第184話

「…どうしたものか」


知りたいといえばこのような異世界の不思議なことには触れてみたい…がまぁ絶対になんかめんどくさい事にはなるだろう。

今からでも水の中でどうにか息をできるような魔術でも作るべきだろうか?

いや、そもそも私はメタモルフォーゼで魚になれるんだから呼吸器官とかそのものを魚に変えれば海で呼吸することはできるか…戻った時大変なことになりそうだから最終手段にしたいけど。


「とりあえず今日はもう帰ろうかな…」


こうしている間にも魚人族は海底街に機械のように導かれているが私にとっては興味は惹かれるこそあるが同情はしない。

まぁ確かに可哀想だとは思うが…まぁ元はと言えば自分で入った店で操られたってことだしな。

自業自得というやつだ。


いつまでもここにいてもだしそろそろ帰ることとしよう。

にしてもちょっと寄り道をするってだけでとんでもないことが見つかった…ような気がする。


そうして腕を大きく上に伸ばし欠伸をした後メタモルフォーゼを解いた。

魚の鱗の肌から人間の肌にパキパキと音を立てながら戻って行き海に映る顔は自分の幼い顔が写っている。

どうせなら体の一部を常時竜の鱗とかにしてみるのも面白そうだし何よりかっこいいと思うんだが…まぁやっぱり私は人だからか何処かメタモルフォーゼをしてると身体が動かしづらいんだよなぁ。


というのもメタモルフォーゼをしてるとその部分の反応がどうも悪いというか…単純に腕をメタモルフォーゼしてその腕を大きく振るうとかだと簡単なんだが。

検証はしたものの我流戦闘術はかなり意識して使わないとまず使うことができない…火事場の馬鹿力とかだったら使えるのかもしれんが普段使いは獣のような動きしかできないのが難点だ。


「お腹すいた…なぁ」


あぁこうして考えている間にもお腹が空いてしまった…。

早く帰ってご飯でも食べるとしよう。

最近というか朝気づいたことなんだがここでは水の持ち込みが可能だったからな…水を沸かせるウォーターボールのような水の魔術を使いその水を水筒に入れて食事処に持って行くことで普通に食事を楽しめることに気づいてしまったのだよ。

肉もいいが魚も美味しい…特に私は魚醤で煮た魚が濃い味わいで好きだ。


此処では周りが海で大地も限られているからか野菜がないってのが難点だし貿易で運ばれてくる野菜も馬鹿なほど高いから当然味噌もないってのが残念だが私的に醤油に似た味わいの魚醤が盛んに製作されていて安く買えるってのは利点である。

虚空庫にも魚醤が入った瓶があるほどだしな。


そうこうしている間に私とアルキアンが泊まっている宿へと辿り着いた。

宿は貴族が住むには少し不相応に思えるぐらいの外観だがコレでもこの国ではずいぶん立派な豪邸だと言える。

まぁ泊まるための値段がちとあれだが…貴族価格ってやつなのだろう。

出される飯もこの国では高級品である野菜が普通に提供されるしな。


「ねぇ聞いたかしら!あの良い貿易をしてくださってるサヴィンコフさんのとこのお爺さんが昨日からまだ帰ってきてないんですって…何処に行ったのかしらねぇ」


「えぇお父様からそんなことをぼやいてたわ…ホント何処に行ったのかしらね。お年でしたからそこの粗暴な冒険者にでも捕まってしまったのかしら?ホント、心配ねぇ~」


私が宿に入る手前でそんな声が聞こえてきた。

振り向けば扇を手に持ち顔を隠しながら喋る人族の女貴族と魚人族の貴族衣装を見に纏った女性が話しているようだった。


この国では神官が確か一番偉いという形だったから貴族なんてものいないと思ってたんだが…いや神官の娘だからあんな立ち振る舞いができるのか?

それに普通の魚人族が使わない共通言語まで喋っているし立場が高い方なんだろうな。

その扇の隙間から私のことをチラチラと見ているようだしどうやら私の外見から冒険者だということを見抜いて私に向けるように話題を話しているようだ。


「何というか…陰湿」


…あぁそういえば海でちゃんと顔が戻っているかみるために仮面を外したまんまだったな。

だからこんな女性特有の嫌味が言われるわけか。

何かと貴族はマウントを取りまくる種族だからな…学園でも経験したがこういうのは無視するのに限る。

下手に手を出すと衛兵を呼ばれるからな。


それにしてもコイツらはどうにも魚人族との付き合いがあるようだな。

普通だったら人族と魚人族は相容れない関係性なんだが…。

何せ人族からすれば近くにいるだけで魔法や魔道具が使えないという不備が起きやすくなると言われているからか印象はあんまりよくない。

魚人族からすればキモいだの何だの言われる対象にされるわ、魚人族であろうと一応は人であるからか人族ほどではないが野菜は必要で貿易面で不利だからと値段をふっかけられるからか仲は良好とはいえない。


ということは彼女は…貿易を良好に進める貴族の娘というわけか。

コイツらが後を継いだら不利益しか産みそうにないな…関わりたくないがさっきの言葉からあの薬屋と何か関連しているのではないかという何処ぞの名探偵並の思考が生まれたから聞きたいんだが。


やっぱりやめておこう。

このままでは腹がなってしまうからな…そんなことになったらこの二人から何を言われるか。

さっさと中に入って遅めの昼食とするのが最善なのだろうな。


そう思いながら私は踵を返し宿の中に入って行くことにした。

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