第55話 模擬戦の終息②



「──まぁ、驚くのも無理は無いだろう。今の俺からはそんな雰囲気は微塵も見えないだろ?」

「あ、あぁ。お前からはそんな雰囲気はないな、冗談だろと言いたいが………本人がそう言うなら本当の事なんだろ」


 そんな物分かりが良い男性の言葉にフオンは少し笑みを見せた。


 無表情がデフォルトのフオンの珍しい表情変化を見た受付嬢から黄色い奇声が上がっていたが……今は聞かなかった事にしてフオンと男性は話し続けた。


「──俺が言いたいのはそんな俺でもここまでの強さを手に入れる事が出来た。だからお前のその知り合いも亡くなっておらず強くなっている可能性がある。だからあまり思い込むなという事だ。俺はそいつの事は知らないから上手い事は言えないが──お前が生存を信じてやれ」

「──おう。でもその、初め変な絡みをしてしまって本当に!悪かった!!」


 そう言うと男性は深く、深く頭を下げた。

 

「いいさ、お前にも何か譲れない事があったのだろ?ならこれで帳消しだ。俺もそんなに気にしてないからな」


 フオンにそう言われた男性は「こんないい奴に変な絡みして馬鹿みてぇ」と苦笑いしていた。


(いい奴、か──俺はそんな大層な人間では無い。俺はもっと──)


 フオンは内心でそう考えながらも何も余計な事を言わなかった。そんな二人の元に一応審判役である蔵が近付いてきた。


 蔵の後ろでは「喧嘩にならなくて良かった!良かった!」と笑っている千堂の姿もあった。


「二人共一応話はついたみたいで良かったよ。ただ、模擬戦はどうする?なんか色々とあったから正直なところ判断が付かなくてね………教官役の千堂さんからはどうかな?もう模擬戦は終わりにしますか?」

「おう!もう嫌と言うほどにフオン君の力量は見せてもらったからな!正直に言うとフオン君の本気も見てみたい気持ちはあるが今は辞めとくは──正直に言うと怖いからな!」

『『『それは言えてる!!』』』


 そんな千堂の言葉に周りで聞いていた人々は笑っていた。


「──それが賢明な判断だろう。俺が少し本気を出せばこの闘技場など一瞬で跡形もなく消えるからな」


 そのフオンの話を聞いたその場にいた皆は少し萎縮していた。それもそうだ、多分というか恐らく本当にフオンが今言った様になるのだから。


 それ程までにここにいる人々にはフオンの強さ、恐ろしさというの何今回の出来事で既に植え付けられていた。


「そ、そうか………」

「──フオン君、頼むからやめてね?」


 聞いていた千堂と蔵も少し引いていた。


「──安心しろ。俺から本気を出す様な事は無いからな」


 その話を聞いた人々は心から安堵の表情を浮かべていた。


「まぁ、この話はいいとしてだ。今回の模擬戦にてフオン君及びネロちゃんは俺から冒険者ランク「D」ランクへのランク上げの話を上に報告しとくわ。フオン君は冒険者ランクを早く上げる気は無いと言っていたがランクが上がって良い事があっても悪い事は無いからな!「C」ランクに上がるには少し厄介な事を挟むが──俺も通った道だ。でも君達なら余裕だろ?──まあ、二人共頑張れよ?そして暫定「D」ランク昇級おめでとさん!」


 そんな千堂の言葉を聞いた人々は口々にフオンとネロの周りに集まるとお祝いの言葉を投げかけていた。


『マジでおめでとう!本当に凄かったわ!妹のネロちゃんは当然だけどフオン君はやべえわ──でもとにかく凄かった!』

『本当におめでとさん!これでこの「東京支部」も安泰だな!というかあの千堂さんを軽々とあしらうフオンは一体何者だよ──他の「S」ランク「SS」ランクも勝てなかったりして………』

『まぁ、それはそのうちわかるだろ?それよりもこの協会に3人目、4人目の最速ランカーが誕生したのが喜ばしい事だな!!』


 そんな風に周りの冒険者達は称賛の言葉を贈りながら話し合っていた。


 因みに殆どの受付嬢達はフオンの担当受付になれなくて内心ガッカリしていた。受付を変わってなど副協会長の蔵に言えるわけもなく、アドバイザーの座は諦めていた。


 ただし、フオンの彼女役あるいは妻役として皆は狙っている。冒険者は死と隣り合わせの職業なのでおすすめされていないはずだが……これとそれとは違う。フオンはどう考えても他の冒険者との強さのレベルが違う。それもイケメンの上強いという最高な優良物件だった。そんな男を逃すわけもなく──


 ただ、受付嬢達は知らない。妹だと思われているネロが実は妹ではなくずっとフオンの事を狙っている淫獣である事を──


 そんな中、何も知らないフオンとネロの二人は称賛の言葉を断ることもなく受け取っていた。


 初めは断る気でいたフオンだったが、昔の知り合いである男性冒険者の話を聞いたら何かどうでも良くなってしまった様な感情が浮かび、今は流れに身を任せる事にしていた。


「よし!話も無事纏まったな!ちと早いかもだが──今からフオン君とネロちゃんの歓迎会及び昇級会を戻ってやろう!」


 その千堂の言葉に皆は──


『宴だ!宴!!』

『シャァー!騒ぐぞ!!』

『ね、ネロちゃんと仲良くなるチャンス到来!!』

『──フオン様と話せる!』


 と、皆一様に口々と話している。


「そもそも、まだ昇級していないだろう………」

「あはは、まぁ、皆も乗り気だし任せよっか」


 そんな中、主役のフオンとネロは苦笑いを浮かべていたが。


「じゃあ、闘技場から出ようか」


 そう、蔵が話した瞬間、闘技場の出入り口から複数の人間がこちらに近付いてくる足音が聞こえてきた。


 なのでフオン達はそちらに顔を向けると──


 先頭を走っているフオンと同い年ぐらいの少女が初めに目に入った。


 銀色の美しい髪を靡かせながら近付いてくるその女性の姿は純白のドレス型の鎧姿で戦乙女を連想させる姿だった。その後ろに男一人、女二人の計3人の男女の冒険者が着いて来ている。












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