第40話 旅立ちの朝④
◆
あれから他の「魔道具」も"幸太"────改めて"フオン"に質問をされる度にネロは無難に答えていった。
灰色のロングコートとロングパンツは唯のコートとズボンでは無く「異世界ノクナレア」にいた「黒龍」と「赤龍」と呼ばれる「SS」ランクの魔物の素材と「ホイールスライム」という柔軟な身体を持つ「S」ランクの魔物の素材を使われたどの防具よりも丈夫なコートとズボンだった。
このコートとズボンは唯の丈夫なだけの衣服では無くコートとズボン自体のポケットが「アイテムボックス」にもなっているという仕様らしい。
それもその内蔵されている「アイテムボックス」の容量は無限に何でも入るという。ネロ曰く「僕の渾身の出来だからね!妖精王が作った装備だ、唯のコートとズボンな訳ないでしょ?これなら君の力にも耐えられるでしょ!!」────との事だ。
黒色のブーツも同じで、こちらは先程同様に「黒龍」の素材が使われているブーツで、機能は何も付いていないがフオンの力に耐えられる仕様にしたらしい。
他の物は今後フオンが役立てる様な回復アイテムや武器各種だった。
そんなこんながあり、今は無事にネロの説明も全て聞き、地上でのフオン達の設定も決まり、拠点の撤去も終わったので直ぐに「ダンジョン」から出られる準備は出来ていた。
「これで漸く、俺も冒険者になれるのか」
そんな事を呟く今のフオンの姿はネロが用意してくれた装備を身に付けてすっかりと冒険者らしくなっている。一応、念のために腰に片手剣を付けて「アイテムボックス」持ちだとはバレない様に申し訳なさ程度に片手剣と同様に小さめなポーチを腰に付けている。
因みに外見はネロが用意してくれた"青色のピアス"のお陰で偽装が出来たのか大分変わっている。髪色は「黒色」から「茶髪」に変わり、日本人特有の「黒目」はハーフの様に「薄緑」色の優しげに見える瞳に変わっていた、
そんな外見が変わってしまったフオンの姿を目にハートでも作ってるんじゃないのかと言わんばかりにこちらも少し外見が変わったネロが涎を垂らす勢いで、ガン見していた。
「お兄ちゃん、マジイケメン………」
フオンの事を「お兄ちゃん」と呼ぶネロの外見は魔法使いの様な緑色のローブを着て下は白色のスカート、ブーツは茶色の物を履いている。
背中に小型の赤色のリュックを背負い武器だと思われる赤色の杖を持っている。外見はフオンと遜色無く、「飴色」の髪は「茶髪」になり元々の「緑目」はフオンと同様に「薄緑色」に変わっていた。
正直に言うとこの2人を見て初心者冒険者とは到底思えないが、まぁ、「スキル・ステータス・レベル」をどちらとも"赤色のピアス"を付けて「隠蔽・改竄」をしているので大丈夫だと思っている。
「────よし、これで装備と外見はオールOKとして後はさっき"隠蔽のピアス"で決めた「スキル」の確認だな………」
「そうだね!「スキル」は僕が「重力魔法使い」でお兄ちゃんが「音」………で、良いんだよね?」
フオンの言葉に反応したネロはそう上目遣いで聞いた。
聞かれたフオンは頷く。
「そうだな。ただ、ネロは本当に「重力魔法」が使えるから問題ないが────俺の「音」は少し練習する必要があるかもな………」
「ははは、だね。威力が強すぎるんだよね」
「────だな」
苦笑いを浮かべるネロにフオンも同意する様にゲンナリと自分の力量に呆れていた。
そんな事を話すフオンとネロの周りの壁や地面は何かがあったのか抉れていた。
2人が「スキル」を決めた時に何度か試し打ちをしたのだが、ネロは問題が無くてもフオンの方は大問題だった。
「音使い」に決めたのは良いが、「スキル」として使うならどんなものが良いかと二人で話し合った。
そんな中、良い案だとして出たものが────指パッチンだった。
「指パッチン」とは要するに親指と中指をスライドさせて音を鳴らす事だ。
ただ、決めたは良いが威力の調整がこれがまた中々精密で苦戦して「ダンジョン内」を少し破壊してしまった。
「────じゃあ、もう一度試す。次は最小限に威力を留める、ように心掛ける」
「うん!お兄ちゃん頑張って!!」
「────頑張ってはいけないのだがな。まぁ、良い。留めて、留めて────「
ネロの応援?に呆れながらもフオンは「ダンジョン」の壁に向かい右手の親指と中指をスライドさせて「スナップ」と呟いた瞬間────フオンの右手から情けない「プスッ」という小さな音が響いた。
ただ、音が響いたと同時に────
ドガンッ!
と、フオンの指からとてつもない風圧が発生し、その風圧が普通は抉れるはずのない「ダンジョン内」の壁にぶつかり少し凹ませた。
「………‥」
「………‥」
その事に2人は暫し無言になってしまった。
◇
「────まぁ、前回よりはマシ、だろ。今のはかなり最小限に威力を抑えたからな」
「そ、そうだね!前回なんて「ダンジョン」の壁が穴が空いたり、半壊していたからね!────まぁ、何にでも妥協が必要だね………」
「………だな」
フオンとネロの間に少しやるせない沈黙が流れたがネロが気を取り直したのか笑顔を向けてきた。
「お兄ちゃん。因みにその「スキル」は今やった「スナップ」だけじゃないんでしょ?他にもあるんだよね?」
「………ある。ただ、今決まっているのは四つだ。一つが「
「念の為、残りの二つも聞いても?」
ネロがそう聞くと少し難しい顔をフオンは作ったが、口を開いた。
「………三つ目が「
「そ、そうなんだね。でも二つも「スキル」を使えれば上等でしょ?僕達は"初心者"という扱いになるからね!」
そんなネロの言葉に少し素行を崩してフオンは笑った。
「ククッ、そうだな。俺達は初心者か────まぁ、その話はいいとして、オレが使う「スキル」はこの四つにしておく。その中でも「
フオンはそういうと腰に吊るしている剣を軽く叩いていた。
「うん、分かったよ!お兄ちゃんはそれで決まりだね!!「
ネロからそう聞かれたフオンだが、首を振る。
「いや、まだだ、俺達にはやり残していることがある。どうせネロ、お前も知ってて「外に出る」と聞いたのだろ?」
「………にひひっ、お兄ちゃんにはバレバレだったね。僕達はこの「隠しダンジョン」を制覇しなくちゃ────ね?」
口元に手をやるとネロは悪ガキの様にフオンに笑いかけてきた。
そんなネロの姿を見てフオンは「この悪ガキめ」と苦笑いしていた。
「そうだな、だから、今直ぐに制覇する。────この意味が分かるな、ネロ?」
「────ッ!!まさか、お兄ちゃん!?」
悪い笑み作りながら聞いてきたフオンの言葉を理解すると共に、フオンの元から離れられる20m限界まで直ぐに離れた。
その様子を見たフオンは笑うと口を開いた。
「そうだ、そのまさかだ!下にただ降りるなど時間の浪費なだけだ。なら、一瞬で一点突破してしまえば良かろう?」
「あぁ、もう!分かっていたよ!君の無謀さには!僕も準備があるから待っててよね!」
「あぁ、だが出来るだけ早くしろよ?」
フオンにそう言われたネロは直ぐ様に持っていた魔法のステッキを両手で持つと魔力を溜め、魔法の詠唱を始めた。
「────汝、我を守らんと、全てを塞ぎ、全てを包むこの依代を幾重にも成り我を守護せよ────「
ネロはそう詠唱をすると自分を覆う様に幾つもの半透明な結界を生成した。
それは今からフオンがやる行動から自分の身を守る為だ。"ただの結界"だけじゃ防ぎきれないことは知っているので幾つもの結界を生成したのだ。
「お兄ちゃん!僕の方は恐らく大丈夫だと思うから!やるならやっちゃって!!」
その声を聞いたフオンは笑顔を見せると自分の右手を頭上に上げた。
「任せろ!────これは未だに名など無いただのパンチだ。だが、耐えられるものなら耐えてみせよ────砕けろ」
そう呟きただ、フオンが立っている「ダンジョン」の地面を力を込めて殴ると直ぐにその場から離れる。
でもその殴る行為だけで全てが終わった。フオンが直ぐにその場から離脱すると共に────
ドッゴーーーン!ドゴン、ドゴン、ドゴ、ドゴン──
フオンの声の後にもの凄い振動が「ダンジョン」全体を揺らし、各階層を砂糖菓子の様に粉砕していった。
「────愉快、愉快!実に爽快だな!!これだ、この力を解放するのがとても気持ちいい!!」
「ダンジョン」を今も尚、崩壊をさせている本人はご満悦だ。逆に「
「きゃっーーーー!!?死ぬぅーーー?!お兄ちゃん助けてーーー!!!?」
────と、その衝撃で出た風圧、振動に耐えながらも悲鳴を上げていた。
そんなネロはなんとか結界で自分の身を守り続けていた。
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