第176話

神官の言う通り私はクトゥルゥだかの神像を横切りその奥へと足を進めてていくと廊下のようになっており階段を続く道や神官が出入りしている扉付きの部屋があった。

私はその扉のどこかに図書室に入れるのだろうと思いながら歩いていくとその廊下の奥に大きな扉があることに気づいた。

その扉の上には図書室と文字で書かれている看板があったため私はその扉をくぐることとした。


「…ん?」


扉をくぐると下に行く螺旋階段が目の前に現れた。

壁にはびっしりと本が敷き積まれておりどれか一つとったらそこから全て崩れていくのではと思わせるほどびっしり詰まっている。


「…とりあえず一つ本を取ってみるか」


私は目についた本を試しに取ってみることとした。

まぁ仮にも図書室と呼ばれている場所だ…本を取っただけで全て崩れて死ぬなんて即死トラップなんてあるわけないだろう。

手に取った本はイードラ王国の図書館でも見かけたことがある『どらごんのせいじょ』という絵本だ。

確か内容は子供向けの絵本だったと記憶している。


簡単に言うとすればある日ある王国のお姫様が天災を引き起こす邪悪なドラゴンの生贄として捧げられるのだが実際にはそこに平和を願い過ごすドラゴンがいるだけでそのドラゴンにお姫様は恋をして一緒にそのドラゴンから引き起こされる天災を収め最終的にはドラゴンとお姫様が結婚するという話だったはずだ。

まぁコレを読んだ子供は種族が違くてても恋をすることができるということを知るのだろうが…ちょっと成熟した奴からすれば結婚したお姫様は人族で相手はドラゴンな訳だから寿命の違いを知ることになるのだろうな。


そんな風に手に取った本のことを考えながら引き抜くと…何ともなかった。

本が積み重なって棚はなく本しかないのだから一つ取れば簡単に崩れると思ってたのだがな。

取った本の元あった場所を見ると青白い窪みが出来ており恐らくこの青白い何か…というかまぁ十中八九魔力で固定されていたのだろう。


コレだけの量の本を引き留めておくような魔力がどこから来ているのか気になるところだがまぁ危険なことには変わりないだろう。

この魔力の供給元がなんらかの理由で断たれたら確実に此処にいる人は本の濁流によって生き埋めだ。


「そうとなればここに長居するのは危ないな…目当ての本を読んですぐに出ることとしよう」


この国のことをきちんと知るまでここにいたいが不安要素が残るここでの生き埋めは勘弁だ。

さっさと神と崇めると存在の書いてある蔵書だけ読んでさっさとずらかることとしよう。


そう思いながらできるだけ螺旋階段を下がらないようにしながら本のタイトルを読んでは目を移しまた本のタイトルを読むと言う作業に入った。

にしても此処には司書がいないのが辛いな…目当ての本を見つけるだけでも一苦労するし早く見つけたいという焦燥感も湧き上がってくる。


探すこと…あぁ何時間?

結局私は此処に何時間いるのかわからないが下におりながら本を探すという作業をし続けた。

陽の光もないのだから時間なんてものはわからない。

上を見上げると真っ暗闇が見え螺旋階段の端から下を向くとコレまた真っ暗闇が続いている。

とにかくわかったことと言えば少なくとも此処にいても本はまだ崩れないということだろう…まぁ確証なんてものは持てないが少なくとも数時間いても崩れてはいない。


「あれ?思考が何かループしてる気が…気のせいか」


にしても此処は本当にすごいところだ…最初見かけた絵本は新しい表紙のものが多かった印象があったが今じゃその表紙はボロボロの物が多く見られる。

と言うことはこの本棚と形容していいのかわからないが図書室は下に行くほど古い本が敷き積まれている構造になっている。

更に言えばそう言う風に積み直す人がいると言うことに驚きを隠せない…私だったら仕事でもそんなことはしたくないからなそれにこんな多くの本を考えながらやるなんて。


思考の海に呑まれながらコレまた降ってくと一つの本に目が留まった。

その本のタイトルは『天より來し水の王』というタイトルのボロボロの小説…というべきか。

文字は書き殴ったようにぐちゃぐちゃで見にくいが読めない事もない…と言うかこの文字は私は知らないはずなのに何故こんなにスラスラと読めるのだろう?


「まぁとりあえず読む…か」


そう呟きふと自分の下を向くとそこは階段ではなく床となっていた…。

何を言っているのかわからねーと思うが私も今何が起こったのかわからない…頭がどうにかなりそうだった…なんて馬鹿な事考えてないでさっさと読むか。

まぁアレだいつの間にか図書室の一番下まで来ていたのだろう。


時間は過ぎていきようやく内容を理解できた。

この本は途中までは日記のようになっているがある日を境に内容が大きく変わって物語のようになっている。

コレを書いたのは魚人族の少女だったのだろう…最初はお父さんに買ってもらったノートのことが綴られていてそこから今日あった事嫌だったことなどの愚痴が書かれている。

そして魚面が醜いやら親族が臭いなどの暴言を受け幸せだった生活は人族によって変わってゆき酷いものとなり全てが憎く好きだった人にも振られる。


虐めてくれた憎悪とソレでも好きでいられる愛…ソレこそが愛憎となり自分が人であったら自分が綺麗であったらアイツの顔は自分より良いと嫉妬していく…その嫉妬に従い行動し続けた時得たのが思い想うだけで何でもできる人を異形にだってできる現実改変能力の力。

全てを変えるため彼女はその力で子供の頃から来ると信じていた天から降りし白馬に乗った王子様を自分の手で作りだし子供を育んだ。

その生まれた子供の顔は魚人の魚の鰭と人間の美しい顔を持つ素晴らしい子供だった。


「『嫉妬』というのは醜い…そう思わないか?」


その頭に響く声を聞くと共に意識は薄れて…黒へと染まっていくのだった。

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