第36話 終わりと始まり





「────また、2人になっちまったな」


 ジャックが居なくなり少し寂しい空間になってしまった中、幸太は何を言えば良いか分からなかったが気付いたらそう口にしていた。


「でも、僕達は初めからこの2人で始まったからね。ジャック君なんて最初は魔物で敵だったし」

「そりゃあそうか」


 そう言うと2人は暫し笑い合った。


「………それで幸太君はこれからまた修行を続けるのかい?今の君でも正直に言うと地上の世界で何処でも通用すると思うけど?」


 ネロはそう言ったが、それも事実であり。

 今のネロよりも既に幸太の方が強くなってしまっている。


「いや、まだだ。まだ俺の修行は────「努力」はこんなもんじゃねえ」

「でも、君が決めていた約500年の修行は終わったよ?」


 ネロの話しを聞くと幸太は首を振る。


「ンなの唯の通過点に過ぎねぇさ。俺は一応証明が出来た。「レベル」なんて「ステータス」なんて────「スキル」なんて無くても「努力」次第で人は強くなれると、限界を超えられると。でも、これじゃまだ駄目だ。俺が目指す強さはもっと遥か先にある」


 そんな事を言っている幸太だが、この400年間の修行で以前とは比べ物にならない程の強さを手に入れていた。

 だだ、それはジャック自身もで自分達の成長を2人で喜び合っていた。


 だがそんな中、幸太はこの頃思うのだ。

「努力」をすれば強くなれる。何処までも高みを目指せる。


 なら、それはと。


 その好奇心が幸太を動かしている。


 気になるのだ己の強さの到達点を。


「なら、あとどれぐらい修行するんだい?」


 ネロが聞くと振り向きながら幸太はニヒルな笑みを浮かべ答えた。


「────ハッ!決まってるだろ?俺が納得するまでだ!努力して、努力して、努力して、努力して努力して努力して────俺は見返してやるんだ!俺を馬鹿にした奴等を!!世界を!!!」

「幸太君………」


(────多分もう見返せるぐらい強くなっていると、今更言っても聞いてくれないんだろうね。なら僕はだだ彼に寄り添うだけだ)


 ネロは一人心の中でそう思うと幸太に笑顔を向けた。


「分かったよ。僕は君と共にあろう。僕達は相棒だからね?」

「あぁ、何度も言うが頼りにしてるよネロ!それと俺と共に居てくれてありがとな!!」


 いきなりの幸太の心からのお礼の言葉にネロは「ドキリ」としてしまったが、顔には出さない様に心掛けいつも通り対応した。


「────ッ!!あ、あぁ。それは僕があの時決めた事だからね。僕の方こそ楽しい時間をありがとう!今後とも宜しくね────幸太君?」

「勿論!お前と出会えた事が俺の宿願の始まりだからな!」


 そう言うと2人は不釣り合いな大きさの手を軽く当ててこの先の未来に馳せる様に前を見ていた。



 ◇閑話休題月日は流れて


 

 そこからは何年修行をしただろうか?


 最初は100年────300年────500年────1000年──── ──── ────と数えていたが途中から二人は数えるのを辞めた。


 数えても、考えても意味など無いのだから。


 幸太が鍛え始めてからはジャックと一度も会っていない。なので少し心配をしてしまったネロだったが、逆に幸太は心配などしていない。

 一度闘った相手、それも自分のライバルがそんな簡単にくたばるはずがないと分かっているからだ。それは信頼とも信用とも呼べぬ何かではあったが幸太はそれで良かった。


 体感で約一億年の時を修行した幸太とそれに寄り添ったネロは気付いた事がある。もうこれ以上の修行は不要だと幸太は肌で感じ、ネロは直感で感じた。

 別に幸太の外見は初めの頃と何一つ変わっていない。だだ、ある一定の人物だけが分かる。幸太の秘められた力に。その、完成された身体に。


 生物は細胞がある限り成長を止めない、それは幸太も一緒で長年鍛えた体は既に世界の頂点とも言えるほどに完成しきっていた。


 そんな中、黒色のシャツを着た男。白色のシャツの上に緑色のカーディガンを着込んだ女性の二人組の美男美女は落ち着いた雰囲気を出し「ダンジョン内」だというのに一服していた。


「────ネロ、修行は此処で終わりにする。明日からは地上に出て目的通り他の「ダンジョン」を制覇する」


 その男性の方はいつもとは変わらない高校生ぐらいの外見の────幸太だ。


 だだ、何処と無く強者の雰囲気、振る舞いをして落ち着いている様に見える。見る人によっては大分大人の様な雰囲気に見える。


「えぇ、。もう地上に戻ろうか。ジャック君とも本当に久々に会いたいしね」


 幸太の言葉に返事を返した飴色の髪を持つ茶色のカーディガンを着込んでいる美人のお姉さんは────ネロだ。


 元々元の姿、人型に戻れば「胸もバインバイン」と言っていたが、流石の幸太もこんなに美人でナイスバディなお姉さんにネロがなるとは思ってもいなかった。

 まぁ、あまり女性に興味のない幸太は普通に接しているが。


 でも、皆もそんな事よりもお気付きの事があるだろう?それは────ネロの幸太への呼び名だ。


 だだ、勘違いをしてはならない。ネロは幸太の事をと呼んでいるが別に結婚をしているわけではない、長い年月一緒に暮らしたからかネロが恋人などを完全に無視して勝手に幸太と"結婚"しているものだと思っているだけに過ぎない。

 幸太なんてネロと結婚などつゆほども思っていないし、ネロの呼びも呼び方などどうでも良いと思っているから何も言わないだけだ。


 それよりも変わっているのが幸太の性格だ。

 前までは荒い口調で少し猪突猛進な所があったが、今ではそんな様子も見られず落ち着きクールに振る舞っている。

 それはこの長い年月を生活したから心が大人になっている証拠なのだ。心が疲弊すると共に心も成長をする。


 なので外見は子供でも心の中は一億年を生きた人間のそれになっていた。


「そうだな、ジャックも気になるな。ただ、俺達がこの「ダンジョン内」から出る時は1日しか経ってないのだからあちらからしたらそんなに時間は経っていないと思うのかもな」

「そうだね。まぁ考えるのも良いけど明日は久々の地上でしょ?早目に寝たらどうかな?それとも僕と大人の運動でも────する?」


 そんな風に甘い声を出すと少しシナを作り、横に座る幸太に自分の身体を預ける様にしなだれかかるネロだが────幸太は瞬時にその場から離れ既にネロ一人が椅子からひっくり返っている光景があった。


「────ずずっーー」


 幸太はその横で澄ました顔をしながらもお茶を啜っていた。


「もう!あなたったらいつもそうして澄ました顔で僕をお預けして!この童○!!」

「………‥」


 そんな事を言いプンスカ怒っているネロだが、反対に幸太は未だに澄ました顔をしながらネロの言葉を聞き流している。

 コレはいつもの事なので幸太自身気にしても意味ないと思い、ネロが飽きるまで何も言わないのを徹底している。


 何かを言えばネロは直ぐに調子に乗るからだ。そういうこともあり未だに幸太は童○だ。別に貞操を守っている訳ではなくただ、女性に興味が無いだけだ。


「良いよ!あなたがそうやって相手をしてくれないなら僕一人で寝るから!」


 そんな事を言うと一人近くにある拠点の中に入って行ってしまった。


「………はぁ。いつも、いつも飽きない奴だな」


 そんな風に幸太はため息を吐くと、自分も拠点に戻るのであった。


 明日からは地上に出て他の「ダンジョン」探索や地上にある当時は幸太が入れなかった「冒険者協会」なるものに行くつもりだ。

 そこで腕試しが出来れば上々、何か面白い事が起これば最高だと幸太は思っている。


 ただし、幸太は知らない。


 この世界────というか全世界を探してももう既に幸太に勝てる生物などいない事を。

 努力をし続けた人間の快進撃物語が今始まる。



 訪問者ヴィズィター。それは「ダンジョン」や魔物、ネロやジャックなどの異世界から来た人物や物のことを示す言葉だ。

 巷ではとも呼ばれ。今後の幸太も出逢いと別れを経験する事になる。


 そこで何を得て、何を知るのかは神のみぞ知るなんとやらだ。




 一つ補足をすると、ネロの口から出た「お願い」アレはまぁ────皆さんの考え通りで。


 ただコレだけは言っておこう。


 幸太の貞操は────守られていると。

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