ルールブレイカー

第47話 冒険者登録①



 


 太陽の日が燦々と地上を照らす中、東京の街は活気で溢れていた。


 今は人気だった通りも殆どが「冒険者通り」と呼ばれ、冒険者風の装備に身を包んだ老若男女が行き交いをしている。

 そんな中、普通の生活では見慣れないはずの「武器屋」や「道具屋」や「鍛冶屋」なんかが立ち並んでいる。


 だが、ほとんどの冒険者達が集まる場所は決まっている────勿論、「冒険者協会」だ。


 ここ東京の渋谷近くにある冒険者協会「東京支部」は日本でも片手に数えられる程の大きな支部で冒険者登録をしている人数も全員を合わせると約8000人も超える大手の支部になる。そんな場所に毎日沢山の冒険者達が"夢"を"希望"を"野心"を抱いて通っている。


 そんな冒険者協会に今、初心者とは思えない様な2人組が向かっていた。


 一人は男で灰色のロングコート、ロングパンツという冒険者としてはやや軽装な装備に加えて一振りの片手剣を腰に吊るしている。


 ただ、初心者としては似つかわしく無い外見をしていた。茶髪に優しげな薄緑色の瞳でその人物は強さを隠しているようだが、隠しきれないその醸し出す雰囲気、オーラは只者では無い事が誰でも分かる程だった。


 その男性の名をフオン・シュトレインと言う。その男性の近くを少しご機嫌斜めな様な表情で歩いている男性と似ている髪色の女性はその妹のネロ・シュトレインだ。


 ────妹の前に"義理"と付くが今は妹の様な存在になっていた。


 こちらは魔法使いの様な緑色のローブを着て下は白色のスカート、ブーツは茶色の物を履いている。


 背中に小型の赤色のリュックを背負い武器だと思われる赤色の杖を背のリュックに刺している、冒険者の格好としては及第点かも知れないが何処となく陽気な雰囲気が冒険者らしさを無くしていた。


 そんな装備も性格も正反対な男女が今「東京支部」の冒険者協会に顔を出そうとしている、自分達が冒険者登録をする為だ。


「────妹よ、もうヘソを曲げるのを止めろ。冒険者登録をした後でもスイーツ巡りなど出来るだろ?」

「そうだけど!お兄ちゃんだけ地上に出た後にやりたい事を達成出来ているのが納得できないの!!」

「………そう、言われてもな」


 妹のネロはプンスカと怒り、兄のフオンはそんなネロの言動に困り果てているというか呆れていた。


 フオンとネロは「隠しダンジョン」から無事送還出来たのは良かったが、地上に出たら夜の9時を回っていた為、その日は仕方なく野宿をする事にした。


 その時にネロが簡易的に作ってくれた土管風呂に入る事ができ、フオンの地上に出た後のやりたいお風呂に入るという事は叶ったが────あの後一睡して朝直ぐに冒険者協会に向かっているのでネロのやりたい事が叶えられていないからヘソを曲げているのだ。


「お兄ちゃんは良いよね!地上に出てからのやりたい事のが僕のお陰で!!叶えられたんだからね!」

「はぁ、分かった。ちゃんと冒険者協会の後にネロが寄りたい所に行くから少し落ち着け、な?」

「これが落ち着いてられるかぁ!!」


 ネロはそれでも激おこだった。


 なのでフオンは最終手段を使う事にした。


「ネロ。そもそも俺らには今、金が一切ない。簡単に言ってしまえば一文無しだ。その状態でスイーツなど食べれるはずが無いだろ?」

「そんなの知ってるよ!でも納得出来ないの!!むぅー!むぅぅーー!!」


 頰をリスの様にパンパンに膨らませると未だに怒っている。


 いかんせん顔が美少女の為そんな姿も絵になるので周りで見ている人達はなんだかホッコリと顔を崩してフオン達の兄妹喧嘩を見ていた。


「────俺にどうしろと?」


 ついにフオンはお手上げという様にゲンナリとした表情のまま今はネロに触れない事にした。それでもそんなフオンに話しかけてくるネロ。殆どがフオンへの不満だが。


 そんな事をしていたら目指していた冒険者協会に着いていた。


 その事にフオンは安心をしていたがネロは「チッ!」と舌打ちをしていた。


(────どれだけ怒っているんだお前は。別に後でも良いじゃないか、はぁ………)


 そんなネロの態度に決して口には出さないが内心で考え、ため息を吐いていた。


「………ネロ、お利口だから冒険者協会に入ったら静かにしていてくれよ?」

「僕を子供扱いしないでよね!元々はお兄ちゃんが、ブツブツ………」


 一応伝えただけなのにブツブツと下を向きこっちの話など聞いてくれない様なのでここはもう腹を決めて自分だけでもちゃんと対応をしようと冒険者協会の扉に手を掛けると扉を開けた。


 冒険者協会の中は思っていた以上に綺麗で少し驚いた。冒険者達の溜まり場なので少し汚いと思っていたが、そうでもなかった。

 幾つもの長椅子が置いてあったり飲食が出来るスペースとかもあった、そこでは色々な人達、多種多様な冒険者達が話し合っていた。


 中でも一番目が行く場所が受付だろう。


(────ほう?あんなにもクエスト受注の受付は並んでいるのか。俺もクエストを受注するのは難航しそうだな)


 受付を見たフオンの感想がこうだった。


 今もだが、沢山の冒険者達がこぞって女性の受付嬢の所に集まっているりその光景を見たフオンはクエストを受注する為に集まっているものだと思っている。


 実際はクエストの受注が二割、受付嬢と話したいだけの輩が八割という状況なのだが初めて冒険者協会に顔を出したフオンには分かるはずもなく。


 ただ、さっきまで怒っていたネロは冒険者協会の中が新鮮なのか沢山の冒険者達がいるのが珍しいのかは分からないが、キラキラした目を向けてあちこちを楽しそうに見ている。

 そんなネロの姿を見て「これで溜飲が少し治れば良いのだがな………」とネロに聞こえないぐらいの小声で呟いていたら、入り口で立ち止まっているフオン達の元に一人の赤らんだ顔の柄の悪そうな男性が近付いて来た。


 そんな男とフオンに冒険者協会の中にいた冒険者達は興味ありげに見ていた。


「おいおい、そんな所でちんたらしてるんじゃねえよ!それに女連れとか────舐めやがって────テメェにここの常識ってやつを────ッ!!」


 何かを言おうとしていた男だったが、酔っている顔で間近でフオンの顔を外見を見ると────さっきまで赤らんでいた顔が面白い様に青白くなり、脂汗をダラダラと垂らしながら何も喋らなくなってしまった。


 その事に不審がったフオンは話しかけて来た男にどうしたのか聞いてみることにした。


「────何か俺達にようか?何かを言おうとしていたようだが………」

「い、いや、その、違、くてだな……知り合いと間違えて────すまん!変に絡んで、悪かった!!」


 フオンがどうしたのか聞いたらこっちが驚くぐらいに男は首を振ると直ぐにぎこちない動きで何処かへと行ってしまった。


 その様子にフオンは「なんだったんだ?」と思い、フオン達の様子を見ていた冒険者達も驚いていた。


『────なんだ【冒険者イビリ】の"荒垣"が今回も初めてここに来た冒険者達に絡むのかと思ったら逃げていったぞ?』

『────腹でも痛かったんじゃね?顔が凄え青白くて脂汗かいてたし』

『かもな、流石にあの二人の男女にビビったって事は無いだろ?外見的だけならどっちも弱そうだもんな』

『『だな』』


 フオン達の事を見ていた何も知らない冒険者達はそんな事を話し合っていた。


 ただ、一人ネロだけは何が起きたのか分かっているのか笑いを堪えるように口を押さえていた。



 ◇閑話休題それはさておき



「────ヤベエ、あの男はマジでヤベエぞ。俺は酔ってたから初めは声をかけれたが直ぐに分かった。気付いた時には酔いなんて冷めて動けなくなっていた。アレは声を掛けていい存在じゃねえ──── 「S」ランク?「SSS」ランク?────巫山戯るなッ!アイツにはそんなものが通じるもんか!あのまま絡んでいたら俺は………」


 不運にもフオンに絡んでしまった荒垣と呼ばれていた男は、冒険者協会からすぐに出た所にある路地でさっきよりも顔を青白くしていた。


 口には出さないがその先────を考えてしまい死人の様な表情になっていた。



 この男は先程も言われていた通り【冒険者イビリ】という二つ名を持っており、腕と「スキル」だけで冒険者ランク「C」ランクまで上り詰めた中級者の冒険者なので普通ならそんな簡単に物怖じなどしないはずだ。


 だが、フオンだけに対しては違かった。   


 荒垣は「スキル」で「危険察知」と「予知夢」という特殊なスキルを持っていた。


 その「スキル」らが教えるのだ────「直ちに逃げろ、その男には何をしても誰も勝てはしない」────と。


 近付いただけで、話しかけただけで直ぐに自分の明確なを感じ取ってしまった。

 荒垣はこれらの「スキル」に今まで何度も命を救われている、なので絶対の信頼を置いていたのでそんな"危険信号"が出た瞬間の荒垣の行動は早かった。


 そのお陰か難を逃れる事が出来た。


「────ははっ、世の中にはあんな化け物みたいな奴がいるのかよ。周りの奴らはあの男の異常さに気付いてない様だが、な。止めよう、もう考えるのも酒も止めよう。こんな事で死んでいたら溜まったもんじゃねえ」


 荒垣はそういうとフラフラとした足取りのまま何処かへ歩いていってしまった。


 本当はここでお馴染みの先輩冒険者からの洗礼の「」なるものが起こるはずだったが────フオンは意図せずに回避してしまった。









 

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