第56話 模擬戦の終息③
「──何だ?何か、あったのか?そもそも奴らは誰だ?」
「さぁ?僕達は知らないね〜」
フオンとネロの二人はそう話し合っていると、他の人々は知っている様で声を掛けたり手を振ってたりしている。
そんな中、千堂も気が付いたのかその男女の方に身体を向けると声を掛けた。
「おう!お前達戻ったのか!でもそんなに急いでどうしたんだ?探し人が見つかったのか?」
何も分かっていない千堂は普段通りに陽気に声を掛けたのだが──
「──違います。それも勿論大事な事ですがリーダー!「東京ダンジョン」の件は上に連絡したのですか?協会長から聞いてきてくれと連絡があった為「隠しダンジョン」での探索を一旦辞めて戻ってきたのです。それで?──どうなんですか?」
子供が聞けば泣いてしまうであろうぐらいの圧、ガンを付けられながら鎧ドレスの少女に問われた千堂。問われた千堂は──フオンと闘っている時と同じぐらいの脂汗を流していた。
冒険者協会に戻った千堂は直ぐにフオン達と接触した為、今さっきまで完全に報告をする事を忘れていたのだから。
「あぁ、えっとお?そのー──な?」
なので何も言い訳が出てこない千堂は情けない姿を衆人の元、見せていた。
フオンと闘う際に「みっともない真似は見せられない」と啖呵を切った千堂は何処に行ったのやら──
自分より倍も年下のはずの鎧ドレスの少女に対して口籠る千堂の姿は「S」ランク冒険者を感じさせない程で。今はどこからどう見ても残念なただのおっさんに成り果てていた。
そんな萎え切らない反応の千堂に苛ついたのか鎧ドレスの少女は詰め寄り問い詰める。
「ハッキリと、言って下さい!!」
「お、おぅ。分かったからそんなに叫ばなくても………」
鎧ドレスの少女に怒鳴られた千堂はおっかなびっくりとしている。
そんな千堂に鎧ドレスの少女は「はぁ………」とため息を吐いていた。
千堂が追い込まれている間にフオンとネロは蔵から今、千堂と話している人物達の説明について話を聞いていた。
「フオン君とネロちゃんの二人は知らないかもしれないけど、今千堂さんと話している彼女及び他の三人は千堂さんが率いるここ「東京支部」のトップパーティの「夕凪の日差し」のメンバーだよ?」
「──そうか。まぁ、俺達は今後関わりは無いと思うからそれ以上の情報はいらんが」
蔵からそんな話を聞いたフオンはどうでも良いのか千堂のパーティメンバーに顔を向ける事はなくソッポを向いていた。
出会った時から変わらないフオンの態度に蔵は「あはは、君はブレないなぁ」とフオンの態度を別になんとも思っていないのか朗らかに笑っている。
「はぁ、蔵さん。お兄ちゃんはこんな性格だからさ?」
「あぁ、分かってるさ」
「………ふん」
フオン達がそんなたわいもない話をしていたら、千堂達の方は何故かただの話し合いがヒートアップしていた。
「──貴方って人は!この「東京支部」の冒険者協会のトップ冒険者なんだからもっとトップらしくして下さい!何を初心者冒険者の教官役など務めているのですか!協会長への報告を忘れて!!」
「わ、分かったから。少し落ち着けって──な?」
「これが落ち着いてられますか!こんな事で「ダンジョン」の探索を中断させられたこちらの身にもなって下さい!それに、初心者冒険者の対応は他の人に任せれば良いんですよ!初心者冒険者──なん──て?」
そう言いながらも千堂に先程まで怒鳴っていた鎧ドレスの少女が初めてフオン達の方に顔を向けると──何故か言葉を止めてしまい動かなくなってしまった。
その事に千堂も「どうした?」と思っていたので先程まで怒鳴っていた鎧ドレスの少女の視線の先を見たら──フオンの達の姿があった。
何故かその鎧ドレスの少女は見ず知らずのはずのフオンの顔をロックオンしながら顔が真っ赤になっていた。それは首から上を全て真っ赤にする程だった。
その様子を見ていた千堂は何かを理解したのか「──ははぁーん?」と小声で呟くと鎧ドレスの少女とフオンの顔を交互に見てイヤらしい顔を作った。
「──お兄ちゃん?あの女の子に、何かやったのぉーー?」
千堂が何かを感じていた同時期、ネロも鎧ドレスの少女がこちら──フオンの顔を見て顔を真っ赤にしている所を見たネロは鷹の目の様に眼光を鋭くすると隣にいる兄、フオンに問いかけた。
問い掛けられた本人は──
「──いや、知らんが?そもそもあの女となどあの「ダンジョン」から出た後一度たりとも会ったことが無いのだから俺が何かを出来るわけがないだろう………」
何も知らないのかネロに返事を返した。
「──ふーん?一応、本当に──一応。妖精眼で見たけど嘘はついていないみたいだねぇ──でも何かこう、引っかかるんだよね〜」
「──知らん。それに人前で無駄に妖精眼など使うな」
「分かってるよ〜」
二人はそんな風に兄妹?らしく会話をしていた。
ただ、フオンの顔を見て動きを止めた鎧ドレスの少女は違かった。顔を真っ赤にしながらも驚きを隠せない顔をしながらフオンの元までゆっくりと歩いてきていた。その際もフオンの顔からは視線を動かさなかった。
その事に周りで見ていた人々はどうしたのか様子を見ていることしか出来なかった。あと、1メートル程でフオンの元へと近付けると言う時にその鎧ドレスの少女は口を開く。
「そ、その間違っていたら申し訳ないのだけど──もしかして、貴方は幸「やっと現れた、私の王子様ーー!」──へ?」
鎧ドレスの少女が何かフオンに向かって言葉を紡ごうとしたその時、自分のパーティメンバーの女性の内の一人が鎧ドレスの少女の言葉をかき消すと大声を出してフオンの元へと突進した。
突然の事で鎧ドレスの少女も話を中断してしまった。そんな中でも鎧ドレスの少女の言葉をかき消した張本人──小学生の様な小柄な女性が身長とは不釣り合いな長い艶のある黒髪を揺らしながらフオンの元まで近付くと──そのままの勢いでフオンの胸に飛び込んだ。
『──は?』
その様子を見ていたネロと鎧ドレスの少女は声をハモせると、何故かドスの効いた声を出してフオンの胸に飛び込んだ女性を親の仇でも見るかの様な目で凝視していた。
「──おっと。この女は、誰だ?」
そんなネロ達の事など気にもしていないフオンは自分の胸に飛び込んで来た小柄の女性を受け止めた。その時にその少女?女性?の黒髪が宙を幻想的に舞ったがフオンは出来るだけ髪を傷つける事なく配慮をしていた。
別に自分へと敵意を向けてきたわけでは無かったのと、女性を無碍に扱うのも感じが悪いと思ったフオンは紳士的に振る舞った。
ただ、そのフオンの行動がお気に召さなかったらしく──フオンとフオンの胸に飛び込んだ女性の事を般若の様な表情を浮かべながらネロと鎧ドレスの少女は交互に見ている。
「お前は、誰だ?」
あまり物事に動じないフオンは今もまだ自分の胸の中に収まっている小柄な女性に声を掛ける。
声を掛けられた女性は可愛らしい顔を上げて目をうるうるとさせると口を開く。
「君は、私の王子様なの。人目見た時に気づいたの──私の、王子様だと!」
「はぁ?」
流石のフオンでもその理解に苦しむ内容にそんな言葉を返してしまった。
女性の話を聞いていたネロと鎧ドレスの少女は唖然とした顔でフオン達を見て、周りで聞いていた野次馬に成り果てた人々も驚きながら見ている。
ただ、千堂だけは「良いぞ!もっとやれ!!」と言うようにフオン達の行く末を楽しそうに、子供の様に見ている。そんな千堂を見た他のパーティメンバーと蔵は呆れていた。
そんな中、フオンと女性は話を続ける。
「君が驚くのも分かる。でもこれは私の初恋であり、一目惚れでもあるの。私と──付き合って、くれる?」
「いや、いきなりそんな事を言われてもただ困るのだが………」
本当に困っているのかフオンは難しそうな表情を作ると自分と付き合いたいと言ってくる見ず知らずの女性を困った様に見ていた。
見られている女性はフオンに直に見られた為か照れた様に顔を手で覆うと頬を染めていた。
「………そうだよね。私と君は初めて今日会ったのだものね。でも恋に、恋愛に時間は関係ないと思うの。付き合った後にでも仲を深めれば良いのだし──だから、どうかな?」
「──はぁ、少しアンタも落ち着け。それも付き合う云々の前にまずは自己紹介が先だろ。だから、一旦離れろ」
フオンはそう言うと未だに自分の胸に収まっている女性を優しく抱き上げるとそのまま地面に下ろした。
その時に女性は「きゃっ!」と声を上げたが、フオンにただ地面に下ろされただけだと思いホッとすると顔をフオンに向けた。
「優しく下ろしてくれてありがとう。君は、優しいのね?」
「──別に、そんな事は無いが」
ただ、そんなフオンの言葉に「可愛い」と言いながら女性はクスクスと笑っていた。笑いながらも自身の身嗜みをその場で少し整えるとフオンに顔を再度向ける。
「君の言う通りに私は少し、先走ってしまったの。まずは、自己紹介だよね。私の名前は
そう自分の事を"諸星凛"と名乗る女性は自己紹介をすると小柄ながらも異様に大きい胸を揺らしてフオンに微笑んだ。
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