第18話 人間の闇




 戻ってきた幸太の顔を見た殆どの人々が目を合わせられず無言になってしまった。恐らくそれは佐々木の口車に乗せられて幸太の悪口を証拠もないのに疑って口にしてしまったからだろう。だがそんな事はどうでも良いと言う様に幸太は話しかける。


「アンタらもアイツと俺の話は聞いていただろ?律儀な事に弱いアンタらは逃してくれるらしい……だから今すぐここから逃げろ」

『『『……』』』


 幸太の声は聞こえているはずなのに誰も反応を示さなかった。

 その事に少し苛つきを見せながら幸太は話し出した。


「──ダンマリを決め込むんじゃねえよ。今は逃げるか死ぬかの2択なんだぞ?運が良い事にアイツゴブリンキングは見逃してくれるらしい……だから、早く逃げろ!」

『『『……』』』


 と言う時に背後の化物を指差しながら皆に再度逃げろと伝えたがやはり誰も動こうとしなかった。


(コイツらは一体何がしテェんだ?死にたいのかよ?チッ!面倒臭えナァ)


 それでも優しい幸太はどうしたもんかと思っていた時、佐々木が話しかけてきた。


「その、工藤?……さっきは、悪かった!」


 佐々木は、自分の勝手な思い込みで幸太の悪口を広めてしまった事を罪として感じているのか謝ってきた。

 佐々木が幸太に謝ると、さっき幸太の悪口を言ってしまった他の人々も口々に謝ってきた。


『さっきの事は冗談なんだよ!本当は君の事をあんな風に思ってなどいないさ!』

『そ、そうだよ!君は僕等を助けてくれた救世主ヒーローの様な存在なんだからさ!』

『そうそう、よく見たら貴方イケメンじゃない?この後地上に戻ったら……どう?』

『あ!アンタそれはずるいわよ!私が最初に目をつけていたんだから!』

「……」


 などと幸太を擁護ようごする言葉や、煽てる言葉などを言う人々達がいた。ただ、今の幸太の目にはそんな事を宣う人々が、此処にいる人々をそれはまるで吐瀉物か、もしくは気持ち悪い生き物でも見つけた時の様な目を向けていた。その事にここにいる殆どの人間は気付かない。


 ──だって、自分の事しか考えていない連中しかこの場所には……いないのだから。自分さえ良ければ良い。他人なんてどうでもいいと思っている人間しかいないのだから。


 唯一その目を向けられていない須田と安藤だったが、何かを言ったら「自分達もその目を向けられるのでは?」と思ってしまい、ただ、その場で身体を震わせている事しかできなかった。その事を幸太は瞬時に理解すると。


「──面倒、くさ」


 と、此処にいる人々に聴こえないぐらいの声量で呟くと呟いた。呟くと共に考えを改める事にした。


 下手に出ていれば、調子つき本性を出し上手に出ると知ると媚を売る自分を偽る

 

 こんな奴等人間達に自分が丁寧に教えるのも助けるのも……馬鹿らしくなったのだ。


 だからもうどうでも良いと思い、さっきの佐々木が言った言葉を肯定する事にした。自分で自分を悪者役ヒールに仕立て上げ、負の感情を自分に集め……そこに圧をかけ、自分の言葉を無理矢理むりやり聞かせるために。そんな恐怖政治の様なやり方を行おうとした。何故ならそれが一番手っ取り早くこの場を終わりにさせられると思ったからだ。


「……アァーーもう、メンドクセェ!さっきからお前らが色々と言っているがナァ。それ本当の事だぞ?」

『『『──えっ??』』』


 幸太の言葉を聞いた皆は疑問符を浮かべてしまった。だが、そうなる事が最初から分かっていた幸太はそんな彼等になど取りあう事なく話を続けた。


「いや、何?お前達が楽しそうにさっきからサァ、俺が「」や「スキル無しウァースリィス」とか言ってただろ?アレ全部本当の事だから。だから……別にお前らが謝る事は無いぞ?」


 その話をした次の瞬間──


 皆は頭で漸く幸太の話が理解出来たのか幸太に暴言を言う人々で溢れ返った。


『やっぱりアレは本当だったのか!この人殺し!』

『親殺しとかお前はロクでも無い奴だな!!』

『キッショ!!こんな奴が世の中に存在するとかマジ無理なんだけどぉーー!』

『地上に上がったら直ぐに報告した方が良いでしょ!犯罪者がいるってさ!』

「……」


 そんな皆の暴言を聞きながら平然としている幸太だが、内心では言い放題だった。


(はっ!此方が下手に出れば直ぐこうだ。掌返しって言葉は言い得て妙ダナァ。都合のいい事は聞き、悪くなれば聞かない。だから俺は"あの時"から人間なんて信用も信頼もしちゃいねェんだよ。それが今の瞬間に再度理解したわ……本当吐き気がする程気持ちの悪い連中ダナァ、これだったら蛆虫の方がまだ可愛げがあるぞ?)


 そんな事を内心で思ってはいるが、自分で選んだ道なので黙ってほとぼりが過ぎるのを待った。

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