束の間の休息
第58話 仮冒険者①
◆
フオンとネロの二人は千堂が上にしっかりと話を通してくれたからか、あの闘技場でのドタバタの後ちゃんと冒険者ランクが「D」ランクとなった。
ただ、千堂はフオン達と色々な話を、歓迎会などをしたいと思っているようだが、今ここ「東京支部」の管轄の一つの「東京ダンジョン」で何か異変が起こっているらしくそちらに繰り出されている為に時間が無いと
その時に「ダンジョン」の異変の話をフオンとネロは聞いた。
内容は、何故かこの頃になって初心者〜上級者関係なく「ダンジョン内」からの生還する冒険者が少ないとの事だ。
千堂から言わせると「冒険者は死と隣り合わせの世界なので生還する人が少ないのはおかしいことではないが、この頃は少し度がすぎているように感じている」との事だ。その話を聞いたフオンとネロはある事と繋がるように感じていた。
──それは、俺達が追っている「ダンジョン」の異変が原因ではないのかと言う事だ。
ただ、俺達はまだ「D」ランクに昇級したばかりで何も出来ない事にもどかしさを覚えた。実際今の現状は何も出来ない為「ダンジョン探索」をなるだけ進めて次の「C」ランクへの昇級の為の「集団ダンジョン探索」を待ってる状況だ。
まぁ、常識を無視して強行突破をしてしまえば良いと思った。が、それでは流石に目立ち過ぎると思った。なので地道にランクを上げる事にしたのだが──今でも既に目立っているのでこれ以上は勘弁と──思っている。
「──これで漸く100個目のクエスト達成だな………」
「だね、後は協会側からの「C」ランク昇級の為の連絡を待つだけだねぇ〜」
冒険者登録をしてから4日程経った今、そんな事を「ダンジョン探索」を終えた二人は「ダンジョン」の中だと言うのに呑気に話しながら帰路についていた。
そんな中、フオンはネロの言葉に頷いた。だが、少し険しい表情を作る。
「………ただ、俺達が「C」ランクになったとしても規定の15階層までしか降りる事が出来ない。もし、その異変が最下層で起きているとしたら──千堂さん達に任せるしか、無いのか」
「あぁーー、そればかりはしょうがないよ?規定は規定だし。それにこれ以上目立つのはお兄ちゃんも本意じゃないでしょ?」
「そう、なのだがなぁ」
それでも俺には納得がいかず、未だに難しい顔を作ってしまった。
そんな時、フオンとネロが歩いている8階層の通路で「きゃー!!」という絹を裂くような女性の声が響いた。
気になったフオン達はそちらを見てみたら──一つの冒険者パーティが人の身長程の大きさがあるアリ型の魔物の大軍に今、正に襲われそうになっている所だった。
その場面を見たフオンは──
「──鬱陶しい。── 裂け──「
そう呟きながら右手の薬指を対象のアリ型魔物に向けるとただ、無造作に振った。
フオンが右手を素早く振った事により発生した真空の刃は冒険者達に当たることはなく、その先にいるアリ型の魔物の大軍の頭部を裂き、足、手、動体を──全てを裂き、一瞬で殲滅した。
『『『ギッシャァーー!!』』』
アリ型の魔物は裂かれてから数秒経つとそんな断末魔を叫ぶと動かなくなった。
目の前で今、起きた事を理解出来ていないフオンに助けられた冒険者達は呆然とした顔をして
その横を何も無かったかのように飄々と灰色のロングコートを翻しフオンは何も干渉をせずに歩いていく。その後を魔物の残骸を突きながら着いていくネロ。
ただ、本来なら「スキル名」など言わなくても良いのだが、自分が「
ただ、フオン達が横を通った事により今、起きた事を漸く理解出来た冒険者達は既に遠くなっているフオンとネロの背中に向けて口々にお礼の言葉をかける。
『ありがとう!【シュトレイン兄妹】!!』
『凄え!間近で見ていたけど何をやったか全く見えなかった……アレが【
『妹ちゃんも可愛かったけど、やっぱりフオン様よね!』
『わかるわぁ〜!他の子達に自慢できる!』
冒険者達の言葉の中には【シュトレイン兄妹】や【
ネロが初め、もしかしたらシュトレイン兄妹などと呼ばれるかもと巫山戯ながら言っていたが──それが実現した。
その事にネロは苦笑いをして、フオンなどは呆れて何も言えなかった。
ただ、フオンとネロはお礼を言われてそれを無碍にする事はなく──
ネロは背後を振り向き手を振り、フオンは背を向けながら右手を少し上げていた。
その事に男性陣はネロの愛くるしさに胸を射抜かれたのか皆一様に胸を抑えるとその場で蹲る。女性陣はフオンのクールな仕草に「キャァァーー!!」と魔物に襲われた時よりも大きな黄色い歓声を贈っていた。
そんな状況を見ていた二人は。
「………お兄ちゃん。また、目立っちゃったね?」
「………しらん」
ネロの言葉に面倒臭そうにフオンは答えていた。
ただ、ネロの言う通りにフオンは意図せずに目立ってしまった。
身バレ防止の為に目立たない事を誓ったフオンだったが──千堂との模擬戦で目立ち。「スキル」を一つも使わないで「S」ランク冒険者を圧倒した事で目立ち。今の様に「ダンジョン」で危ない目に遭いそうになっている人々を度々助ける事で尚、目立つのに拍車を掛けていた。
別に人に褒められたくもないし目立ちたくもないのだが、危ない目に遭っている人々がフオンの目に入ると──ここで何もしなければ後々目覚めが悪いと思ってしまい勝手に身体が動いてしまい、助けているのだ。
ただ、それが功を成してはいけないのだが、男女問わずフオン達はあの冒険者登録から人気が爆増して今ではここ「東京支部」では知らない人が居ないほどだ。
それのお陰か「C」ランクになるために必要な人々からの好感度・貢献度を貯める事が出来たので一石二鳥ではあるのだが、フオンは納得がいかないと思っている。それはそうだ。当初、目立たない(自分が幸太だと身バレしない為)為に中立な存在に徹しようとしていた筈が今ではこの有様だ。
そんな二人は、助けた冒険者達の相手も程々にして「ダンジョン探索」が終わった事を冒険者協会に報告する為に帰路に着く。
◇
冒険者協会に戻った二人は案の定、フオンとネロを見つけた人々に囲まれていた。
「今日は何を討伐したんだ?」や「武勇伝を聞かせてくれ!」などと声をかけられている。中には「ふ、フオン様、連絡先を教えてください!」や「ネロちゃん、僕とで、デー……でゅふふ」と明らかにヤバイ連中も混ざっている。
「………今は急いでるから、前を開けろ」
「ごめんねぇ〜?僕達急いでいるんだ〜?お話はまた後でね〜?」
人々を無難に裁く二人。
そんな中、この頃声を良く聞く男性に声をかけられる。
「よっす!二人共。今、戻りか?さっき副協会長が探していたから受付に行ってみるといいぞ?」
人懐っこい顔を向けながら二人に話しかけてきた。
「──
「かもねぇ〜?登君、教えてくれてありがとね!」
「おう!気にすんな!」
二人に登と呼ばれている男性はそう笑顔で快活に返事を返す。
この登と言う男性は前回の千堂との模擬戦で途中にフオンに絡んだ男性だ。名を
今は前回の険悪な雰囲気は無く、逆に仲良さげに話している。あれからはこの三人で話す事も多くなり名前で呼び合う程になっている。
登に有難い情報を貰った二人は「ダンジョン探索」の件も伝えると共に蔵がいる受付まで歩いていく。その短期間の間に他の受付嬢がなぜか胸を寄せて見せる様にしたり、投げキッスをしたりしてくる──フオンに。
それらにフオンはあまり気にしていないのか無視するとそのまま素通りして蔵がある受付に向かう。
その時に、ネロがわざとフオンの腕に身を寄せる様にして受付嬢に見せつける様にする。それを見た殆どの受付嬢は──「ムキッー!」とでも言いたげな表情でネロを見ている。
そんなネロと受付嬢達の謎?の攻防があったが無事、蔵が待つ受付に着く。
「おっ?二人共今帰ったか。丁度良かったよ、君達に良い報告が、あるからね?」
フオンとネロに気付くといつもと変わらないアフロ姿にサングラスという奇抜なファッションをしている蔵は、笑顔を向けるのだった。
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