第42話 エピローグ




 2035年4月6日 17時20分「川越ダンジョン」がまだ消滅していない刻。



 冒険者協会東京支部


 此処は冒険者が「ダンジョン」に入る為に冒険者登録をする協会だ。

 中には冒険者協会の事を通称「ギルド」なんて言う名称で呼ぶ人もいる。

 それぞれの国・県・地域で支部の名前は変わるが今は何処でも冒険者協会が設けられている。


 そんな中、此処「東京支部」は日本でも片手に数えられる程の大きな支部で冒険者登録をしている人数も全員を合わせると約8000人も超える大手の支部になる。


 そんな「東京支部」の協会長室に幸太と「隠しダンジョン」で会った佐々木が呼ばれていた。


 協会長とは、支部の最高責任者の事だ。


 要するに一番偉い存在だ、そんな人物がいる室内で稚拙な喋り方だが「隠しダンジョン」であった事を佐々木は話していた。


 何で佐々木だと言われると、最後に幸太達と会い「隠しダンジョン」に入っていたのが佐々木なので一番「ダンジョン」の中の様子を知っていると思い隈なく聞こうとした為だ。


 ここに幸太が居れば間違いなく「他の適材の人間を呼べ」と口を出すだろう。


「────ヘェー要するに、だ。君達が確認の為に行った「隠しダンジョン内」には工藤幸太────"私の息子"がいたと?それも魔物と妖精と組んで悪事を働こうしていたと?そう言いたいのね?」


 佐々木にそう聞いた人物こそ、此処「東京支部」の最高責任者の工藤静香くどうしずかだ。

 

 名前と言動から分かる通り幸太の母親だ。


 ただし、母親の前にと付くが幸太の母親で間違い無いだろう。


 外見は黒のスーツ姿でキリッとしている目元、腰まである長い黒髪と引き締まったスタイルに大振りな胸はどんな男性でも魅了するだろう。

 この女性が一児の母とは誰も思わないだろう、外見も20代後半と思われがちだが実年齢は41歳で、聞いた人が逆に驚くほどに若く美人な女性だ。


 そんな女性に問われた佐々木はテンパっていた。


「は、はい!あれは工藤君で間違い無かったです!!だだ魔物に操られているのか自分の意思かは分かりませんでしたが僕達は何もやっていないのに!」


 相手が協会長だからか美人だからかは分からないが、静香の胸元をチラチラと見ながら嘘か本当か分からないことをペラペラと話していた。


 ただ、証人は佐々木一人しかいない為信じるしか無いが────自分の息子が関わっているからか静香は疑い深くなっていた。

 自分の支部の冒険者を疑いたくは無いが、流石に────"愛する息子"の名前が出たのだから証拠を確かめたい。


「────ふぅ、分かりました」


 その静香の言葉を聞き納得してもらえたと思ったのか佐々木は笑顔を向けた。


「じゃあ僕の話を────「ただ、佐々木君の事を信用していない訳ではありませんが、録音をしているはずです。それを聞かせてもらえませんか?」────分かりました」


 そう話を遮るように言われてしまったので渋々「ダンジョン内」で録音した内容を室内にいる人全員に聞かせることにした。


 美人と話せるのは良いが、正直に言ってしまうと佐々木はこの場所から今直ぐにでも逃げたかった。

 何故なら静香の他に今、此処「東京支部」の最強のパーティ「夕凪の日差し」のメンバーに見られているのだから。


 中には佐々木の事を睨んで見てくる人もいた。


(早く帰りてぇー────「夕凪の日差し」には可愛い子が沢山いるけど男性陣が怖くて見れねぇわ。俺には縁のない世界だな。ここは無難に工藤の録音した音声でも流して退散しますか)


 そう考えると躊躇う事なく音声を流す事にした。


「────じゃあ、流しますね?」

「えぇ、お願いするわ」


 確認を取れたので小型の録音機を取り出すと音声を流した。


『俺は人が嫌いだ。人と生活するなんて吐き気がする………でも、そんな中………お前みたいな魔物を俺は助けた』

『俺と一緒に………何者にも縛られないぐらいの強さを手に入れないか?お互いの想いは違うかもしれないが、強くなりたいと想う利害は一致している』

『『────ッ!!』』


 その音声を聞いた静香含めるその場にいる人達はその幸太の言葉に驚きを隠せないようだ。


 それに静香にはコレは作り物では無く本当の声だと分かる、何度も耳にした声だそんなもの忘れるはずもない。


 そんな室内が「シーン」としている中、佐々木は遠慮無く口を開いた。


「すみません一応流したんで────帰って良いですか?」

「え、えぇ────ごめんなさいね疑ってしまって。佐々木君はもう退室して良いわ」


 今さっきの音声を聞き動揺しているようだが、なんとか佐々木に退室の許可を伝える事が出来た。


「分かりました。何かお役に立てたなら良かったです。では、失礼しました」


 佐々木自身も長居はしたく無かったので静香に従って退室をした。


 佐々木が退室した後も誰も話す人はいなかったが、静香が隣に佇んでいる少女に話しかけた。


「────"セリナちゃん"に聞くわ。あの声は────幸太の物よね?」


 近くに待機していたセリナと呼んでいる少女に声をかける。


 静香がセリナと呼んだ少女は橋本はしもとセリナと言い、幸太の"幼馴染"でもあり「夕凪の日差し」の"副リーダー"も担っている。


 肩までの銀髪に凛々しい瞳、桜色の唇は可愛らしさを引き立てている。スタイルも静香と同じくらいのプロポーションをしていて冒険者の間ではアイドル的な存在だ。巷ではその見た目と強さ、人気から【白銀の剣姫】なんて呼ばれている。


「────はい、アレは幸太の声で間違いないです。でも何で幸太が外に、それも「ダンジョン」なんかにいるの………「ダンジョン」に近付かせない為にも言いたくない悪口を浴びせたり邪魔をして来た私は一体………」


 そんな項垂れているセリナには悪いが静香はお願いを────依頼をする事にした。


「セリナちゃん。辛い気持ちは分かるわ。でも今はどうか幸太を「ダンジョン」に行って探して来て欲しいの。今なら間に合うかもしれないし、佐々木君の言う通り魔物に操られていたらと思うと………‥」


 静香はい少し泣きそうになりながらも幸太の救出依頼をセリナに頼む事にした。


 その話を聞いたセリナも自分がしっかりとしないといけないと思ったのか立ち上がると真剣な表情を作り、静香の依頼を受ける事にした。


「分かりました。今はリーダーは不在ですが私達────「夕凪の日差し」は工藤幸太を救出に行きます!!」


 その堂々としたセリナの態度に他のメンバーもやる気を出したのか表情は少し明るかった。


 それを見た静香は少し表情を明るくすると口を開いた。


「お願いよセリナちゃん。私の息子を救って来て。あなた達なら出来るわ。日本でも6パーティしかいない「S」ランクのパーティなんだから!」


 そう、セリナが属する「夕凪の日差し」は冒険者協会から直属に言われている「S」ランクのパーティだ。


 セリナ自身も冒険者ランクは「S」ランクである。


 冒険者のランクは大体が魔物のランクと同じなので今は割愛。


「分かりました!必ずしも幸太をここに連れて来ます!!」


 決意を込めた言葉でセリナは伝えた。


 ただ、それが叶うはずのない事だとも知らずに────





  2035年4月6日 19時20分「川越ダンジョン」内にセリナ達「夕凪の日差し」が突入する、はずだったが謎の結界が張られていて「ダンジョン」内に入れないため、断念。




  2035年4月6日 20時40分「隠しダンジョン」通称────「川越ダンジョン」崩壊確認。


 このことに伴い"工藤幸太"の生存が絶望だと報じられる。



 ただ、諦められきれなかったセリナと静香は他の「ダンジョン」にいるかもと希望を抱き、探索を開始する。


 


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