渇望者の旅路
第37話 旅立ちの朝①
◆
「────あなたに再度聞くよ?まず僕達がこれから初めにやるべき事は何かな?」
朝食を食べ終わった幸太とネロは地上に戻る準備をしていた。
そんな時ネロからそんな事を聞かれた。
「簡単な事だ。まずは「冒険者協会」に顔を出して冒険者登録を行う。その後は「ダンジョン」に潜りランクを上げる。高ランクになれば「ダンジョン攻略」も進めれるからな。後は強者と出会える事を願う事だ」
なので幸太は「そんな分かり切っている事を」と思いながらも答えた。
幸太の返答に「うんうん」とネロは頷いていた。最後の強者と出会える事と言った時は苦笑いをしていたが。
「そう、あなたが今言った通りで合ってるけど。けど、だよ?僕達は今のままじゃ地上に出れないし冒険者登録も出来ないだろうね」
「………それは、どうしてだ?」
本当に何も分からないのか幸太は素でネロに問い返していた。
そんな幸太を見て「これだからあなたは、僕が付いてなくちゃ駄目だね」とやれやれとでも言いたげに首を振っていた。
頼られた事を少し嬉しそうにしていたが。
「分かった。何も分からないあなたに教えよう。まずあなたのその今の尋常じゃない強さでは地上でまともに生活すら出来ないだろうね。今は力の制御は大分出来ている様だけど一般人でも君の強さが凄まじい事はわかる程だよ。正直に言うと────強くなりすぎなのさ」
「なん、だと」
盲点だったのか幸太はそう呟くとその場で膝を折ってしまった。
そんな膝を折る幸太の姿は魔物との死闘でも修行でもここ何千年もネロは見ていない姿なので珍しいが、気にせず話を進める事にした。
「それに冒険者登録が出来ない理由はあなた、いや────幸太君。君に「スキル」が一つも無いからだよ。だから当然冒険者の登録は出来ない」
「────そう、だった。「スキル」がないと冒険者にはなれない。前もそれで挫折したじゃないか」
今、幸太が言うように「スキル」を持たない人は冒険者になる資格が無いとみなされている。
結局幸太は一億年もの年月を修行をしたが、何も「スキル」を得られなかった。
だが、正直に言うと「スキル」などなくとも幸太は強すぎるので完全に自分が「
久々にネロが幸太を名前呼びにした事に驚くよりも先に自分の不甲斐無さに失望していた。
「それにだ」
「まだあるのか!?」
幸太に追い討ちをかける様に話そうとするネロに流石の幸太でもツッコミを入れてしまった。
だがネロはそんな幸太に手心を与えるつもりは無いのか話し続ける。
「あぁ、あるとも!それが────あなたが地上で"犯罪者"として"指名手配"になっているかもしれないからだ」
「犯罪者だと!?」
ネロの「犯罪者」という言葉に今日一で幸太は反応していた。
「あぁ、犯罪者だ。あなたは覚えてるかな?体感で約一億年前の話になるけど、佐々木という子に地上であなたの悪事を広める事をあなたが了承した事を?」
「────あ、あぁーーーー!!?覚えてる!佐々木ィーー!!??それに昔の俺ェ────!!」
冷静さクールさは何処にいったというのだという様に幸太は憤怒の表情を作ると、佐々木についてと昔の自分に対してガチで切れていた。
忘れ去られていた佐々木は哀れにも絶対者の幸太に思い出されてしまった。
そんな幸太の怒りで「ダンジョン内」が震えていた。
(あちゃー。僕が仕向けた事だけどやり過ぎたね。少し落ち着かせないと)
なので流石にこのままでは「ヤバイ、追い込み過ぎた」と思ったネロは合いの手を入れる事にした。
「まぁ、少し落ち着きなよ?僕が言っている犯罪者の件はあくまでもかもしれないという曖昧な事だ。それに今僕が言った事はこの僕が────妖精王であり君の"妻"でもあるこの僕が!全部解決できるのさ!!」
自慢げにネロはそう叫んだ。
「────妻とかは正直分からんが、本当に解決出来るのか?」
不安そうに聞いてくる幸太の表情を見てネロは少し興奮をしている様な感じを出していたが、幸太はその事には何も指摘せずに話を聞く事にした。
「勿論!君の相棒である僕に任せてよ!それにこれでもこの一億年で僕は何もしてこなかった訳ではない。君やジャック君が修行を頑張っている中、僕も頑張ったのさ!それに前もってこうなるんじゃないかなとは予想が付いていたから僕はある物を作っていたのさ!」
「ある物?」
「あぁ!それが────コレさ!」
ネロはそういうと事前に用意していたのか背後に隠していたパンパンに膨らんだ灰色の風呂敷を幸太の前に出した。
その風呂敷を興味ありげにジロジロと幸太は見ていた。
「────これの中に何かが入ってるのか?」
「そうだね!君の為に僕が丹精と愛情を込めて作った「魔道具」達が入ってるよ!ここだけの話だけど頑張り過ぎて「
そう言われた事に幸太は嬉しさはあったが、どうしてかネロを疑ってしまう自分がいた。
前も似た様な事があり、その時は幸太の貞操と引き換えになりそうになったからだ。
なので用心をしてしまう。
「………ネロ、一つ聞くがこれらを貰ったら何かをしろとか、理不尽な事は言わないよな?」
「言うわけないでしょ!!君の為に作ったと言ったじゃないか!僕を何だと思ってるんだい!!」
幸太の言葉に過剰に反応すると立派な胸を揺らしながら顔を真っ赤にして怒っていた。
今も「これだからあなたは………」とブツブツと幸太の小言と思われる事を言い続けている。
(………少し疑いすぎたか、俺の為にやってくれた事だもんな。今回ばかりは悪いことしたな。早いうちに謝っとくか)
これでヘソでも曲げられて本当に変な脅迫まがいな事でもされたらたまったもんじゃないと思った幸太は。
瞬時にネロの側まで近付くとお礼を言う事にした。
ただし、頭の撫で撫でも添えて。
「ネロ、すまなかった。お前が俺の為にやってくれた事なのに少しでもお前を疑ってしまって。ただ、俺の為に色々とやってくれて────ありがとな?」
「ふぇっ!!?」
突然の幸太の謝罪に加え、久々の頭撫で撫でを喰らったネロはさっきまで怒っていたのは何なのかと思わせる程に顔を真っ赤にしたと思うと素っ頓狂な声をあげてしまった。
それでも尚幸太は謝罪を続ける。
「ネロ、本当にありがとうな?お前がいてくれて俺はとても、助かってるぞ?」
再度ネロの飴色のゆるふわパーマを撫でながら止めと言わんばかりに耳元でお礼を言うと────
「フニャーー!!?」
ネロは猫の様な鳴き声をあげたと思ったらその場で頭から湯気を出しフリーズしてしまった。
(………やりすぎたわ………)
幸太は自分がやり過ぎた事に気付いたが、既に後の祭りなのでネロの回復を待つ事にした。
まぁ、ネロはネロで幸せな顔を浮かべているので良しとしようと幸太は心の中で思う事にした。
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