第32話 転移




 誰も助けに来てくれない事に佐々木は少し不安に思っているのか顔を青ざめていた。

 

 そんな中、先程まで無言を貫いていた幸太の仲間であり相棒でもあるネロが佐々木に話しかけた。


「君は今頑張ってお仲間さんに連絡を取ろうとしてるかもしれないけど、それは無理だよ?」

「は?何でだよ?────それよりも妖精?」


 ネロの存在に佐々木は今初めて気付いたのか物珍しい物を見る様な目でネロの事を見ていた。


「そうだよ、妖精さ。それ以外は君に教えても無意味だから言わないけどさっきの話の続きをさせてもらうよ?」

「あ、あぁ、何も此方に危害を食らえないなら」

「あぁ、僕達はそんな事をしないさ。まず君達が連絡を繋げられないのは僕がこの「ダンジョン内」の回路を全部遮断しているからなんだよ?今は外からは誰も入れないし、連絡も出来ない。逆に此処からは僕の許しが無くては「ダンジョン内この空間」から出られないけどねぇ?」


 ネロも少し悪い笑みを作ると佐々木に伝えた。

 言われた佐々木はそれでも反論をして来た。


「そ、そんな事を出来るわけがないだろ!出鱈目な事を言うな!多分地上でゴタついていたりするんだよ!」

「そうは言っても連絡の一つぐらいはして来てもおかしくはないでしょう?」

「そう、だけど」


 佐々木にも本当は薄々は勘付いていた。


 地上にいる間に作戦は決めていて今のように佐々木本人が危機を感じた時に救援の言葉を叫べば佐々木が耳元に付けている小型のマイクから電子信号が送られて待機部隊が助けに来る仕組みになっている。

 それとはまた別に最初から佐々木の近く付近で待機してくれている事になっている冒険者達がいるのだが、その人達も誰一人すら助けに来ない状況なのだから。


「佐々木君と言ったね、僕達はただ穏便に過ごしたいだけなんだ。君達が何もしないなら僕達も何もしない、そうでしょ幸太君?」

「────あぁ、何も手出しはしねぇよ、コイツが何もしない内はな。それに、こんな雑魚ザコに構っている暇は俺にはねえし」

「なっ!?貴様、工藤!?」


 喧嘩をまたしそうになっていた2人をネロは間に入って止める事にした。


「もう!ほら2人共直ぐに喧嘩をしないの!」

「「フン!」」


 そんな2人の子供の喧嘩の様なものをを見ているネロは「はぁ……」と、少しため息を吐いていた。


「それで、さっきの話の続きだけど、佐々木君、君達が僕達に危害を加えないという証明が出来るならこの「ダンジョン」から今直ぐにでも君達を地上に「転移」させると約束するよ、どうする?」

「「転移」!?君はそんな事を出来るのか!?」


 「転移」というワードに食い付いた佐々木だったが無駄な会話をしないと言ったネロはそれ以上佐々木に教える事はなかった。


「言ったよね?無意味な事は話さないと?今は僕達の言葉に従ってもらう他ないよ、ただ、それでも従わないというなら────」

「────オレが此処でお前ヲ処断しよう」


 幸太の近くで待機していたジャックが立ち上がると無骨のオノを肩に担ぎながら佐々木の前までやって来た。


「ヒィィーーー!!?」


 ジャックが目の前に来ているのに気付いた佐々木は自分の目の前に来た事が本当に怖かったのか、またその場で尻餅を付いてしまった。

 今回の尻餅では少しダサい事に佐々木はお漏らしをしていた。


 その事に気付くと幸太は笑いを抑えるように口を手で押さえると震えていた。

 そんな幸太に気付いたのか佐々木は羞恥を顔に浮かべると涙目になっていた。


「まぁ、君が漏らしてしまったのは災難だと思うけど、君が"YES"と言わないならもっと凄惨な事が待ってるよ?出来るだけ利己的な判断が出来ると嬉しいよ」


 ネロはそこで一旦話すのを辞めると佐々木の事を下から見つめる様に見ると話の続きをした。


「────さて佐々木君。君はどうする?この場で直ぐに「転移」をするのか、彼に殺されるのか選択肢は2つ開示した。選びたまえ」

「………‥」


 言われた佐々木は羞恥心と恐怖心で震えながらも下を向くと無言で考え始めた。


 5分〜10分は経っただろう。


 佐々木が悩んでいる中、幸太は暇だったので「ダンジョン内」を駆け回っていた。待っていても身体が窮屈なだけだからだ。

 ただ、そんな事を幸太がしていると、漸く答えが出たのか佐々木が顔を上げると決意したようにネロに告げた。


「わ、分かった!君に「転移」してもらいたい!ただ、此処であった事を包み隠さず地上で話しても、良いか?」


 自分の立場を分かっていないのかそんな事を横暴にも佐々木は幸太達全員に聞こえるように伝えて来た。

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