第50話 冒険者登録④





 そんな事を言う男の登場に協会内は一時「シーン」となった。


 だが、それは一瞬で至るところからその男に声を掛ける冒険者が続出した。

 中には受付の列に並んでいるのにそんな事関係ないと言う様にその男の近くまで行く冒険者もいた。


『帰って来たのか千堂さん!』

『「東京ダンジョン」の様子はどうだった?』

『他のパーティメンバーは居なくて良かったのか?まぁ、アンタ単独でも心配はしてないが………』

『でも、無事戻ってきて良かったです!』


 千堂と呼ばれている男に冒険者も受付嬢達も心配した様な感じに声を掛けていた。


 言われた本人は────


「ガハハっ!問題は無かったな!というか俺が調査を行った時は何も起きなかったな。もしかしたら「東京ダンジョン」の最深部で何かが起きているのかもしれん」


 初めは笑っていたが、深刻そうに協会内に聞こえるように言うのだった。


 話を聞いた他の冒険者や受付嬢達はその事についてまた色々と聞いていた。


 ただそんな中、フオンとネロは平常運転だった。


「で?今から何個かクエストを見繕って貰えるのか?クエストの受注の制限が無いなら受けたいのだが?」

「そうそう!僕達はなるだけ早くランクを上げて「ダンジョン」の最深部に行ける資格を欲しいからね〜」


 そんな事をフオンは表情を変えずにネロはニコニコと笑いながら蔵に聞いてきた。


 ただ、聞かれた蔵は少し戸惑っていた。


「早く「ダンジョン」に行ってランクを上げたいのは分からなくはないけど。君達は背後で起きている騒ぎは気にならないのかい?」


 蔵に聞かれた2人は。


「どうでも良い」「別に気にならないかなぁ?」


 と口々に言うのだった。


「そ、そうか。まぁ、別に君達初心者の子達にはあまり聞いても意味ない話だからね。ただ、今背後で話している大剣を背負った男性はさっき話した教官と模擬戦をして「D」ランクに上がった冒険者なんだよ?それでも気にならないかい?」

「だとしても、どうでも良い。他人など所詮他人だ。そいつにかまっている暇があるなら俺はクエストを進めた方が最も有意義だ」


 そんなフオンの他人などどうでも良いと言うような言い方に蔵は唖然としていた。


 ただ、フオンの言葉足らずな言葉にネロは少し補足を入れた。


「蔵さん、うちのお兄ちゃんはこんな感じだけど別に他の冒険者を悪く言うつもりはないんだ。ただ、ちょっと他人を気にしないタチでさ」

「────ネロ、余計な事を言うな」

「だってさー、お兄ちゃんの言葉は少しトゲがあるからさぁー?」


 そんな少し言い合いの様な感じになってしまったフオンとネロの2人に蔵は間に入ってこの話題をやめさせる事にした。


「ストップ!ストップ!!俺の聞き方が悪かった!────人の価値観はそれぞれだからね、あまり俺も土足でもう入り込まないからさ?」


 そんな蔵の言葉にフオン自身も少し大人気なかったと思っているのか頭を少し下げると口を開いた。


「………気を遣わせた。俺はあまり人と接してこなかったから言葉足らずで、すまない」

「あぁ、良いよ。俺も今日会ったばかりの君達につい話しすぎたよ、なんでも線引きが必要だもんね!それよりクエストの受注だったね、君達が今から受けられるのは………」


 3人は和解でき、今からクエストを何をやるのか決めようとしたその時、さっきまで入り口近くで騒いでいた大男がフオン達の近くに来た。


「おう!蔵さんが他の冒険者と話してるなんて珍しいなぁ?何かあったのか?それにお前ら見ない顔────ッ!」


 そう蔵に聞いてきた千堂と呼ばれた男だったがフオンの方に初めて顔を向けると────蔵が何かを言う前に背負っていた大剣をその場で抜き、その巨体でなんでそんなに早く動けるのかと言う程の速さでフオンのいる場所まで近付くと、フオンの首に大剣を添えた。


 それは今直ぐにでもお前を殺せるぞとでも言う様な行為だった。


 その事にフオンは身動きする事なくどうでも良さそうに千堂の事を見ている。ネロはこの後に何が起こるのか楽しそうにニヤニヤしながら様子を見ていた。


 他の冒険者や受付嬢も今何が起きているのか分からなかったが、フオン達に注目していた。


 ただ、目の前でそんな千堂の不可解な行動の様子を始めから見ていた蔵は千堂に急いで注意をした。


「ちょ、ちょっと千堂さん!?何やっているんですか!ここでは武器を抜いちゃいけないのもそうですけど、なんで彼に武器を向けるどころか当てようとしてるんですか!今直ぐにでも武器を収めて下さい!!」


 だが千堂はそんな蔵の言葉を聞いても武器を収めなかった、それどころか今はフオンに鋭い目線を送っていた。


 そんな時間が数分続いたがやっと千堂は口を開いたと思ったら意外な事を蔵に伝えた。


「────蔵さん、ソイツは無理な相談だ。それよりもコイツは何だ?それに武器を収めろ?馬鹿言っちゃいけねぇ。コイツは化物だ。一瞬でも気を抜けば俺もどうなるか。だから、もう一度聞く────コイツは何だ?」

「えっ?────彼は、今日冒険者登録をしに来た初心者冒険者です、けど?」


 千堂の質問に戸惑いつつも蔵は真実を伝えたつもりだったが、それでも千堂は武器を収めなかった。


 それどころか顔を痙攣らせながら、脂汗を垂らしながら笑っていた。


「はははっ!コイツが初心者?それは傑作だな。────俺にはドラゴンの皮を被った人間と言われても首を振る。そんな生優しい存在じゃねぇ。そもそもコイツは人なのか?」

「────なっ!?」


 そんな事を言う千堂に蔵は驚いていた。


 ただの冒険者がそんな事を言うなら蔵も笑って流しただろう。


 だが、彼────千堂はこの「東京支部」筆頭の「S」ランク冒険者なのだ。その彼が脂汗を流しながら自分に聞いてくるのだ。


 蔵もフオンが只者ではない事は出会った時に気付いていた、ただ「鑑定用紙」で調べた結果「ステータス・レベル」も初心者と来た。


 ここ「東京支部」が使っている「鑑定用紙」はどの隠蔽・改竄でも見破る優秀な物を使っている、なので間違えるはずがないのだ。

 それに実際話してみて普通の青年と変わらなかった、なので蔵にはフオンは人間以外の何者でも無かったのだ。


 だが、千堂は違う。


「────俺だって人間に武器なんて向けたくねぇさ、ただコイツがもし魔物か魔物と通じる人間で、ここにいる人々に被害を出すなら俺は────それに俺はこれでも「S」ランク冒険者だ。ランクを鼻に掛けるつもりはないが今まで会った魔物の中でこれ程も化物染みたオーラを放っている奴は居なかった」


 そういうと冷や汗を垂らしながらも「近くにいるだけでピリつくぜ」と呟く。


「で、でも!彼は普通の人ですよ!それに千堂さんの攻撃を避けられなかったじゃないですか?」


 そんな蔵の言葉にも千堂は首を振る。


「違うな、コイツは避ける意味が無かったんだよ。俺の攻撃如きなんかな、今もだんまりを決め込んでいるが────内心俺達人間を笑ってやがるんだろ………」

「そんな事は………」


 ただ、蔵には否定をできなかった、否定をするのは簡単だが「S」ランクである千堂がこうも警戒をしている相手、それもフオン自身も何を言わない。


 だから尚更蔵にはどうしたら良いか分からなかった。


 ただ、そのフオンの内心は────


(────ふむ、勘違いが起きているな?武器を避けなかったのは千堂?が言う通りだが。それに俺も何も喋らないのは悪かったが、ここで声を出して注目されてもな。無言を貫きほとぼりを待とうとしたが、無理そうだな)


 そう思ったフオンは面倒臭いが自分で誤解を解く事にした。


「………何か勘違いしている様だが、俺は普通の人だぞ?流石に魔物扱いは困る。それに蔵さんの言う通り今日冒険者登録をした初心者冒険者なのは本当だ」


 そんな風に誰も喋らない中、自分の頬を掻きながら申し訳なさそうにフオンは声を発した。


 そんなフオンの言葉に誤解をしていた千堂は────


「えっ?マジで────人?」


 と、聞いてくるのだった。


 なのでフオンは。


「当たり前だろうが………」


 そう答えるのだった。


 その一部始終を見ていたネロだけは口に手を当てて笑っていた。

 



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