第172話

船に乗る船員は矢を継ぎクラーケンへと矢を撃ちそれ以外の魔法が使える者は詠唱を紡ぎ土の槍や火の玉を喰らわせる。

その中でも目立ったのは黒い炎を纏い触手を踏みながら着実にクラーケン問題へと近づいていくアルキアンの姿だった。


アルキアンはその身を悪魔へと変貌させその両手には黒炎で出来た剣を用いて走りながら触手へと突き刺していく。

その突き刺した傷からは黒い炎が湧き上がり痛々しくその炎は遅いながらもじわじわと侵食していく。

クラーケンの触手は私の天雷砲の魔法陣を爆破させたことによって焼かれその数を減らしはしたがその数はまだまだ多い。


「っと…そろそろ次の魔法陣を準備しなくちゃな」


そんなすぐに次の行動に移る彼らの行動力に関心しながらも自分でもできることをと思い次の策を投じる。

範囲がでかいのはあまり撃たない方がいいだろうしさっきみたいな雷系の魔術だともしも誰かが海に落ちた時に一緒に感電させてしまうから無しか。

うーん…アルキアンにも当たらなくて誰にも被害が出ない魔法となると地属性とか?


…まぁあんまり考えなくてもアルキアンなら避けてくれるだろう。

細かいこと考えてたらできることもできなくなっちまうからな考えずに行こう。


「ということで前言撤回ッ!魔法陣展開…天雷砲発射ッ!」


もはや何も考えずにクラーケンの周りに魔法陣を幾つも展開して先程撃った天雷砲を大量に放射する。

今回は風の魔法陣の追加は無しの天雷砲そのままの威力での攻撃だ!

怪しく輝く魔法陣から白い光線が放たれクラーケンを貫く。

それは身体へそして触手へと放たれては貫いていきその度にクラーケンは大きく身体をうねらせ痛みにより叫ぶ。


風の魔法陣を使っていないから範囲は小さいながらも天雷砲はその威力を持ってクラーケンの身体を貫き痛みによってうねらせたことによって小さな身体の傷は広がっていく。

それによって青い血が身体から溢れては海を汚す。

アルキアンもそれに続いては剣を振るいそのクラーケンの身体に突き刺し傷を広げる。


その痛みに耐えかねたのかクラーケンはその身体を大きく揺らし海の中へと潜っていく…アルキアンも相手が撤退することを察したのか黒い悪魔のような羽を羽ばたかせ空へと飛びだち船へと帰還してきた。


クラーケンは更に深く潜っていくその身体から溢れた血は海にいる肉食の魚を誘き寄せ相手が弱っているからと執拗に傷を抉りまさに漁夫の利状態と海は化した。

小さな小魚から大きなのはサメのような魚まで多種多様な魚がクラーケンの周りを囲み喰らいつくがそれを払うように海の中で身体を大きく揺らしては魚を追い払う。

そうしてクラーケンは海の中へとその姿を消していった。


それから数刻の時間が経った。

油断した時こそクラーケンはまた海から姿を現しこちらを攻撃してくるとこの船の偉い人が判断したためだ。

そして誰かが言葉を発する「もう来ないんじゃ無いか?」と…その推測は瞬く間に周りへと伝染していき大きな声になっていく。


喜びの声、褒め称える声、この悲劇を乗り越えたことによって一つ成長したと泣き叫ぶ声が言霊となり喜ばしいことだと宴をするに値するという言葉によって雰囲気が作られる。

最初こそ静止を判断した偉い人は周りを落ち着かせようとしていたが今はその雰囲気に乗せられ喜び合う姿が見えた。

そのうち船の中で震えていたであろう貴族が出てきてその場を仕切りだし宴が始まった。


貴族用の船だからか食料の備蓄は大量にあるためこういう宴にも向いた船だからこそできる豪華な振る舞いだ。

瞬く間に調理場から大量の料理が運ばれてきて宴は盛り上がりを見せる。

船員はクラーケンの武勇伝を語り出し魔法使い達は自分こそが白き爆撃砲を放ったのだと自慢し貴族はこの戦闘で悪魔のような姿を見せた英雄アルキアンを囲む。


「あぁやって素直に認められるのは…羨ましいな」


小さくそう呟き宴用の飯を食う。

今回出されたのは肉…食糧庫で冷凍されて運び出されたのだろうか?

常温で保存してたとしたらかなりやべぇ食べ物だと思うわけなのだが…。


そうして時間が経っていき夜になる。

大人は酒に溺れその場で寝転び酒豪と言える存在はまだまだ酒を飲み干す。

今回こんなことがあってか船員の中には酒に呑まれた人も多くおり船が動かせない状態になったため船に積まれた魔法の錨を下げ今日一日船を止めとくという異例の事態にへと発展した。


「やぁレナ…そろそろ寝る時間じゃ無いかい?僕はもう眠いよ…」


そう言いながらボロボロになったアルキアンが姿を見せてきた。

どうやらあの戦闘から着替えず宴に参加し貴族からももみくちゃにされたようで精神的疲労がわたしでも分かる状態になっていた。

二人で並んで船の中を歩いて自分の部屋を目指す。


「そういえばレナ…クラーケンへの攻撃すごかったね?アレどうやったのさ」


「ん?あぁ…まぁ私の使える魔術を使っただけだよ」


そう私は答えるとアルキアンは「そうなんだすごいね」と私に言い「僕にもできるかな?」と聞いてきた。

確かに魔術ができるのは戦力アップのためにも是非にと言いたい。

だが…何となくだが私の魔術というのはアイデンティティに近しいモノであるためアルキアンにはできてほしく無いとつい思ってしまう。


だから私はその言葉を無視した。

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