第177話

「シャッ…シャッ」という音が耳に入ってくる。

コレは…多分だけどペンを走らせる音だろうか?

そんなことを考えながら目に光が入ってくる感覚に襲われゆっくりと目を開けていく。


「うぅ…こ、ここは?」


「あ、どうやら目が覚めたようだね人族」


目を開けると目の前には机で本に羽根ペンを走らせる顔以外の所に鱗を持つ魚人族の姿があった。

私は周りを見渡すと本棚が並んでいるのが確認することができここが恐らく図書室であるということが理解できた。

どうやら目の前にいる魚人族曰く私はこの図書室に入ると同時に倒れてしまい寝かされていたらしい。


「全く若いんだから夜更かしは行けないよ?」


魚人族はそう言うと作業に戻っていく。

私はどうやら倒れていた時に神官から診察を受けたらしくその倒れた原因は寝不足ということになっているらしい。

まぁ実際は…あの螺旋階段のある変な場所に意識だけが行っていたから身体の方がぶっ倒れたんだろうけどさ。


にしてもこういう体験をした後はその本人はその時の記憶を綺麗さっぱり忘れているってのがセオリーだと想うわけだが私は覚えてるのは何というか「本当に覚えてていいのか?」とか思えてくるな。

いやはやこの考え方はやはり私が空想の物語ばかり読み耽っていたからなのだろうか?

…あの最後に聞こえた声、アレが私の意識だけを呼び込んだ張本人なのだろうか…?

何というかくぐもったような男性のような声に聞こえたが一言一言に「キーン」というアレだ此処に転生してからは聞こえなかったが子供の時良く聞こえてた金属音に近い耳鳴りが鳴っていたな。


「にしても『嫉妬』か…」


確か『嫉妬』は八十年前のかに海の底で丸みを帯びた正体不明の魔物が所持していたんだっけ?

ということは…もしかしたらこの国の深海にいるのかもしれないな『嫉妬』という存在が。

あの本の最終的な部分は読みにくくって読み取れなかったが偉大なる力を使い国を作ったというのがチョロっと書いてあったからもしかしたらこの国の代表的な長が『嫉妬』なのかも知れないな。

まぁコレは予想の域は出ないし確定も出来ないわけだが。


そう私は考えながら本棚へと歩み寄り本を手に取った。

本棚には親切に人族に通じる文字で「シーヒルズの歴史」と書いてありあの螺旋階段よりも明らかに親切であると分かる。

やはり図書館というのはこうではなくては不便というものだ。


…少女読書中…


「人族の少女よ…そろそろ終わりにしておくれ営業終了の時間だ」


そう言われつい窓の方を見るともう真っ暗になっておりいつの間にか図書室に蝋燭の光が入っているということに気づいた。

あぁどうやら私は夢中になって本を読み耽っていたらしいとその時頭が理解した。

横を見ると本の山…お腹をさするととてつもない空腹感も感じる。


ここはさっさと片付けて帰ることとしよう。

私はそう考え山のような本を一人片付けることとした。

今日読んだ本は大体が国が出来上がった歴史と信仰する神についての本ばかりだ。

まぁ今日読んだ本の中には誇張表現されていたりそもそもがこの国をいかに凄く見せるかという結論の末に出来上がった嘘の話もあったのだろうがソレでもこの国の物語とも言える歴史や信仰は面白く思えた。


「コレで最後ッ…と」


私は呟きながら分厚い歴史の本を本棚に仕舞い込み私は足早にその場を立ち去ることとした。

室内での飲食は禁止というマナーはちゃんと守らなくてはならないからね。

そうして教会の外へ行き私はそこら辺に配置してあったベンチに気兼ねなく座ると『虚空庫』からパンを取り出し頬張った。


やはり昼を食べなかったのがいけなかったのだろう…食べる手が止まらない。

私は食べながら頭の中で今日のことを整理することとした。

この国の成り立ちと神と呼ばれる者の降臨に封印…全て本から得た知識でどれが本当で嘘かなんて判断つかないがどれかには本当と言える事実が紛れ込んでいるから覚えといて損はない。


「まぁ断言なんてできないんだけどね…」


私はそう誰に言っているのかわからない呟きと共に今日のことをまとめた本を取り出した。

いつの間にか私には本を読みながらその本の事を要約した文を本に書いてしまうという癖がついてしまったらしい。

やっぱり本の大事な部分をメモし続けていたからそれがすっかり癖に定着してしまったのだろうか?

本を読むといつの間にか読んでいる方とは違う左手で虚空庫に手を伸ばしペンを握り虚空庫の中でメモを取るという周りから見れば異常な光景が出来上がってしまう。


ま、まぁソレも個性の一種だ。

異常ではあるがこんなの誰にでもできる事だろう…私はそう考え悩みを放棄することとした。


簡単にこの国のことを説明すると最初この国は魚人の集まりによって作られた海の楽園とも言える場所だったらしい。

だがある時一人の魚人族が人族に恋をしその恋は困難を極めながらも実った。

人族は我々魚人族の住む美しく澄む青き母なる海には住めず我々は人族の住む天上の地には長居は出来ない。

だからこそその間に生まれた子はそのどちらにも適応する最初の王とも言える子であった。

人族の身体を持ち天の地にて長時間の息ができ我々のように母なる海にて呼吸ができるそんな子によって我々魚人族は国を作ることと決断を下した。


全ては至高の存在となった我々が天の地を支配する。

その願いの為に。

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