第181話

海に浮き出た海綿を採取すること十分ちょっとの時間が経過し私はようやく表面の海綿を採取することができた。

どういう原理か分からない酸素供給装置の周りに生えていた海綿も取り終わったことだしひとまずはコレで依頼は達成できたと言うわけだ。


にしてもどうして此処だけこの海綿が発生しているのだろうか?

周りを見渡すと私が採取したところ以外には海綿は生えていないみたいだし…いや此処に酸素供給装置があるからこそコレが育ってるのか

酸素濃度が高い海水に適応したのがカイメンスイレンソウと考えれば元の海にある海綿が変異した姿と言われても納得がいく。

となれば元の海綿とはまた違った性質を有しているのかとか気になるところだが流石に私は植物学者でもないからな…今日のところはコレぐらいにして帰ることとしよう。


そう思い飛翔の魔術で海の上を旋回するようにしてシーヒルズへ帰ろうとしたその時だった。

海から何かの破裂音がすると同時に水の玉が私目掛けて放たれてきた。

狙いは正確ではないがその水の玉は私の顔スレスレを通過し天に向かっていきそうして見えなくなった…その光景を見た直後から私は飛翔の出力を高め今までの速度を倍にし海を滑る。


後ろからは海が破裂するような音が聞こえヒュンッ!と擬音語で表現できる風を貫きながら迫ってくる水の弾丸が空へ放たれる。

ソレは1つから2つへ…2つから4つへとかわりねずみ算形式に海からどんどん放たれる。


「やばっ…ダンガンウオの繁殖場所が近くにあったのかよ!」


そう言いながらも応戦できるように魔術を頭の中で構築する。

ダンガンウオというのはまぁ前世でいうところの鉄砲魚的なアレだ。

絶対に鉄砲魚はこんな出力の水の弾丸は放たないだろうけどソレは異世界特有の魔力とかで解決してるのだろう。

というか鉄砲魚ってのは淡水魚じゃなかったか…どうして海なんかに生息してるんだよ?


にしても何の魔術をやればコイツらから逃げることができるだろうか?

地の利はこちら側が圧倒的に不利と言わざるおえないしあんなにいるようじゃいくら相手してもキリがないってもんだ。

ソレに繁殖場所であるというのがまずい。


ダンガンウオは普段は団体行動はしないが繁殖するとなれば話は違ってくる。

メスは卵を産んだ後は好戦的になり近づく同族以外を蹴散らすと言われておりオスはメスが産んだ卵を近くで守りその守ることに特化した姿へと変異しタイホウウオという騎士のつけるようなミスリル合金ですら貫き吹き飛ばす高威力の大砲のような水の玉をダンガンウオ以外の生物に吐き出すとギルドの生物図鑑には書かれていた。


単体のダンガンウオの適性ランクはEでタイホウウオはBランクと高め。

ソレがいっぱいいる繁殖場所といったらランクは跳ね上がりAランクの上位に位置することとなる。

もはや一つの繁殖地に国の騎士団全員を動員せねば滅ぼすことができないところへと変異する…唯一救いなのが子供が生まれたら単独行動に戻るということだろうな。


「タイホウウオが攻撃してくる前に逃げなきゃ…でもこのまま逃げたら追ってきそうなんだよなぁ」


此処には酸素供給装置という精密機械もあることだし簡単に雷属性を使うことができない。

となれば簡単なのが風か水…最悪火属性でも海に衝撃を与えて攻撃して撹乱させた後に飛翔をさらに高出力にして逃げるという手もあるにはあるが酸素供給装置が衝撃に強いのかも分からない。


「ま、壊れたら壊れたでその時その時で考えよう」


そして私は考えるということをやめた。

だってさ…こんな細かいこと考えてても状況は変わらないからね。

何事も試す…ソレが一番いいってことに最近気付いたからこそ私は私の衝動に従って魔術を撃つことにしよう。


「せっかくだし私の実験台になれッ!魔法陣展開『魔星砲』…発射ァ!」


ソレは私が闇の神獣に憧れ創り出した『魔砲』を改良しシンプルかつ無属性の魔術。

魔法陣から無数の白く輝く粒子が飛び散りそのひとつひとつがその魔術へと成っていく…散らばった白い光は突如としてその体積を膨らませると海目掛けて軌跡を残しながら彗星と化して降り注ぐ。

それぞれが私が指定した場所へひとつは弧を描きながら、またひとつはただ愚直に真っ直ぐに降っていく。


前に使った『天雷砲』は完全にビームを原型としていたが今回の『魔星砲』は砲撃を原型としている範囲として見るならばビームの方が有効な手段ではあるがアレでは酸素供給装置すら巻き込むからな。

今回は破壊力が高い砲撃を使わせてもらった…一回も実験できてなかった正真正銘初めて使った魔術だったがいうこと無しの出来栄えだ。

作り終わったのが昨日の夜だったから使うのが不安ではあったが満足できる結果だな。


「…と、此処にいたら不味いんだった」


私はそのことを思い出し飛翔の出力を上げ飛翔で上がれる安全性が身をもって証明されている高度ギリギリの空へと駆け上がると風になるように飛翔で飛び去ることとした。

後ろからは最後に放たれた『魔星砲』が海に着弾し大きな音を上げた…コレでダンガンウオを撹乱することができたことだろうと私は安心を覚えながらシーヒルズへと戻ることとした。


*今回使った魔術一覧*


魔星砲:魔砲をベースに創り出した低魔力で使える無属性魔術。発動した時は光り輝く白い粒子だがそれぞれに刻まれた『収集の魔印』により空中の魔力を吸い上げながら大きさを変化するとあらかじめ決められた挙動をしながら目標地点へと発射される。高速で移動している相手にはあまり意味を成さないが集団の相手には有効だと思われる。

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