第19話 価値の基準




 5分〜10分経っただろうか?漸く皆も幸太に言いたい事は言えたのかご満悦な表情をしていた。


 その事に幸太はウンザリとしていたが、決して表情には出さなかった。出来るだけ顔に表情を出さない様に幸太が努めてると、今回の話の元凶である佐々木が楽しそうに話しかけてきた。


「よお!!やっぱり俺の言っていた事は合っていたみたいだな!さっきお前なんかに謝って損したわ……それで?今はどんな気持ちだぁー??」

「……」


 そんな佐々木の言葉に無言を貫き、幸太は下を向いてしまった。


 その事を反省したと佐々木は思ったのか、尚も幸太に話しかける。自分が幸太の逆鱗に触れている事も理解せずに。


「何も言えないかぁ?そうだよなぁ、お前が悪い事をするからこんなにも言われるんだもんなぁ?ほら!俺達の為にあの化け物と戦って犠牲になってこいよ。この──「」野郎!」

「……」


 それでも何も言わない幸太。


 ただ、周りはそんな幸太と佐々木のやり取りを見て──


『良いぞ!佐々木君、もっと言ってやれ!』

『やれやれ〜そんな「スキル」が無くて「価値」が無い人間なんてどうなっても言いぞー!』

『そうよ!私達を逃す為のおとりになりなさい!』


 ──と、完全に佐々木を擁護する様に言っていた。


 その事に幸太はキレるを通り越して、呆れるを通り越して──もう「」の感情しか浮かばなかった。


 よく言うだろう?好きの反対の言葉は無関心興味が無いだと。


 幸太は初めから此処にいる人々の事など誰一人として好意など向けていなかったが、少しは関心を持っていた。だが、今はどうだ?もう何も待ち合わせてなどいない。

 そんな事を知らない佐々木達はそこで辞めとけば良いのに、尚も自分の首を絞める様な行為をする。最後の止めとも言いたい様に佐々木が声を高らかに幸太に叫んだ。


「そうだ、お前は「スキル無しウァースリィス」で生きる価値もなく、人権も無いただの屑なんだよぉ!だからそんな「」人間は俺達みたいな「」人間の為だけに──死ね!!」


 その言葉が幸太の行動を起こすトリガー引き金になるとも知らずに。


「──カス──が」


 その幸太の言葉が聞こえなかったのか、巫山戯る様に佐々木は幸太の口元に自分の耳を近付けて何を言ったのか聞いてきた。


「えぇ〜??今、なんて言ったんですかぁ〜?聞こえなかったんでちゃんと人の言葉で話して下さい〜!!」


 そんな佐々木の態度に他の皆は笑いを堪える事なくその場で馬鹿笑いをしていた。ここが安全セーフエリアじゃない「ダンジョン内」と分かっていながらも。


 なのでもうこんな奴等に無言を貫くのも時間を使うのも馬鹿馬鹿しいと思った幸太は、無表情を貼り付けた顔を上げると口を開いた。


「──聞こえなかったかァァ。俺は残念だよ、だからもう一度しっかり言うナァ?」

「な、なんだよ?そんな薄気味悪い表情しやがって──そんなもん怖くねえよ!」

 

 幸太の顔を見た途端若干後ろに下がった様な気がしたが、佐々木は強がりなのかそんな事を言ってきた。


 なのでもう幸太も躊躇う事は無い。


「──カスって言ったんだよ?この──ドカス共ガッ!!てナァ?」


 幸太がその言葉を発した瞬間幸太の周りから圧の様なものが溢れ出し、佐々木を含む幸太を馬鹿にしていた連中は圧に晒されたせいかその場で青い顔になると立っていられない状況になってしまったのか一人、また一人と倒れてしまった。


 その時にやっと理解したのだ。触れてはいけない逆鱗に自分達はまたも手を出してしまった事を。だが、もう容赦はしない。


「おいおいオィィー!!どうしたんだよォ〜?俺は、もしくは「スキル無しウァースリィス」か「」人間なんだろォ〜?なのになんでお前達が俺を見上げてるんだよ?──おかしいダロ?」


 そんな事を分かっていながらも馬鹿にする様に話しかけていた。

 でも他の皆は怖くて何も言い返せないのか返事が出来なかった。


 なので尚も窮地に立たせる。


「確かァ「」の人間が背後の化け物ゴブリンキングの犠牲になるんだっケェ?──それ、お前らじゃね?」

『『『──ッァ!!?』』』


 そんな幸太の話を聞いた人々の中には失神する者やその場で失禁してしまう者もいた、それ程までに恐怖だったのだ。


 幸太はその光景を楽しそうに「ニター」と悪い笑顔を作り見ると、まだ意識を保っている人々に向けて話を続けた。


「それにヨォ、お前ら何か勘違いしてるんだよナァ?俺はさっきお前らを逃す為に動いたのに誰も俺の言葉を聞きやしネェ。それどころか変な事をペチャクチャ、ペチャクチャと話しやがって──お前らの方が人間の言葉を理解しろよナァ??」

『『『……』』』


 その話をされた意識を保っていた人々は項垂れてしまった。


「……何も言い返せねぇとかダセェ奴らだナァ。それにお前らさっき言ったな?「スキル」が無いから「」?なら、その価値の無い俺に助けられているお前らは一体なんなんだろうナァ?──お前らの為に俺が命をかけてあの化け物ゴブリンキングと戦うと思うと調子狂うが、まぁ……やってやるよ」


 幸太が化け物ゴブリンキングと戦う事を話すと圧を当てられていない須田が話しかけてきた。


「その、工藤君、今更で申し訳ないが……俺の仲間が君の悪口を言ってしまい申し訳無かった!!」

「──良いよ別に。俺がそう仕向けたってのもあるがァ、元々人間なんて信用なんてしてねぇからナァ。あんま気にすんなや」


 そんな人生を達観してしまった様な雰囲気を出す幸太に悲しそうな目を須田と安藤は向けていた。


「はぁ、そんな辛気臭い雰囲気になるな……これは俺の問題なんだからナァ。──今は目先の問題を終わらす。だから須田さん。こいつらを何処か安全な場所にやってくれ……そうしたら俺は奴と戦うから」


 少し真剣な表情を作ると須田に後の事は託す様に話し出した。その気持ちが伝わったのか須田も頷いてくれた。


「──分かった、俺からはもう何も言わないよ。恐らくだけど相手はゴブリンキングの亜種か変異種だろう、あんなに強い個体だけど何故か君なら勝てる気がする。だから、"頑張れ"とだけ言わせてくれ」

「………分かりました。俺も負けるつもりはないので」

「そうか」


 須田は幸太にそう言うと、まだ意識が残っている仲間に声をかけてここから直ぐに逃げる様に行動をしていた。そんな中、まだ幸太の近くに残っていた安藤が心配そうに話しかけてきた。


「その、多分今謝っても工藤君の迷惑になるから言わないけど、これだけは言わせて。この世界は直ぐに死と隣り合わせになってしまったから、だから──どうか死なないで!」


 泣きながら言ってきた安藤に少し笑顔を向けると幸太は普段の飄々ひょうひょうとした感じで伝えた。


「任せとけ、俺は死なない。絶対にこんな所では死んでは駄目だ……まだ本当の強さ最強を知らないのだから」


 そんな意味深な言葉を残すとそれ以上は安藤に伝えず、一人化け物──ゴブリンキングの元に向かった。


「── 幸太こうた君、どうか死なないで……」


 そんな安藤の言葉は幸太の耳には届いていなかった。

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