魔物との和解

第22話 新たな試み




 ただ、そんな勝利からの達成感が収まる最中、幸太はガッツポーズを辞めると自分が壁に叩き付けたゴブリンキングの元に瞬時に動き近付いた。

 近付いた瞬間にさっきの闘いで負った自分の手の痛みなど関係無いと言うようにゴブリンキングが生きている事を手の脈を触り、呼吸を確認して確かめた。


「──生きているようだナァ、ならまだ間に合うか……」


 ゴブリンキングの生死の確認が出来たと思った幸太は「ダンジョン内この空間」の天井に向けて大声で叫んだ。


「見てるんだろおォーー!ネロォーー!!」


 そんな幸太の叫びと共に小さな妖精がふわりふわりと幸太の元までやってきた。


「──もう、幸太君!どうせいるのは最初から分かっていたんでしょ?あんなに大きな声で叫ばないでよね!乙女の大事な耳の鼓膜こまくが破けちゃったらどうするの!」


 そんな事を言うとプンスカと怒ってきた。


 そんなネロの態度に幸太は。


「チッ!何が乙女だこの──「ペチャパイ貧乳


 小声でネロに出来るだけ聞こえない様に悪態を吐く幸太。


「──ん?幸太君、今何か言ったかな?かな?かなかな〜?」


 何かに気付いたのか少し表情をネロは強張らせると幸太を尋問する様に聞いてきた。だが、そんなネロと幸太のやり取りはいつもの事なのでそんなネロには幸太は取り合わない。


「──あ?……何も言ってねえよ?それより、今、起きていた事は知ってるんだろ?どうせ俺から離れられる20mぐらいの高さから高みの見物観賞でもしていたんだろ?」


 幸太はネロを睨めつけるとそんな事を言った。


 今、出た通り、幸太とネロが結んだ制約レミテーションのお互いが離れられる範囲は大体20m弱だとこの120年間で知れたのだ。

 ただ、幸太に図星を突かれたからかネロは少し気不味そうな顔になると素直に頷いた。


「──そうだよ。幸太君が楽しそうにしていたからその光景をいつでも鑑賞出来る様に精霊眼にでも納めよう……ゴホッん!ゴホッん!……楽しそうにしていたから様子を見ていただけだよ?」

「……なんか、今一瞬変な事を言わなかったか?」


 ネロが一瞬早口言葉の様に喋った後、わざとらしい咳込みをしたのが気になり聞いた幸太だったが──


「へ?そんな事はないと思うよぉ〜?」

「……」


 と、とぼけた様な顔をするネロなので聞いてもどうせ無駄だと思ったのか幸太は暫し無言になると今は優先に行う事をネロに伝える事にした。


「──まぁ、そんな事はどうでも良い。そんな事よりもネロ。そこに横たわっているゴブリンキングを回復──出来るか?」

「──えっ?さっきまで幸太君が戦っていた魔物を僕が回復するの?」


 ネロは幸太の意図を直ぐに察したが、幸太が今からネロに頼もうとしている事の意味を理解したからこそ素っ頓狂な声をあげてしまい、聞き間違いだと思って聞き返してしまった。

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