第179話
私は街を歩きながら冒険者ギルドへと近づくごとに路地裏からの怒号が聞こえるようになってきたことに気づいた。
何処もかしこも怒鳴り声が響き耳を塞ぎたくなる内容ばかりを口にしたそんな声だ。
ため息をつき目を路地裏に移すと錆がこびりついた金属製の鎧を纏って毛皮を敷きながら住宅に寄りかかる冒険者らしき姿があった。
鎧は鉄製…まぁこの街だと海水に濡れることもあるだろうし長い時間いれば鉄は錆びるのは当たり前になってくるがソレにしたって異常に錆びているなと思う光景だ。
鉄製の鎧なんて着るということはランク的にはEかDぐらいだろうか…Cランクともなれば報酬金も豪華になるから簡単に魔法金属と呼ばれるミスリルやミスリル合金にも手が届くだろうし。
まぁとりあえず恐らくだが魚人族の悪戯であぁなってるんだろうな。
本では確か魚人族は鉄を急速に錆びさせる特有の種族魔法があると記載されていたし…まぁあの冒険者はもう終わりと言ってもいいな。
何せ肌と鎧が錆で固着しちまっているように見えるし。
全くどんな状況になったら鎧の錆で自身の身体がくっつく何て状況になるんだか。
あれじゃ私でもどうにも出来ないな…何せ私の使う『回生』は身体の治癒をし元の状態へ完璧に戻すのであって生物ではない無機物などには効果がないからやったところで錆は身体についたままになることだろう。
いや…肉を削ぎ落として治すという手段もあるか。
「ま、面倒だし…そんなことするんだったら此処の新刊にでも頼み込んでやればいいだろうし」
そんなことを考えながら歩いてくと遂には路上に堂々と毛皮を敷いているやつまでいるようになってきて私は眩暈がするようになってきた。
別に体調が悪いわけではない…が路上で寝ているやつが私に口々に言う言葉に眩暈がしたのだ。
路上で死んだように寝転ぶ冒険者は私が通るたびに言葉を発する…助けを求めるように「依頼してくれ」と懇願し「か、金を恵んでくれ」「…帰らせてくれ」と私に弱った声で申し出てくる。
そして私は遂に冒険者ギルドへと辿り着いた…外見は意外と立派だ。
中へ入ると目につくのは魚、魚、魚…つまりは魚人族ばかりで人族の姿は見えない。
日差し避けに使っていたローブを今一度深く被り顔が見えないように仮面を顔につけ依頼でも受ける前に此処に滞在しているという証を発行する為受付へと足を向かわせる。
ちなみにだがこういうのは私が高ランクになったから行うことだ。
高ランクは好待遇の代わりに一つの義務である緊急依頼の場合は必ず出席するという義務が生じるからな…低ランクだったらこんなのやらなくともよかったんだが。
受付へと足を運んでいくと周りから嘲笑うかのような声や心配するかのような視線を向けられる。
何故とは思うが…薄々は感じていたが此処での人族の冒険者というのはかなり地位が低いとされているのだろう。
私が受付に着くと冒険者用のギルドカードを渡しソレを受付が確認しびっくりしたような顔をしながらギルドカードと共に一枚の紙がそっと無言で手渡される。
魚人族は確かエコーロケーションだったか…イルカとかについているとされる会話方法だったような気がするがソレが此処では共用言語となっているからか私のような人族のような言語を発するのはごく一部の魚人族だけなのだろう。
だからこそ紙による会話というわけか。
にしてもびっくりしていたが…あぁ成程すっかり忘れていたがギルドカードに書かれていることが原因か。
私ことレナはアルキアンと共に教会のゴミを王国から排斥したことで王や王都の冒険者ギルドのマスターから直々にAランクであることを署名されたそんな公認の冒険者になってしまった。
ソレに伴ってついでに探索者としても実力があるということで王命で探索者としてもAランクとなった…そのせいで仕事が増えた、なんてことはなかったが新たな変な肩書きと名声を得てしまった。
…深呼吸をしそしてため息が出る。
渡された紙の内容としては此処では海の中での依頼が基本で地上での依頼は無いと書かれていた。
まぁ当然と言っちゃ同然なのだが低ランクの冒険者にはその言葉だけで致命傷になるだろう…何せ今まで地上での生活しかしてこなかった奴が私みたいな前世で水泳を習ったわけでも無いのにいきなり海で泳いで獲物を狩れと言われても無理があるってもんだ。
いやまぁ私とて海で獲物を狩れと言われれば出来るかどうかわからないというのが正直なところだが。
「海中かぁ…」
そう呟きながら依頼が張り出されている掲示板へと歩きより依頼を眺めると魚人特有の文字で書かれておりその上にふりがなが振るように小さく人族の文字で書かれている。
そしてどれもコレも海底の探索依頼やら海の生物の討伐ばかり常設の依頼は魚人族の中でも最も幼体である稚魚の餌作りと餌付け…1時間で銅貨1枚という私からしたら割に合わない依頼だけだ。
銅貨1枚か…5時間働いて軽食を食べられる額にやっと届くぐらいしか稼げないな。
だがコレが此処に住む人族の冒険者の生命線になっていると考えると路上で寝てるアイツらが馬鹿に思えてならない。
こんなことをするんだったら大陸の方で森から薬草を取ってきて売る方が儲かるし狩りだってできる。
少なくともそうすれば路上で寝るなんてことはないし最低限安宿で屋根のついた場所で寝られるんだ…なのにどうしてアイツらは此処に来たのだろうか?
憧れ、何となく、誘われたから、心機一転、そんな軽はずみでアイツらは此処に来たのだろうか。
稼いでいれば此処から蜻蛉返りの如く帰れたのだろうか…全く馬鹿な奴らとしか言いようがない。
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