第31話 佐々木
だが、もう幸太達に見つかっているし、近くに手頃な身を隠す所が無かったからか何故か堂々と自分の胸を張ったまま幸太達の近くに近付いてきた。
そんな佐々木の謎の行動に逆に幸太達は警戒を強めてしまった。
「工藤!俺はこの目で見たしお前達の先程からの会話も録音させて貰った!それにコレはただの録音では無いぞ?そのまま地上で待機している上位の冒険者達が現在進行形で聴いている。俺が合図をすれば直ぐに駆けつけてくれる!だからお前達はもう逃げ場はないぞ!!」
「「「………‥」」」
自分の耳に付いている小型のマイクみたいなものを指差すと自慢をする様にまた、自信満々に佐々木は伝えて来た。
恐らくその佐々木の耳の近くにあるマイクの様なものが録音機がわりなのだろう。
ただ、その話を聞いた幸太達の率直な感想は────「それがどうした?」だった。
なのでそんな佐々木に警戒をしていても馬鹿らしいと思った三人は無言でその場を立ち去ろうとした。
だが、それでも尚邪魔をしてくる佐々木。
「はっ!怖気付いたか工藤!お前の話題は地上では凄いことになっているぞ?「父親殺し」「スキル無し」「チート野郎」「人類の敵」────なんて呼ばれてるなぁ?まぁ、全部俺が広めてやったんだがなぁ!!俺のお陰で有名になれたんだ、喜べよ!」
「………‥」
そんなどうでも良い事を話し続ける佐々木を白い目を向ける幸太は心底どうでも良いと思っていた。
だが、コレは佐々木の時間稼ぎの罠かもしれないが乗ってやることにした。
「────で?それがどうしたんだぁ?そんなありがたくもねぇ名を何個もほっ下げてテメエは俺にただそれを伝えに来ただけカァ?"ありがとうございます"────とでも言えば良いのカァ?」
「お前に感謝なんてされても身体に虫唾が走るだけだ!俺は本当の事を地上の皆に知ってもらう為にまた此処に来たんだよ!お前の悪事、今からやろうとしている非道な行いを止める為にな!その為にならお前には"死"も覚悟をしてもらう!!」
佐々木はそういうと自分の腰についているホルダーに吊るしていたナイフを取り出すと構えた。
その姿を見て幸太はただ、欠伸をするだけだったが。
「そっ、今のお前さんは勇者気取りか英雄気取りかァ?なら俺は例えるなら魔物って所か?全くよう人を魔物扱いするなよナァ?」
「今のお前は魔物と同類だろうが!親を殺害したうえに事欠いて魔物を倒すと俺達に嘘を吐き、本当の目的は魔物と接触し共同する事だった。それも調べた結果だとお前のその強さは「裏協会」から違法な「スキル」を買って手に入れた物なんだってな?」
「………‥」
訳の分からない事をペラペラと熱弁する佐々木を見て幸太は無言になってしまった。
(よくもまぁ、そんな嘘か本当かも不確かな事をペラペラと喋るナァ?こいつ役者とかに向いてるんじゃないのか?)
無言になりながらもどうでも良い事を考えていた。それ程までに今の幸太には佐々木など興味のない対象外なのだ。
ただ、幸太の無言を肯定と見做したのかいきなり佐々木は笑い出すと幸太に指をつけながら口を開いた。
「工藤!いや、犯罪者!お前はもう地上では生きていけないだろうな?ただし此処で俺に何も抵抗をしないで捕まるなら殺さずに対処をしてやろう?どうする?お前には選択肢は一つしか無いよなぁ?」
そんな佐々木の言葉に流石にただ聞いているのも飽きるし、聞くに耐えない訳の分からない話を聞いてるより修行をした方が何倍も、何億倍も有意義な為もうこの茶番を終わりにする為に動いた。
「………あ?何言ってんだお前?頭に蛆でも沸いたか?何でお前にまんまと捕まる奴がいる?それに選択肢が無い?んなの沢山あるだろォ?お前をこの場で先に────殺すとかナァ?」
「────ッ!!」
幸太は唇を吊り上げるとニターと効果音が付くほどの悪そうな笑みを作った。
それを見た佐々木は瞬時に一歩下がると警戒を強めた。
「逃げるなよォ、お前が先に俺を殺すと言ったんじゃ無いか?それに俺は魔物、お前は人間様なんだろ?なら2人は相入れない存在だろ?心置きなく殺し会おうゼェ?」
幸太の言葉を聞いた瞬間佐々木は────
「皆さん!工藤が本性を現しました!!至急俺の場所まで来て下さい!!」
洞窟内に響くほどの音声で叫んだ。
その仲間への応援とやらを。
『………‥』
ただ、佐々木がいくら叫んでも無情にも誰も来てはくれなかった。
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