第38話 旅立ちの朝②
◆
「次からはふざけないで僕の話をしっかり聞いてよね?」
「………分かってる」
プンスカ怒るネロの言葉に反論する事なく幸太は素直に聞いていた。
あの後、ネロがおかしくなった後幸太はかなり散々な目にあった。
◇
30分程ネロはフリーズしていたが、それも漸く治り風呂敷の中身について聞くかと思った矢先────
「あなた!さっきの僕をわざと興奮させる様な行動を取ったって事は────
そう言うと何を勘違いしているのかいきなり幸太の身体に抱きついてこようとした。
幸太はネロの全ての行動が見えている為直ぐにネロの頭を抑えて抱きつかれない様に対処したが────「面倒臭い事になった………」と、嘆いていた。
ネロは幸太に頭を抑えられながらも、尚も幸太に近付こうとしていた、それも口をたこの口の様に窄ませながら。
「あ、なたーー!!何で拒むの!?ゴールしていいんでしょ!?キスしてよ!チューしてよ!!────問答無用で接吻されろ!!!」
「────待て、ネロ落ち着け!それに最後のは何故命令口調なんだ………」
幸太は呆れながらも少し引きながらもネロの暴走を止める為に奮闘していた。
それからも暴れるネロに懸命に「あれは誤解なんだよ!」や「落ち着いてくれネロ!」と声をかけ続けること30分。漸く落ち着いてくれたのか今は幸太の事をジト目で見てくるだけだ。
◇閑話休題
そんな事があり騒動は止めれた幸太だったが、久しぶりに疲労感に襲われていた。
その間もネロからは「女性に対して頭を勝手に撫でるな!」や「耳元で囁くな!」や「────君の顔は凶器だから少しは抑えてくれ」など訳のわからない事を小言として永遠に説教されていた。
そんな事があり、上の様に幸太は注意をされていたのだ。だから今の幸太は反論する気力すら待ち合わせてなどいない。
「もう!本当にああいういきなりの誘いはやめてよね!僕だからまだしも、他の女の子だったらどうなっていることやら。万が一にもあなたには勝てないからどうとでもなるとは思うけど────けど!これからは控えてよね?」
「………はい」
「別に誘ってなどいない」とか「そもそも控えるとは何をだ?」と聞きたかったが………これ以上ややこしくして地上に出るのが遅くなったら敵わないので何も言い訳はしなかった。
そんな幸太の態度に少し溜飲を下げてくれたのかネロは普段通りの表情に戻っていた。
「もう良いよ、あなたも十分反省した事だと思うから。早速風呂敷の中に入っている「魔道具」について説明するよ?あなたも気になっている様だからね」
「頼む」
ネロの言葉に幸太は素直に返事を返した。
因みに「魔道具」とは、魔物から稀に摘出される魔石を既存の部材と合わせて出来る"魔法道具"の事だ。
「魔道具」の例を挙げると色々とあるが、主流の物と言うと冒険者協会の冒険者登録時に使われている「鑑定用紙」だったり、後は上位の冒険者が持つ様な様々な属性を付与した「魔法武器」だったりが例としてあがる。
魔石があればもっと色々な技術を使い「魔道具」を作れるのだが、本当に稀に魔物から摘出される事から魔石は何処でも在庫不足や高値で取引をされている。
そんな中、なんで魔石不足のこのご時世の中でネロが「魔道具」を作れるかと言うと………「異世界ノクナレア」から魔石を「アイテムボックス」に入れて持ってきているからだ。
あっちの世界………「異世界ノクナレア」では魔石など、どの魔物からも摘出された為、ネロは腐るほど魔石を所持している。
だから「魔道具」の作り方の知識を持っている妖精王であるネロからしたら作る事など造作でも無いのだ。
「じゃあまずは風呂敷を開けて中身を確認してみて」
「分かった」
幸太はそう言い灰色の風呂敷を開けると────
灰色のロングコート、コートと対をなすロングパンツ、黒色のブーツ、銀色の指輪が一つ、青色と赤色のピアスが一つずつと他にも色々な物が入っていた。
ただ、幸太には「鑑定」などの「スキル」を所持していない為これらがなんの「魔道具」か分からない為ネロに目線で伺った。
「分かってる、分かってるよ。ちゃんと今から説明するからさ!」
「そうしてくれると助かる」
そんな幸太の返事を聞くとネロは一つ頷いた。
「まず、この銀色の指輪だけどこれは結婚ゆ… ────コホッ!ゴホッ!………ごめん咳き込んじゃったよ!」
「………‥」
今絶対「結婚指輪」と言おうとしただろとツッコミを入れたかったが幸太はなんとか耐えた。
ボケでやっているのか、本当に間違えたのかは知らないが、もうそんなつまらない事で大切な時間を消費するのは馬鹿らしいと思ったからだ。
「進めてくれ」
「………分かったよ!」
何も反応を示さない幸太の事をつまらなそうに見ていたネロだったが、ネロ自身も「ダンジョン」からは早く出て地上に行きたかったのでそのまま何事もなかったかの様に話を進める。
「────まず、この銀色の指輪は君の力を制御してくれる「制御の指輪」ってところだね。効果は君の力の約半分………50%を制御してくれるはずだよ!恐らくそのぐらい力を普段から封印すれば安心して地上で暮らせると思うよ!」
「………ほう、それは普通に凄いな。俺の力の半分もこの指輪で制御してくれるのなら俺も助かる。この一億年で力の制御は自分でそこそこは出来る様になったが全てを制御するのは、無理だったからな………」
そんなことを何処か懐かしげに語る幸太。
今、幸太が言った様に力は大分幸太自身で制御出来るが、いかんせん強くなり過ぎてしまい「ダンジョン」生活でも少し支障があったのだ。
それが改善できるし、地上でも普通に暮らせるなら両手を上げて喜びたいほどだった。
そんな事を思っている幸太にネロは釘を刺すべき口を開いた。
「ただし!いくら君の力を50%封印したと言っても君が強いのは変わらないからね?だから魔物相手ならまだしも人と戦う時は"くれぐれ"も手加減を意識してね?間違っても力を少しでも出しちゃ駄目だからね?」
「………いや、流石に本気は駄目だとしても少しぐらい力を出しても────「それが駄目なんだよ!」………おう」
幸太は少し反論をしようとしていたがネロに「駄目だ」と一喝されてしまい諦めることにした。
「あなた、まだ分かっていない様なら今、もう一度言うけど────君は強くなり過ぎなの!!いくら努力したからと言っても限度があるでしょ!何で少し力を入れた腕を振っただけで"空間の次元"を歪ませるの!そもそも「ダンジョン」の壁は普通なら壊せない
幸太は以前修行と称し「ダンジョン」の壁を破壊した事があり、その事をネロは思い出したのか頭を抱えていた。
そんなネロに幸太は────
「いや、でも」
「言い訳しない!!」
「………はい」
何か言い訳をしようとしてあっさりと撃沈していた。
「だから万が一がない限りその指輪をしていても力を一切入れない事!いいね?」
「分かった」
幸太も一応分かっているのか直ぐに指輪を右手の薬指に嵌めると素直にそこは頷いてくれた。
「うん、よろしい!………まぁ、これは無いと思うけど。幸太君と並ぶ化け物の様な魔物とかが出てきたら本気を出しても良いよ。それでもその指輪を外すまでの敵は今後現れないと思うけどね。ただ、もし、本当にそんな化け物が現れたら────この地球はきっと終わりだよ」
「お、おう」
そんなくたびれた様なネロの言い方に幸太は生返事しか返せなかった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます