第175話
海上国家シーヒルズの街並みはあまり他と違い煩くはない。
というのもやはり人族とはまた違った種族というのが原因なのだろうか?
街の人は活気はあるようだが誰も彼も普通に喋っているはずなのに声が聞こえない。
そんなことを思いながら街を歩いていくと警備員に捕らえられた愚かな犯罪者が目に映った。
その手には魚人族のと見られる熱帯魚のような鮮やかなオレンジ色の鱗を数枚握りしめており目の前にいる魚人の鱗を剥いだものだと一目でわかる光景だった。
「クソッ離しやがれッ!俺が何しようが俺の勝手じゃねーかよ!それにそいつにはちゃんと鱗をもらっていいかって聞いたんだからさ…ゴフッ」
「チッ…これだから外来人という奴は嫌いなんだ。我ら魚人族の一般言語はエコーロケーションによる会話だというのに勝手にそちらの文化を押し付けやがってからに」
そう警備の魚人がわざわざ人族の言葉で嫌味を周りにいる人族に聞こえる声で語ると捕まえた男の顎を殴り顔面を地に打ち付け手錠のようなモノを人族に取り付けるとそのまま路地裏へと消えていった。
…何となくここにきてから感じてた違和感ってのは魚人族特有の会話であるエコーロケーションによる会話によって発生する空気の振動が原因だったのか。
だからこそ私の気配察知が若干違和感があったわけだな…意外な所で弱点を知れたのはいいがエコーロケーションに空気の振動があるせいか魔素が乱れて気配察知が難しくなるとは相手や味方に魚人族がいたら弱くなるってのは考えさせられるな。
私は若干空気が悪くなったその場を一度顔につけている仮面を深く被るように手を添えそそくさと離れた。
にしても魚人の鱗かぁ…確か前世ほどではないが冒険者ギルドで人魚の鱗を持っていると幸運が訪れるとか聞いたことがあったな。
アレは周りからは馬鹿なこと言ってんじゃねぇとかって酒の肴にされていたが確かどっかの馬鹿がその噂を知る人ぞ知る情報屋から仕入れた貴重な情報だと大口叩いていたが…もしかして捕まっていたあの男はその嘘情報に載せられたのだろうか?
風貌からして冒険者みたいだったし馬鹿と同じで騙されていたってのが真実かもな。
まぁこの文化的に商人や貴族でもなければ普通情報に踊らされているなんて考えないだろうしこの世界にはインターネットリテラシーなんてモノは普及してない。
ネットの情報は正しいと見極める人じゃないと利用は難しいとはいうがその常識すら無いこの世界は詐欺が横行するのは誰も止められないのだろう。
噂が噂を運んで別のモノになっていくなんてのもザラだろうし。
そうこうしていると教会の目の前まで来ることができた。
街の中心に位置するソレはとても立派でありこうして間近で見れば見るほど威厳と言いますか…何となく威圧されているかのような感覚に陥る。
教会には多くの魚人が出入りしており一般的に公開されているのが一目で分かったため私もその人混みに紛れ中に入ることとした。
中はかなり青白い装飾がされており入ってすぐの場所は大きな広場となっており修道服のようではあるが大陸では見ることがない服装をした…神官のような魚人族が見るからに怪我をしている人、お年寄り、子供を優先的にその魔力を持って癒しているところが確認できる。
周りを見渡すとその中で多くの魚人の成人している大人であろう方はその光景を見ながらひざまづき広場の奥に位置する巨大な神像に祈りを捧げながら癒されることを待っているように見えた。
神像は…顔が蛸のようで髭が触手のようにうねった姿をしており目が人とは思えない六つの目を持ち身体には普通の魚人のようなのだがその背中には何故か魚には無いような蝙蝠のようなはたまたドラゴンのような翼が生えている。
そんな神像に記憶のどこかで既視感が芽生え「何処かで見たような…」と思い耽っていると目の前まで魚人族の神官がやってきて私に癒しの祝詞を唱えてきたのでそちらへと意識を移した。
やはりというべきかその祝詞もエコーロケーションが混じっているので全ては聞き取れないがその祝詞の節々で人族の言葉でもましてや古代の言語でも無い呪文のような言語がその口から発されているためこの魚人族の国にも人族でいうところの古代言語があり文化というものがあるのだと再確認できた。
そうして祝詞を告げ終わり私に向かって手を合わせて祈りを捧げる格好をしたその時身体の奥に暖かい何かを感じると共に癒やされたという実感が湧いてきた。
私は私に起こったその現象に身体をのけ反らせ驚くと目の前の神官はその私の反応を見てかやりきったという顔をした。目の前の神官は次の者を癒すためどこかに行くそぶりを見せたため私は気になったことを聞くことにした。
まぁこの神像のことも知りたいし先ほどの祝詞のことも聞いてみたい…言うなれば好奇心だ。
「すみません…この国について」
「?…あぁすみません私には癒す仕事があるので…ここからクトゥルゥ様の神像の奥の方へ進んでいただくと我が国の図書館となっておりますので各自そこで調べてもらう形になっております」
神官は「では、ごゆっくりと」と私にお辞儀するとそのまま他の人の元へといってしまった。
私は大人しくその言葉に従い神像の奥へといくために足を進めたのだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます