」
何も無いとは思っていたが、あっけらかんとした顔で言いのけるネロにフオンは軽めにツッコミを入れてしまった。
そんな二人の会話を間近で聞いていた蔵はこのままじゃまた二人の
「まぁまぁ、フオン君。「C」ランクの昇級前祝い又は昇級合格の為の景気祝い、とでも思えば良いんじゃないかな?」
「………そう言うものなのか?」
今、正にフオンが何かをネロに言いそうになっていたが、蔵の話を聞いたフオンは一旦ネロから視線を離すと蔵に顔を向けてそんな事を聞いたきた。蔵の事を信用しているのか不審には思っていない様だが、疑問には思っているらしく、フオンは蔵にそう問い掛けた。
蔵は兄妹喧嘩を止められた事に安堵をしたかったが、今はフオンの疑問に答えるべく口を開く。
「あぁ、ネロ君の肩を持つつもりではないけど。ほら、この頃君達は連日と「ダンジョン」に潜りっぱなしだったから少しは羽を伸ばした方が良いんじゃないかな?と思ってさ」
「──別に、羽を伸ばすほど疲れてはいないからそんなものは不要だが」
「そ、そうか」
蔵の言葉を聞いても尚も断る方向でフオンは話を進めようとしていた。
その事に蔵は「まいったね、どうしたものか」と自慢のアフロを掻きながら内心思っていると今回の話の首謀者でもあるネロが話に加わってきた。
「ごめん、お兄ちゃん!僕も少しふざけてたってのもあるけど──蔵さんの言う通り連日「ダンジョン」に潜りっぱなしだったから疲れちゃってさ。たまには休みたいなぁーと思っていたんだけど、上手く言えなくて………」
話に加わってきたと思ったらそんな事を申し訳なさそうな顔を作るとフオンにネロは伝えてきた。
そんなネロの話を聞き、暗い表情を見たフオンはこちらも申し訳なさそうな顔で謝ってきた。
「──すまない。気付かないうちに無理をさせ過ぎたようだな。そうだな、どうせ2日後に「集団ダンジョン探索」があるのだからその間は、フリーにでもするか」
「………本当!!ありがとうお兄ちゃん!!!」
フオンの話を聞いていたネロは花が咲いたように満面な笑顔になるとフオンにお礼の言葉を掛けた。
「いや、良い。俺もたまにはのんびりとでもするからな」
そう言うとフオンは「ふっ」と少し苦笑いを浮かべていた。──ただ、そんなフオンの言葉、表情を見たネロは一瞬下を向くと──「………チョロ」とボソッと呟くのだった。
そんなネロの不自然な行為に目敏く気付いたフオンはネロが呟いた言葉が聞こえなかったながらも聞き返す。
「ん?今、何か言ったか?」
「んーん、何も言ってないよ?お兄ちゃんの空耳じゃない?」
本当か嘘か分からないようなニコニコとした笑顔を顔に貼り付けたネロはフオンにそう返す。
「──そうか。まぁ、いい。じゃあ、ネロが行きたいと言っている所でも行くとするか」
あまり気にしてないフオンはそれ以上の追求はする事なく面倒臭い事は早目に済ませるのが良いと思ったのかネロに声を掛けた。
「やったー!今から行こう!さぁ、行こう!!「ふみゃ」のデザートは美味しいしネコちゃん達が可愛いから良いんだよね〜──蔵さんもお兄ちゃんを説得してくれてありがとね?」
「いや、良いさ。君達が険悪な雰囲気にならなくて良かったし」
ネロに話しかけられた蔵は素行を崩すとそう伝える。フオンからも蔵に「また、助かった。今回も巻き込んですまない」と謝っていた。そんなフオンに「良いさ、慣れたからね!」と穏やかに答えていた。
周りで聞いていた人達も蔵と同じように「険悪な雰囲気にならなくて良かった」と嬉しそうなネロの姿を見れて笑顔を浮かべていた。
(──あぁ、焦った。本当に一瞬焦ったよ。お兄ちゃんは感が鋭いからやになっちゃうよ。まぁ、今回は蔵さんのお陰でなんとか難を逃れたけど、他にやりようはあったから別に焦るほどでも無いんだけどね〜僕もまだまだだね)
──ネロは内心そんな事を考えるとやはり何か良からぬ事を考えていたのかフオン達に気付かれないようにほくそ笑んでいた。
そんなネロの様子に気付かないフオンは──
「──じゃあ、蔵さん。俺達はこの後用事があるからお暇させてもらう」
──蔵と別れの挨拶をしていた。
「あぁ、次会えるのは──「集団ダンジョン探索」が終わった後かな?まぁ、また顔を出してくれれば良いよ。試験、がんばってね?」
「あぁ」
蔵の激励に短くながらも確かに返事を返すとフオンは踵を返した。そんなフオンについて行くようにネロも歩き出すと蔵に手を振っていた。
そんなネロに蔵は片手をあげて答えていた。
◇
フオンとネロの2人は冒険者協会を後にした後、話し合った通りネロの御所方の「ふ〜みや〜」通称「ふみゃ」まで来ていた。
「ふ〜みや〜」の外装は何処にでもありそうな茶色や白を基調とした喫茶店だ。しっかりと看板にも『カフェ ふ〜みや〜』と書いてある。
──ただ、来たは良いが、店の前に沢山の人々が並びお店になど入れない状態だった。因みに並んでいる人はほぼ全員が女性だった。
そんな並んでいる女性達はフオンとネロが来た事により「きゃっーー!!」と何故か歓声が上がっていた。──主にフオンに顔を向けながら。
そんな歓声を上げられているフオンはそちらに取り合う事はなく人の量にゲンナリとしていた。
「………ネロ。本当にここに入るのか?必ず行くと約束するから明日じゃ、駄目か?」
「駄目だね」
「──そうか」
ネロに即答されたフオンは渋々ながら列の最後日に並ぼうとした。だが、そんな時ネロに止められる。
「お兄ちゃん、何処に行くの?」
「何処にって、列に並ぶのでは無いのか?実際こんなに並んでいるわけだし」
目の前の人々の滂沱の様な列を見たフオンは伝えた。伝えたつもりだったがネロは首を振る。
「いや、今回は僕達は並ばなくても大丈夫だよ?先客が先に席を取っていてくれてるみたいだからね」
「………そうか」
ネロにそう言われたフオンはただ、相槌を打つことしか出来なかった。ただ、そんな中、何か嫌な予感もしていた。
(──そう言えば、ここに来る前にネロは誰かとスマホで通話をしていたな。その相手が誰で、何を話していたのかは分からないが──恐らく今言っていた先客なのだろうな。だが、何だ?何故嫌な予感がする?……行きたくは無いが、引き戻しもできない……か)
そんな事を内心で考えるフオンは嫌な表情はあまり表に出さない様に努め、出来るだけ平常心でいるように心掛けた。これから会うであろう人物に揶揄われないために。
それにフオンが言うように「ふ〜みや〜」に来る間に念のために渡していたスマホを使い誰かとネロは通話をしていたのだ。なのでその相手と待ち合わせをしていたのは分かる。ただ、なんとなくこれから会う相手が分かっていたフオンはポーカーフェイスをしながらも──隠しきれない微妙な表情を浮かべていた。
そんな事を気付かないネロはフオンを促す。
「じゃあ、遅くなってもアレだから早速中に入ろうよ!」
「分かった」
ネロに話を振られたフオンはうだうだ考えるのを辞め、決意を決めてネロの後について行き店内に入った。
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