その先へ

第33話 人類の敵




 でも幸太としてはどちらでも良かったので、走るのを辞めて佐々木の元に戻りながら合意の言葉を伝える。


「別に良いぞ?俺が悪者ヴィランになろうが何になろうがどっちでもかまいやしねぇしナァ。飛んできた火の粉は此方で対処をするだけだからな」

「────分かった」


  幸太自身が即答で承諾をするとは思っていなかった佐々木は少し動揺を見せたが、それ以上はもう今は話す事はないというように佐々木は口を噤み、ネロの「転移」を待つ事にした。


 2人の会話を聞いていたネロは一つ頷いた。


「話が纏まったようだね。なら早速「転移」を始めるよ────「異邦から来たし彼等を 其の地に帰さん────「転移・集団」!」」


 ネロが詠唱を紡ぐと佐々木の身体を光の膜のような物が包み込む様に現れた。


「こ、コレが「転移」なのか……?ただ光っているだけの様に思うが」


 そんな佐々木の呟きに「転移」を発動させた本人のネロが答えた。


「あぁ、ちゃんと「転移」は発動しているよ?ただしコレはただの「転移」では無く「集団転移」なる物になる。君のお仲間さんは沢山いたようで地上に送るのに少し時間が掛かっているようだね。でも、あと数分もすればじき君の番も来て地上に戻れると思うよ?」

「あ、ありがとう。そうか他の仲間も「転移」させなくちゃいけないから順番の為に遅いのか」

「そうだね」


 佐々木の言葉に同意する様にネロは頷いた。


 ただ、そんな2人の会話に割り込んでくる一つの影があった。


「よう、佐々木ィ?お前ネロのお陰で地上に無事戻れるようで良かったな?」

「チッ!最後まで工藤の顔なんて見たくなかったわ」


 そんな佐々木の堂々とした言い様に幸太は笑っていた。


「ククッ、俺も嫌われた物だナァ。まぁ、別にどうでも良いが。佐々木、お前が地上に戻る前に一つだけ伝えとくわ」

「────お前から俺に?」


 聞かれた幸太は頷いた。


「あぁ、そうだ。まず、お前最初に俺にやら何やら言っていたけどあの言葉の中で一つ良いのがあったから貰うぞ?」

「は?何言って………」

「まぁ、聴け。お前が言っていた────って奴?アレ良いじゃねぇか?今の俺には相応しい名だよ!!その名が地上でも浸透するように頑張ってくれよナァ?」


 ただ、佐々木の話を聞かず、幸太は自分が言いたいことだけを伝えた。

 そんな幸太に今更ながら佐々木は恐怖を覚えていた。


(────何を言っているんだコイツは?そんな事を伝えたら地上に居られなくなるだけじゃないか……それをしようとしている俺が言える台詞では無いが………)


「────そんな事をしてお前に何の意味があるんだ?」

「何言ってるんだ?お前が地上で広めるって言っていたんだろ?それに俺が地上に出た後そんな名で呼ばれるなんてなんか良いじゃねえか?普通の人じゃねぇ人間を辞めた存在みたいでヨォ?」

「お、お前は!!?」


 何かを幸太に伝えようとした佐々木だったが、自分の身体の光が先程とは比べられないほどの輝きで光続けた為、その先を言えなかった。


 それは「転移」が始まったからだ。


 だが、幸太だけは最後の花向けにと言う様に最悪な言葉を佐々木に残した。


「佐々木よう、俺は忘れないぜ?今はこんな「ダンジョン」なんかにいるが俺も上に行き地上でお前を見つけたら真っ先に殺してやるよ?────だから、精々足掻けよ?なんせ俺はなのだからヨゥ!!?」


 幸太が最後まで伝えると佐々木を包んでいた光の幕は次第に光の強さを増していった。

 その際に佐々木は顔を青ざめながらも幸太に何かを伝えているようだが、まったく聞こえなかった為、薄気味悪い笑顔だけ返してやった。


 そんな事をしていたら佐々木の地上への「転移」が終わったようでさっきまでの光の奔流、騒がしさが無くなった。

 

「────やっと騒がしい奴がいなくなったか、そんじゃ俺達も拠点に戻るか?」

「幸太君はあれで良かったのかい?」


 幸太が背後にいるはずの2人に伝えるように陽気に話しかけるとネロにそんな事を聞かれた。


 ただ、聞いてくる意味が理解出来なかったので聞き返す幸太。


「んあ?それはどう言う意味だネロ?俺と佐々木の関係はアレでよかったのかって事か?」


 幸太がそう聞いてもネロは首を振った。


 違うようだ。


「違うよ、別に佐々木君と君との関係は特に気にしてないさ。それよりも君は人間なのに人間の敵の様な存在になって、振舞って良いのかって事だよ?」

「────あぁーーー、それなぁ………」


 幸太は頭を掻くと面倒臭そうにしながらも口を開いた。


「言葉の綾。あの場の勢い。ちょっとした脅しってのもあるが、俺は別に自分が言った言葉を否定するつもりないネェぞ?」

「………と、言う事は、君は自分の意思で悪人になり人を脅かす存在になるのかい?」


 ネロが幸太にそう聞くと、悪人と聞いた時に苦虫でも噛んだ時の様な微妙な表情になってしまった。


「────なる訳ねぇだろ。否定はしないと言ったが俺は別ににもなるとは言ってない。そもそもだ、正義?悪?────ンなのそこら辺の奴等で勝手にやらせとけ、俺はそんなつまらん茶番遊びに付き合うつもりは毛頭ねぇ」

「────じゃあ君は今後どうするんだい?ただ強くなるだけ、じゃないんだろ?」


 ネロが何かを気付いたように幸太に意味ありげに聞くと、その言葉に幸太も答えるようにニヤリと笑うと口を開いた。


「当たり前だ!俺が目指すのは自由でいて俺が俺を俺であれるようにただ生きる、その先に何があるのか確かめる。それに各地の「ダンジョン」に巡るんだろ?ならもっと強くならなくちゃいけねぇ、だからここからが本当の始まりだ」


 幸太のその言葉に、意思にネロは一つため息を吐くと同意する事にした。


「分かったよ、僕はもう何も言わないで君を尊重しよう。僕と君は相棒、いわばパートナーだ。だから君がやろうとしている事をこの目でこの耳で感じようじゃないか。流石に危ない事をするようだったら止めるけど」

「そうしてくれ、頼りにしてるぞ相棒!」


 幸太はそう言うとさり気なくネロの髪を撫でた。

 幸太にされるがままにされているネロは少しくすぐったそうにしていたが。

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