第17話 戸惑




 さっきまで何も音が聞こえていなかったのに、今は遠くから此方に何者かが近付いてきている音が、ズシン、ズシンと聞こえてくるのだ。それはここにいる人間にも肌で感じられた。自分達では到底敵わない強敵魔物が今、近付いてきている事を。

 ただ、それは幸太が嘘を付いていなかったと言う事が事実なのだと物語っていた。皆はその事に今更になって気付いたが、気付くのが遅過ぎた。


 現在幸太達がいる場所は学校の体育館ぐらいの広さがある洞窟内だ。その洞窟内の一番奥の突き当たりから5m以上はある背丈に頭にツノが生え、肌が赤黒い到底人間とは思えない化け物が二足歩行で歩いてきていた。その魔物はプレッシャーを放ちながらゆっくりと近付いてくるのだから。

 その光景を見た何も耐性を持たない人々はその場で恐怖のあまりかうずくまってしまった。それは幸太以外全員だった。

 ただ、一人幸太だけはまだ目を瞑りながらその怪物が此方こちらに近付いてくるのをただ、待っていた。その怪物が幸太達の5m程の手前で止まると驚きの行動をとった。


 それは──


「──人ゲンカ、ここ二来るとはまたメずらしい。ダガ、オレは弱いものヲいたぶるシュミは無い。そこにイる目を瞑っているオトこだけ残って、アトハ逃げてイイぞ?」


 ──何故なら魔物が喋ったからだ。


 少しカタコトで、聞き取りずらかったが、内容は分かった。内役をすると「弱い奴らはいたぶる趣味は無いから強者である幸太だけを置いて邪魔だから何処かへ行け」という事だろう。その事が分かると人々から戸惑いの声が上がった。


『──あ、あの魔物、今人の言葉を喋らなかったか?』

『あぁ、俺も聞こえた。でも魔物が本当にいたって事は、俺達は……』

『ま、まぁ?勘違いなら誰でもある、よな?』


 他の冒険者達は口々に幸太の方をチラチラと見るとコソコソと話していた。幸太自身も魔物が喋った事に驚いていたが表には出さない様に心の内だけで済ませた。因みに幸太は他の冒険者達の視線など気にすらしていない。


(──コイツ、人間の言葉を喋るのかァ。聞いた事は無いが……まぁ、これが上位じょういの魔物って証拠だろ。さて俺も何もやらない訳にはいかねぇからナァ、それに何でか俺をご指名リクエストらしいしナァ)


 そう内心で考えると幸太は目を開けて化け物に話しかけた。


「おいお前、今言った事は信用して良いんだよナァ?俺の後ろにいる奴らは逃して良い……と?」


 幸太の質問に頷いた。


「ウム、弱いヤツらヲ相手二してモつまらんからな……その点、オマえは強いダロ?」


 そういうと魔物の癖に少し口を片側だけ上げニヤリと幸太に不気味な笑顔を見せてきた。


「──フンッ。どのレベルで強いかの話かは分からんが……お前には負けない自信があるナァ〜〜?」


 そんな事を言うと幸太も挑発をする様に嘲笑あざわらう様な表情で化け物に笑顔を向けた。そんな幸太の態度に怒っている様子も見せず、ただ、化け物は笑うのだった。


「ふフッ、面白いヤツだ。オレはオマエの後ろのヤツらが何処かへ行くまでナニもせず待つカラ、何処かへ行かせろ」

「分かった。まったく律儀な奴だなァ?それよりここに転がっているゴブリン小鬼亡骸なきがらはお前の仲間じゃ無いのか?」


 幸太はさっきまで戦っていたゴブリンの亡骸を足で突っつくと化け物に聞いた。何故幸太がそんな事を聞くのかと言うと、この化け物は恐らく……と呼ばれる魔物だからだ。なので、自分の配下……ゴブリン小鬼が殺されているのに何も反応を見せないので「怒らないのか?」と思って幸太は気になった為聞いてみたのだ。


「そう、ダナァ。さっきも言ったトオり弱いヤツはイラナイ。それは魔物モそうダ。もしソイツらがオレの配下だとシテも統率が取れず人ゲンニ負ける程ノ弱者の配下ナド不要ダ」

「──ふーん?そう?分かったわ。ならちょっと話し合ってくるから待ってろよ?」

「アァ、お前がニゲ無ければナニもしないサ」


 そんな化け物の言葉を背にしながら未だに怯えている須田達の所に戻る事にした。

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