第51話 初めての模擬戦①



 


 あの後、フオンの話をしっかりと聞いて蔵から見せて貰ったフオンの「鑑定用紙」の結果を見た千堂は────顔を青ざめたと思うと恥も外見も捨て土下座しながら何度も何度も謝罪をして来た。


「本当ーーにーーーすまなかった!!全部俺の勘違いだった!!許してなど言わん!どうか俺に償いの機会をくれ!!!」


 今はさっきの緊迫した雰囲気など無くなり、普段の「東京支部」に戻っていた。


 ただ、さっきからフオンに土下座を繰り返す男────千堂の声だけが協会内を木霊していた。


 先程フオンの首に添えていた大剣を床に置き、床に正座した上で手のひらを地に付け、額が地に付くまで伏せ、声高らかにフオンに謝り続けていた。

 そんなフオンと千堂の様子を協会に集まっている冒険者、受付嬢関係なく人々は唖然とした顔で見ている。


 それはそうだろう、実質この「東京支部」トップの冒険者が今日登録したばかりの冒険者。それも、初心者に土下座をしているのだから。


「いや、だからもう良いと言っているだろうが。それに目立つからもう土下座など辞めて立ってくれ………」


 土下座をされている側のフオンはドン引きしながらさっきからまったく話を聞いてくれない千堂に呆れていた。


 言われた千堂は土下座をしながら首を振る。


「駄目だ、駄目だ!俺がそれじゃあ納得できん!!────そうだ!フオン君、君達は今日冒険者登録をしたと言っていたな?なら俺が教官役になって模擬戦を行い、ランクを一気に上げるのはどうだ?最速ランク上げ冒険者────通称「ランカー」になれるぞ?多分俺の判断込みだったら君達を「B」ランクまでなら推薦できるし」

「いや「D」ランクじゃないのかよ。そもそも俺はそんなにランクを早くあげたく無い」


 目立ちたく無いからと言うのは伏せてフオンは伝えたのだが────


 千堂は自分だけで何かを完結してしまてるのか一人立ち上がるとフオンの両肩を掴んできた。


「よし!フオン君!今から模擬戦専用の闘技場に行こう!大丈夫だ、君は強い!!」

「いや、だから、話を聞けと………」

「聞いてるさ!君は「ステータス・レベル」など関係なく強そうだからな!今から模擬戦を出来るのが楽しみだな!!」

「────全然聞いて無いなこの人」


 フオンは何を言っても意味が無いと思ったのか近くにいる頼みの綱の蔵に視線を向けた。


 だが────「あははは………」と乾いた笑みで返されてしまった。


 ネロに助けなど頼まない、さっきからずっと腹を抱えて笑っているのだから。


「行くぞフオン君!君の胸を借りるつもりで俺は挑むからな!!」

「アンタは「S」ランクじゃないのかよ。普通は俺が胸を借りる側だろ」


 そんな事を言っている千堂に呆れながらもフオンは着いていくのだった。

 その後を今もまだ笑うネロと苦笑いを浮かべている蔵が着いていく。


 他の冒険者達も今から何かが始まると察知したのかゾロゾロとその後をついて来ていた。



 ◇閑話休題それはさておき



 フオンが千堂に案内された場所は東京ドーム半分程の広さがあるコロッセオだった。今いる場所が模擬戦をする闘技場なのだろう。


 フオンとネロは初めてくる場所だったので物珍しいのか周りを見回していた。


 そんなフオンとネロに千堂は声を掛けた。


「どうだ?ここが今から模擬戦をする会場だ。かなり広いだろ?それに広いだけじゃなくて結界の「魔道具」を使っているからそんなに力を出しても被害は出ないと思うから安心してくれ!」

「………まぁ、程々にしとく」


 フオンはそう返事を返したが力など一切入れるつもりなど無かった。


 千堂は結界を使っているから大丈夫と言っているが、それは普通の冒険者に限定される。

 フオンはやらなくても分かる、この結界は自分が少しでも力を入れようなら直ぐに破壊される事を。


 なので逆に壊さない様に慎重に、慎重に模擬戦に挑もうと決心している。


 そんな事を知らない千堂は何も知らないからかフオンとネロに笑顔を向けている。


「まぁ、フオン君の強さを見れるのを楽しみにしとくわ!と、話をしていたが俺の紹介を何もしてなかったな。君達の事は「鑑定用紙」で見たから一方的に知ってるが俺の事は知らないもんな」

「そうだな、千堂という名前と冒険者ランクが「S」ランクぐらいは知ってるがな」


 フオンに言われた千堂はニカッと笑った。


「そうか、なら他も自己紹介しなくちゃな────俺の名は千堂剣夜せんどうけんや。フオン君の言う通り「S」ランクの冒険者をやらせて貰っている。それに加えて「夕凪の日差し」という「S」ランクの冒険者パーティのリーダーも務めてる。俺の代表的なスキルは────「剣生成」だな」

「────驚いたな、自分の価値を示す「スキル」を堂々と教えてくるとはな。それだけ自身があると言うことか?」


 自分の切り札となり得る「スキル」までも教えて来た千堂にフオンは驚きながら教えた理由を聞いてみた。


 そうすると千堂は首を振った。


「違う、フオン君の「スキル」を見たと言う理由もあるが、俺が「スキル」を隠した所で戦況は変わらんだろ?」

「………それは、やって見ないと分からんな」


 千堂の質問にフオンは肯定することなく回答した。


 その事に千堂は笑みを浮かべていた。


「その話は今は良いだろ、どうする?フオン君の妹のネロちゃんからやるかい?ネロちゃんは魔法使い寄りだと思うから模擬戦ではなく魔法の強さを知れれば良いからさ」

「うーん、そうだね。僕は戦うのはあまり得意じゃないからそれで良いよ?」


 千堂の話を聞いたネロは少し考えるように首を傾げていたが問題無いと思ったのか軽く了承した。


「分かった。なら闘技場の真ん中に向けて得意な「スキル」もしくは魔法を使ってみてくれ、地面もそんじゃそこらの魔法じゃ傷すら付かないと思うからおもいっきりやって良いからな!」

「分かったよ!」


 千堂とネロの会話を聞いていた闘技場に集まっていた人々は魔法が見える位置に移動すると今か今かとネロの魔法を観るために待機していた。


 ネロは背負っているリュックから────魔法のステッキの様な赤い杖を取り出すとそれを片手で持ち、闘技場の真ん中に杖の先端の標準を合わせると詠唱を始めた。

  

 千堂にはおもいっきりやってみてくれと言われたが今回は少しの魔力を込めるだけに留める。


「────汝、重力を従える者よ、圧縮して其方に放て ────「圧縮した重力砲コンプラシュ・エア」!」


 ネロが魔法の詠唱を唱えると、ネロの目前の空間が歪んだと思うと、その場に留まっていた空気が固まり空気の砲弾の様なものが作られると千堂が指定した闘技場の真ん中に着弾した。


 ズドンッ!!


 そんな音がしたと思ったらネロが放った魔法が着弾した地面が3メートルほど抉れていた。


『『『………‥』』』


 その魔法の威力を見た観客に徹していた冒険者や受付嬢は無言になってしまった。


 ネロはネロで地面の硬さに驚いていた。


「おお!僕の魔法をアレぐらいの被害で留めるとは────何か珍しい素材で地面をコーティング守ってしてるみたいだね!!」

「お、おう。喜んでもらえたなら良かったよ。でもあんな威力を出して戦うのを得意では無いとは、如何程に?」


 何かをブツブツと千堂は呟いていたが、それは後で考えようと思ったのか少し引きつった顔をネロに向けると模擬戦の終わりを告げることにした。


「その、ネロちゃんはこれでおしまいで良いよ。完全に冒険者ランクなんて「D」以上はあるのは確かだからさ………」

「本当!?やった、やった!お兄ちゃんやったよ!!」


 ネロは千堂に言われた事を喜ぶとその喜びを身体全体で表現する様にその場でピョンピョンジャンプしていた。

 ただ、ジャンプする事により起こった事がある、それはネロのお胸様がブルンブルン揺れてしまった事だ。


 胸が激しく揺れる事により洋服からはみ出てしまうのではと思う程だった。


 その絶景の光景を千堂含めた殆どの男性冒険者達が鼻の下を伸ばしてガン見していた。


 それを見て少数の女性冒険者や受付嬢達は白い目を向けていたが男性達はその事に気付かない。


 ただ、フオンはそんなもの見慣れているのか普段通りネロに指摘する事にした。


「────ネロ、周りを見ろ。それにあまり他の男性を刺激するんじゃない」

「ん?」


 ネロはフオンにそう言われた為動きを辞めて周りを見たら────自分の事(胸)をガン見している男性達に漸く気付いた。


「はぁ、分かっただろ?頼むから淑女らしく振る舞ってくれ………」

「アハハ、ごめん。気付かなかった」


 フオンの指摘の理由が分かったのかネロは舌を出すと素直に謝った。


 ただ、邪魔をしたフオンに男性陣は全員睨み付けていたが、フオンに見られると直ぐにソッポを向くのだった。 


『『『…………』』』

「────ハァ」

 

 その事にフオンはため息を吐いた。


「………この冒険者協会は大丈夫か?真面なのは蔵さんぐらいじゃないか………」

「あははは、皆が本当にごめん」


 ただ一人、フオンと同じ様にネロの痴態を見ない様に務めていた蔵はフオンとネロに頭を下げるのだった。


 


 



 



  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る