第54話 模擬戦の終息①




 だが、これも面白そうだと思ったシオンは人の悪い笑みを浮かべると何を言ってくるのか静観して見てみることにした。


 そんな中、正義感を持った男性はフオンに喰ってかかる。


「お、お前!さっきから見ていれば俺達の千堂さんをいたぶって「スキル」を馬鹿にして何がしたいんだ!!」

「はぁ?お前は今までの出来事を見ていなかったのか?これは俺が千堂さんをいたぶっている訳ではなく模擬戦だ。それに「スキル」を馬鹿にする?俺はただ上手く扱えていないと指摘しただけに過ぎん」


 そう真っ当なことを返しただけだが、そんなフオンの態度が気に食わないのかおかしなことを話し出した。


「──煩い!煩い煩い!何が「スキル」を使わないだ!どうせ何かインチキをしているだけだろうが!!この世界は「スキル」が一番なんだよ!!」

「…………」


 男性のその言葉にフオンは呆れて何も言えなくなってしまった。


 人の話を聞いていないと思えば事欠いてインチキなどと言う始末だ。


 だが、正直に言えば何を言われてもフオンには響かなかった。だが、この冒険者は言ってはいけないことを口にしてしまった。


 フオンを目前にして──「スキル」が一番などと言うのだから。


「おい!スカした様な表情をしないでなんとか言えよ!やっぱりインチキなのかよ!!」

「…………」


 ただ、それでもフオンは何も答えない…そんな中、喧嘩をしている二人に自分の話題で喧嘩になっているのを良しとしない千堂はその初心者冒険者を落ち着かせるために行動を起こした。


「ちょっと待て!それに君!今は俺と彼、フオン君との模擬戦の最中だ。邪魔をする様なことをしないでくれないか?」

「で、でも!おかしいじゃなですか!コイツは「スキル」を使わないのに「S」ランクの千堂さんを圧倒しているんですよ!?こんな物インチキに決まっています!!」


 それでもフオンに指を指して講義をする男性冒険者。


「だが、なぁ………」


 そんなことを言われた千堂はこの男性が自分の事を思って講義を言いにきてくれたことが分かったのか、何も言えなくなってしまった。


 だが、さっきまで無言を貫いていたフオンは口を開く。


「──千堂さんは少し黙っていてくれ。コイツは俺に用がある様だからな」

「………分かった。ただし、また変な言い合いになりそうになったら止めるからな?」


 その話を聞いたフオンは一つ頷く。そんなフオンを見た千堂は一つ溜息を吐くと一歩引く。


 フオンはさっきから煩い男性の方に顔を向けた。


「──で?お前は俺に何を言いたい?ただ正義感に駆られて出てきただけ、なのか?」

「ち、違う!さっきからお前がインチキを使ってるからそれを指摘しに来ただけだ!!」

「そうか……じゃあ俺がインチキをしている証拠を見せろ。それが証明出来るなら今ここで土下座でもなんでもするぞ?」

「──ッ!!」


 そんなことをニヤリと笑いながら馬鹿にした様に聞いてくるフオンに男性は一歩下がった。


 何も言えない男性に尚も追い討ちを掛ける。


「ただし──お前が何も証明できずに適当なことを言っていた事が分かったなら………」


 そう言った瞬間、フオンの身体の内から禍々しい圧の様な物が噴き出てきて近くにいる千堂と男性関わらず闘技場にいる人々の身体を問答無用で震わせた。


 そんな中、一人ネロだけがフオンに声を掛けた。


「お兄ちゃん!力を出しすぎだよ!抑えて!!」

「──分かっている。ただの脅しのつもりだ」


 ネロに指摘されたフオンは一旦圧を解いた。圧が解けたことにより闘技場の周りからは人々の安堵の声があちこちから聞こえてくる。


 だが、間近で当てられた千堂と男性は違かった。今もまだ、身体全体を震わせて目の終点も合わず、脂汗が止まらないのかダラダラと垂らし続けている。


 そんな男性の方に無情にも話しかける。


「ほら、早く証拠を見せろ。俺はそれまで待ってていてやるから、お前が何も言わないと終わらないぞ?」

「──は、はっあっ──はっはぁ──」


 フオンが問いかけても過呼吸になっているのか何も答えられない様だ。


 そんな状態を見てフオンは「コイツは何がしたいんだ………」と小声で呟くと千堂に顔を向けた。


「──興が覚めた。千堂さん、俺達は元々一気に冒険者ランクを上げるつもりなど毛頭ない。だからこの茶番ももう終わりにする」


 そう千堂に伝えると、返事を待つ前にフオンは踵を返した。


 フオンがどう動くかは最初から分かっていたのかとてとてとフオンの元までネロが近付いて来た。


 フオンとネロはそのまま闘技場を後にしようとした時………


「ま、待て!待ってくれ!!」


 と、声をかけた人物がいた。



 その声を掛けた人物は愚かにもフオンに喰ってかかってきた男性だった。何も言わなければ良いものの気付いたらそんな事を叫んでいた。


 「待ってくれ」と言われたフオンは流石に無視をするのも悪いと思い背後を振り向いた。そこには今もまだ、無様にも地面に這いつくばりながらもフオンを睨み付けている男性がいた。


「──何かまだようか?俺はお前みたいな暇人の相手をしている暇など無い。何も無いなら話しかけるな。ただ、鬱陶しいだけだ」


 そう言うとフオンは再度その場を後にしようと歩き掛けたが……驚いた事にその男性は動かない自分の身体に鞭を打つとフオンの元まで行き、フオンの足にしがみ付いた。


「──むっ」


 そんな男性の行動に少し驚きを見せたフオンだが、目障りなので振り払おうとしたら……その男性が先に声を張り上げた。


「分かってる!分かってるんだよ!俺がお前らを羨ましくて妬ましくて突っかかってるのなんて!!でも、でも!納得がいかないんだよ!!」

「お前は何を言って………」


 フオンとネロにはこの男性が言っている事が何一つ理解が出来なかった。それはフオン達の様子を見ている千堂を含めた他の人々も一緒だった。


 そんな中、男性は尚も話し続ける。


「俺が千堂さんを尊敬しているのは事実だ。でも「スキル」が一番なんて思ってる事は本当は嘘っぱちなんだ。俺はお前が「スキル」を使わずとも強い姿を見ていてもたってもいられなかったんだよ!」


 未だに這いつくばりながらフオンの顔を見て男性はそう伝えた。


 そんな心からの叫びを伝えてきた男性に何か気になったのかフオンは声をかける。


「………お前が何を思って俺にそう言ってくるのかは分からんが、何かあるなら言ってみろ。答えられる範囲なら答える。俺も鬼では無い」


 フオンにそう言われた男性は漸くフオンからの圧が治まったのかその場で立ち上がるとさっきの態度が嘘だった様に礼儀正しく頭を下げた。


「………助かる。本当は俺もお前と同じで「スキル」なんて正直に言って信用してなどいないんだ。でも俺には強くなってどうしても助けたい友人がいるんだよ。──俺には、俺にはさ──「スキル無しウァースリィス」の友人がいたんだ」

「──ッ!!」


 その話を聞いたフオンは目を見開くと目の前の男の顔を見た。


 そんなフオンのタダなならない様子にネロも少し驚いていた。


 「スキル無しウァースリィス」と聞いて驚いているのはフオンだけでは無かった。それは千堂達も一緒だった。今は「スキル無しウァースリィス」とはこの世界で唯一な存在と共に、ここ「東京支部」では有名だった。


 その理由は簡単だ。協会長の息子にして千堂を入れない「夕凪の日差し」と言う「S」ランクのパーティで探して見つからなかったその男性の異名が「スキル無しウァースリィス」なのだから。


 ただ、その男性を見てもまだ何もわからないフオンは自分が驚いている事を感づかせない様に男性の言葉を聴く。


「俺さ、お前の言葉に共感持てるんだ。「スキル」なんてただのバグ、それに踊らされている人間は愚者──って言葉にさ。そして俺もそいつらと一緒で……愚か者だった」

「──それは、どうしてだ?」


 フオンはそう聴くと男性は少し暗い顔を作りながらも淡々と話してくれた。


「──この世界に突如として「スキル・ステータス」や「ダンジョン」なんていうファンタジーな物が生まれた。俺はその時周りの連中と共に浮かれていて仲間内で「スキル」を見せ合っていた。でもさ、その中で一人「スキル」を持たない奴がいたんだよ。そいつを最初訳もわからず「スキル」を何も持たない「スキル無しウァースリィス」と言うだけで馬鹿にして爪弾きにしてしまった」

「──その中にお前も、いたのか?」


 フオンの言葉に頷く男性。


「あぁ、いた。俺はおかしいと思っていた中で自分だけ何も言わなくてはハブられてしまうとその時は思ってしまい嫌々ながらもそいつを馬鹿にした。いや、言い訳はよく無いな──俺もそいつらと──同類だよ」

「…………」


 その話にフオンは無言になってしまった。


 その話は何処か既視感というか、何か知っている様な気がするのだ、それに「スキル無しウァースリィス」とは恐らくだが自分──「工藤幸太しかいないのではないか?」と。


 そんな事を思っていると男性がまた話出した。


「そいつがいなくなってから漸く気付いた。俺達はなんであんな事をしてしまったんだろうと──でも気付いた時にはもう何もかもが遅かった。それにその後は驚いた、そいつが──「ダンジョン」で亡くなったかもしれないと言う知らせを聞いて──あぁ、ごめん。ごめんよ──幸太ぁ………」


 男性はそう話すとその場で蹲り涙を流してしまった。


 フオンはというと、その話を聞いて困惑していた。


 この男性の話し振りからも何か気になってはいたが「ダンジョン」と「幸太」と聞いた時、確信をした。


 一億年という長い年月を過ごして記憶は曖昧になっているが……覚えている。確かに覚えている。昔の自分に今、目の前で涙を流している様な友人がいた事を。


 その人物は「幸太」に悪口を言っていたが、周りとは違く最後まで申し訳なさそうな顔をしていた人物だと。


 ネロもそんな男性の話を聞き、驚いた顔を浮かべるとフオンに目線を送っていた。ただ、フオンはそんなネロの視線には取り合わずその男性に声をかける。


「──お前は、お前は今もまだその──幸太という人物が生きてると思うのか?そいつの為に強くなろうと──思って、いるのか?」


 フオンからそう聞かれると泣いている顔を拭うと未だに泣き顔のまま立ち上がった。


「当たり前だ!アイツは、幸太はそんな簡単に死ぬ様なタマじゃねぇ!!それに強くなって助けに行くんだよ!この、俺が!!」

「──そう、か──ありがとう」

「──なんで、お前がお礼を言うんだ?」


 おかしい事にお礼を言ってくるフオンに男性は疑惑な視線を向けていた。


 それでもフオンは話かける。


「………すまん。今の言葉は忘れてくれ。それよりもお前はその幸太とやらを助ける為に強くなりたかったんだな。そして「スキル」を使わずに「S」ランクの冒険者を圧倒する俺に納得がいかないと?」

「あ、あぁ。でもごめん。完全に俺の言いがかりだ。お前の強さに嫉妬をしてしまったと共に「スキル」が無くとも努力をすればもしかしたら、お前の様に強くなれたのかもと思ってさ………」


 男性の話を聞くとフオンは「ふっ!」と一つ笑うと口を開いた。


「そうか──ただ、これだけは言おう。誰でも「努力」次第で強くなれると──そう、俺の様にな」

「えっ?」


 その話をフオンがすると冗談だろとでも言いたげな顔を向けてきた、だけど真実なので嘘偽りなく伝える事にした。


「何をそんな素っ頓狂な顔をしている?俺とて最初は弱かったさ。それでも強さを求めて、血反吐を吐きながらも誰よりも強くなろうと憧憬を持ち修行をした物だ。最初なんて俺は「F」ランク帯の魔物にも勝てない弱者だった」

『『『えっ???』』』


 ネロを除く全ての人の声が重なった瞬間だった。


 その事にフオンは仏頂面を崩すと苦笑いを浮かべていた。







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