第182話

ダンガンウオやらを蹴散らしシーヒルズのギルドに帰り報告を行ったところ酸素供給装置は波に飲まれることもあるため防水加工、衝撃耐性を高める加工がされているそうで特に問題ないとのことだった。

だが問題はダンガンウオの群れに襲われたといった時受付はそれはそれは顔を顰めさせ後で国からその群れの討伐を命じる依頼が発行されるとのことだった。


コレほど近くに群れを形成されると子供を産み群れじゃなくなった時にシーヒルズの海底街に大量のダンガンウオが襲来する可能性があるため子供が生まれる前に討伐するとのことだ。

まぁダンガンウオの子供って一度に数万体と生まれるらしいしソレが他の魚の餌になることで子供を求めて他の魚が集まるから色々と大変なんだろうな。


「ま、私には関係ないか」


そう呟きながら私はギルドを後にした。

一応特別報酬というわけで通常報酬に色をつけたぐらいの金は貰ったが…先の船での賭けで財布が潤っている私からすれば端金になるんだよなぁ。

昔は金すら持ててなくてサバイバルみたいなことしてたのが今じゃ大金持ちになっているとはあの時じゃ考えられなかったな。


私は今日の仕事とも言える依頼も終わりただただぼーっとしながら歩いていると何やら多くの行列ができている場所を見つけた。

どうやらソレは一つの他の店とは違う煌びやかな外装でこの街には合ってない店から続いているようで店から出た魚人族は目が虚…いや死んでいるかのようになりながら出てきては皆同じ方向へと足を運んでいる。


「あの方向には確か海底街に行くための通路があったはず…それ以外に何かあったっけか?」


とりあえずこの店が何なのか魚人族に聞こうと思い私はその列の最後尾に近づき適当に話しかけようとするが…何故かその時魚人族は私のことを睨んでいるせいでどうにも私から話しかけていいのか分からない状況になった。

…あぁそうかそういえば冒険者ギルド近くの人族はホームレスみたいな感じの扱いだったせいで此処らの魚人からの人族の印象は最悪なんだったか。


全くあの冒険者達め…面倒なことをしてくれる。

だがまぁ此処で待っていればいつかは店の中に入れることだろうし大人しく最後尾に並んで自分の番を待つこととしよう。


…少女待機中…


並ぶこと数時間ようやく後数人で私の番になる。

この空き時間でどれだけ私が魚人族と会話しようと思ったか分からない…いやまぁ会話できるようになったところで会話することなんて並んでいる店は何屋なのか聞くぐらいしかしないんだが。

いっそのことメタモルフォーゼで魚人族になりすまそうとすら思ったぐらいだ。

まぁ食べた素材にそのまま身体が変化するってのがメタモルフォーゼの利点であり欠点であるから本格的に魚人族になるためには魚人を食わなきゃいけなくなるんだが。


そういえば私仮面つけっぱなしだな…もしかしてこれのせいで魚人から警戒されてたのか?

この国で仮面をつけて歩いている奴なんて見かけないし非常識であったのか!?

いやいや冒険者ならば顔を見られるのを恐れる奴だっているからつけてる奴なんて探せば…いやそういえば冒険者ギルドでも魚人の冒険者は仮面なんてつけてなかったな。


「もしかして…本当に仮面のせいで?マジかよ」


この仮面はもう私の一種のアイデンティティだぞ…今更取るってのはなぁ。

そうこう思い耽っていると前に入った魚人が出てきたため私はカランコロンと鳴る扉を潜り店の中へと入ることとした。

目の前には恰幅の良い魚面をした魚人が胡麻をするようにヒレを合わせながら待っていた。


「ようこそお越しいただきました!こちら『ディープ・シー』しがない薬屋で御座います!お客様今日は何をお探しで?あぁ言わなくても分かりますとも我々『ディープ・シー』の新商品である魚人族ならば誰しも求める伝説の水薬『魚の宝涙』をお探しなのでしょう?えぇ、えぇもちろんお有りですとも!今巷の噂になるほどの幸福感を味わえ更には夢を叶えるとも言われるこの御薬今なら何と!?特別価格の銀貨1枚で提供しておられますのでね…ささコチラをどうぞ!お代の方は飲んだ後でも構いませんからッ」


入るなりそう捲し立てると次に口をパクパクさせながらコチラへ語りかける。

あぁコレは魔素が乱れてる…ということはエコーロケーションってやつで話してんのか。

最初に人族の言語で次に魚人族の言語でね…なんて親切なんだか。


私の手を掴み目の前の魚人が『魚の宝涙』といっていた薬を手渡すとその薬を飲むまで離さないという意思を示しながらコチラの方をニコニコとした顔でそのヒレで私のことを掴んでる。

コレは…流石に私が此処まで来て飲まないわけにはいかないな。

ソレに伝説だと今まで読んだ本の中にあった御伽話中に出たあの『魚の宝涙』だとすると人族には効果はなかったはず。


にしても此処で私が人族だとバレれば売ってもらえない可能性もあるのか…だったら無理矢理にでも私が魚人族だと思わせるようにしよう。

メタモルフォーゼ…顔に今まで食べた魚の鱗を…此処の国で食べた料理に出てた高級魚の丸焼き『エンジェルフィッシュ』の白い鱗を顔に浮かび上がらせるか。

にしてもなんでこの世界の魚は『ダンガンウオ』といい『エンジェルフィッシュ』といい魚の言い方が違ってくるのか…名付けたやつはもしかしたら転生者だったのかもしれんな。


パキパキと自分の顔や耳に音が鳴るのを感じながらゆっくりと繋がれていない方の手で取りその仮面を剥がすと仮面を自分の腰巻きに差し込んだ。

薬屋の魚人はまだコチラをニコニコとした顔で見て私に薬が入った金色の杯を渡すと手を離し一歩後ろへと下がった。


その薬には私の顔が写っている…白い鱗が少し生えており耳らへんに小さいながらもエラがあり呼吸をするたび表面の白い鱗と同化した皮膚が羽根のように動く。

何というか竜みたいでカッコいいな…目とか本物の竜の鱗じゃないから硬くないがコレはコレでかっこいいと言えるな。


そう思いながら金色の杯を傾け一気に喉に流し込んだ。

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