第183話
金色の杯を傾け私はソレに含まれた伝説の水薬とやらを飲み込んだ。
味は…しないから普通の水なのかな?
だけど喉になんか違和感を感じるような感じないような…いや何かが含まれてると思っているからこそこういう錯覚に陥っているのかな?
効果がないのは私が純粋に魚人族ではないからかもな。
この伝説の水薬『魚の宝涙』というのは教会の図書室でその名前を冠した御伽話の絵本があった。
内容としては海底に住む神様と地上に住む魚人の姫様の悲恋みたいのを描いたストーリーだったか…姫は神に恋をしていくつもの貢ぎ物を送るが神には「いらぬ」の一言でソレを見すらしない。
それでも姫はめげずに送り続けいつしか時は経ち姫とその国の民は異国の病に侵され死ぬ寸前で神はその姫を助けるだけに海底より出て姫を嘲笑うとその姫の命と引き換えに国の民を治す薬にその身を変えてやろうと言った。
そうして姫は息を引き取りその目元からは宝石のように輝く鮮やかな水色の水薬をとめどなく溢れた。
ソレは魚の姿をした民には効き目を発揮したちまち病を治したが国に暮らす異種族には効果を示さず病は進行し異種族は床に伏した。
故に海神を信ずる魚の国の民は神によって守られている。
というなんともいえない絵本であったのを覚えている。
神の偉大さを讃えるための本だったのかそれとも神を陥らせるための本だったのかわからないが子供向けの本ではないということだけは確かだ。
とりあえず…だ。
飲んでしまったこの水の効能が何なのかについては私はわからないからこの目の前でニコニコしている奴が求める反応はできない。
だが此処で効能がありませんでした~とか言ったらどう思うだろうか?
人族殺すマジ的なやつだった場合かなり面倒なことになる…。
相手が望む反応は…いや確かこの薬屋から出た魚人は目を虚にしながら出てきてたから望む反応は何も喋らないのが正解か。
出来るだけ下を向き何も喋らずただただじーっとすること数分。
薬屋は私の顔の前で手を振り私の反応を確かめるようにした後言葉を発する。
「ふむ…ちゃんと効いているみたいですね。見た目的に人族の血が濃そうだったから効きにくそうだったがその心配の必要はなかったか。さてそれじゃあお客さん銀貨…あぁそうだな~10枚支払ってくれ」
薬屋は私のことを舐め回すように見下げた後さっきとは違った金額を提示してきた。
コレは渡すべきだろうか?
いやこんなので払うのも私的には許し難いと言いますか…別に払ってもいいんだが。
そんな風に出し渋っていると…薬屋はため息を漏らした。
「やっぱりこの催眠剤使えねぇな…金を払う命令はできないとかよ。ま、神様にお仕えする神官様からお金を貰ってるからいらねーんだが…んじゃ夢に導かれるまま行けばいいさ」
そう言い放ち薬屋は後ろにある魔石のような紫に輝く石を手に持つとソレはより一層怪しげな光を放つ。
その後キーンという音波のような音が響くと薬屋はより一層その笑みを深めた。
…さて茶番は此処まででいいだろう。
私は回れ右をするとそのまま薬屋を後にした。
まぁそんなことじゃないかと思っていたがやはりヤバいやつではあったわけだが…私が気にすることじゃないな。
とりあえずわかったことは魚人族にしか効かない魚人族の意識を失わせる都合のいい薬がありそれで意識の無い魚人族を都合よく動かせる魔道具すらある。
それがこの国の神官から提供されているということだけはわかった。
神を信じる奴ってのはやはり碌なのがいないんじゃ無いか…あの自らを天使にすらしたディーセもそうだしやはり狂ってるとしか思えん。
私が薬店から出て少し離れた場所で考えていると薬屋から私の後に入った魚人族の男性が出てきた。
やはり目の焦点が合ってないというか目が虚で死んでいるかのように見える。
…どれ、此処にいても新しい発見はもう見つかることはないだろうからついて行ってみるとしようでは無いか。
「さてそうと決まればついていくとしよう」
そう呟き私はその魚人族の男性の後ろをついて行く。
結構近くにいるはずなのだがコチラに気づくことはなく歩き続ける。
コチラ側にも魚人族が住む家屋がマップとか観光の資料であったと記憶していたんだが…何というか活気がない。
何処も昼なのに扉は閉まっており家屋の中は光も灯ってない。
歩くこと数分私は海底街に続く通路へと行き着いた。
海底街への通路は何というか言うなれば滑り台のようになっており滑るところにあの薬屋のところで見た紫に輝く石がご丁寧に置いてある。
…コレが魚人族に指示を出しているとしたら薬屋から此処まで移動したということに辻褄が合うな。
この石は意識のない魚人族に一つだけもしくは単純な命令を下すことができるということではないだろうか?
まぁこの世界には契約書すらも強制力を持たせれる魔法という存在があるわけだし意識のない者を操るなんて超常的な力もあるのも驚かないがね。
さて、どうやら考えているうちに魚人族はこの滑り台を使って下に降りていってしまったな…息とか大丈夫なのかとか思ったがまぁ魚って種族名に入っているから少なくとも海の中で過ごせる体質は持っているのだろう。
「…私はどうやって海に入ろうか?」
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