第21話 決着




 だが、こんなに楽しい闘いが簡単に終わってしまうのは幸太にはいささか不満だった為最後の勝負を自分から提案する事にした。


「──ナァ、ゴブリンキングよぅ。最後の勝負は自分の持てる渾身の一撃で決めねぇか?さっきみたいに泥仕合の様に無骨に殴り合うのも良いんだがヨォ、お前さんはもう立っているのが限界なんだろ?」


 幸太に提案され指摘されたゴブリンキングは何も疑う事なくその言葉を飲む事にした。


「──ウム、そうしてもらえると助かル……それだったら……最後の一撃だったら……オマエに届くかもしれないからな……」


 ゴブリンキングは右手に持っている無骨のオノを見ると少し哀愁を漂わせると幸太に伝えてきた。


「分かった、じゃあ──行くぞ!!」


 幸太は闘志を纏わせる様に右手に今まで以上の力を纏わせた。特にとかは使えないが、まぁ、想像するなら無限なので纏っていると自分で想い込みゴブリンキングに突進した。


 それはゴブリンキングも一緒で。


「武気──「力任せの一撃ウェイトアックス』!!!」


 ゴブリンキングがそう叫ぶと、片手で持っている無骨のオノの刀身が赤く輝いた。


 武気とは「スキル」を持ち武器を扱える戦士なら誰でも使える力だ。武器に己の「スキル」や潜在の力を合わせて普段とは比べ物にならないほどの数倍の力を発揮する事が出来る。


 それを確認すると共に幸太同様に駆け出した。


「「これで──終わり──ダァーー!!!」」


 2人の渾身の一撃が交差して衝突すると思われた時、幸太が攻撃の体勢を辞めるとゴブリンキングの攻撃をわざと両手をバッテンにし、受け止めたのだ。


「ガキッンッッッ!!」


 金属と金属がぶつかり合った様な音が洞窟内を響き渡る。


 ただ、それは金属ではなくただの人の……幸太の細腕とゴブリンキングが持つ無肩のオノとの衝突で起きた音だった。その事に幸太は笑い、ゴブリンキングも幸太が不可解な動きをしたのには気付いたが目を開けるだけで留めた。


 もう既に幸太目掛けて武気を纏わせたオノを打ち付けてしまったので止められなかった。


「グギギギギッッイイーー!!!?」


 幸太は幸太で、両手をバッテンにした状態を崩す事なく前に出しながらもゴブリンキングの猛威もういを細腕だけで受け止めながらその場で負けるもんかと耐えていた。


 ゴブリンキングは何故そんな頭が可笑しい行為をこの直面で幸太がしたのかは分からなかったが、今なら本当に一矢報いれると思い、幸太の腕を折る勢いで打ち付けているオノに力を込めた。


「グッおぉーーっ!!折れロォォオ!」

「──ぐっ!?──折れ、る──カァーー!!!」


 ただ、それでも、尚も幸太は負けるわけにはいかないというように吠えると。両の足を地面に突き刺しながら踏ん張り、徐々に、徐々に──ゴブリンキングのオノを押し返していった。


「──なッァ!?」


 その事にゴブリンキングは驚いていたが、最後まで力を緩めないと己の全エネルギーを込めて幸太に叩き込んだ。


 でも、それでも──


「──おい、ゴブリンキングゥ?そんなもんかヨォおぉーー!!?」


 幸太がそんな掛け声を上げると──


 ──気付いたら幸太にゴブリンキングは押し負けてしまっていた。


 自分がオノで押し込んでいたはずが、気付いたら下から自分のオノ諸共ただの細腕で持ち上げられしまっていたのだ。ただ、その一瞬で幸太の目を見たゴブリンキングは気付かされた。


(──コレでも届かないノカ……認めよう。コの人間は純粋にオレよりもツヨイのだと。それに、それでモ、尚も……ツヨさ……チカらを欲している目をしている。そのツヨサへの憧憬……渇望はオレには無いものダッタなぁ──オレは死ぬのカ……)


 ゴブリンキングは幸太に負けたというのに少し苦笑いを浮かべていた。それは死ぬのが怖くは無いようにも見えた。



 ◇



 このゴブリンキングは生まれながらにして強者だった。自分で言っていた通り弱い者に構っている暇などなく自分よりより強い者と闘い、ただ明け暮れる日々を過ごすだけだった。


 闘いは好きだが、今までで自分で鍛える……修行をする行為など一度たりともした事がなかった。なんせ、この「ダンジョン内この空間」では自分が一番の強者だったのだから。


 でも、それが、その思い違いが今一瞬で払拭された。


 まだまだ、世界には沢山の強者がいるのだと、そんな猛者達と自分も闘ってみたいと……でもそれはもう叶わないだろう。この男──自分よりも強い強者の手によって自分は間もなく殺されてしまうのだから。



 ◇



 ──だから、悔しいと思う気持ちはあっても、悲しいと思う感情と強者と会えて嬉しいとも言えない複雑な感情が折り込み、変な表情を作ると幸太の最後の行動をその目に焼きつけるためにただ、見ていた。


「──これで、俺の終わりだッ!!」

「アァ……」


 幸太の言葉にゴブリンキングはそんな生返事の様なものしか口から出て来なかった。今は何かを話すよりも勝者の最後の動きを見ている方が重要だったからだ。


 それを知ってから知らぬかは分からぬが、幸太は負傷した両手を瞬時に胸元まで持ってくると地面を片足で蹴って自分の身体を回転させたと思ったら……その勢いと共にゴブリンキングの今はガラ空きの胴体目掛けて渾身の回し蹴りを喰らわせた。


「──どっリャァァアーー!!?」

「うゴッ、ォッ!!?」


 ガードもできずにまともに幸太の渾身の回し蹴りを喰らったゴブリンキングは蹴られた勢いと共に「ダンジョン」の壁に「ドシンッ!!」と叩き付けられた。


「……」


 叩き付けられて地面に横たわっているゴブリンキングはピクリとも動いていなかった。


 その様子を確認した幸太は。


「……俺の、俺の勝ちだ!!」


 初めて魔物に勝ったような達成感が湧き、ガッツポーズをその場で取っていた。

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