第173話
パプーという何とも気が抜けるような音を船が奏でて船員は一層忙しく歩きまわる。
あの日から一日と数刻ここからでも肉眼で見えるほど近くまで海上国家シーヒルズの元まで船は来ていた。
この船の中での噂やアルキアンから渡されたこの国の概要が纏められた本を一応目を通してその美しさは知っていたのだがこうして実際に目で見てみるとより一層美しいと思える。
シーヒルズに近づけば近づく程に海は透き通った水色になって行き海深き所には珊瑚礁や海の中でしか生きることのできない魚人の町が顔を見せている。
幻想的という言葉が似合うそんな国がそこにはあった。
虹のように美しき鱗を持つリュウグウノツカイのような姿をした魚や熱帯魚のように色鮮やかな姿を持つ魚たちがまるでこの船の到来を歓迎するかのように船を囲み水面を跳ねる。
「レナそろそろ僕達も降りる準備をしなくちゃいけないよ?」
そう声が聞こえ窓から顔を離しアルキアンの方を向く。
私はあの戦闘からどっかの誰かさんが連れのやった魔術によって助かったという証言により船の中を出歩けないこととなりずっとこの部屋で過ごすこととなっていた。
外に出れば船員からは「あの魔術を教えてくれ」だの「弟子にしてください!」とうるさく頼まれ貴族からはアルキアンがいないことをいいことに「私の元につかないか?」や「下民よ…我に仕えよ」と下に見られながらの勧誘を受ける。
それに魔術というのは全員が使えるものではあるが魔法には劣るというのがこの世界の常識となっているため私のが特別と判断したのか私を追い回しその真理を判断しようとする輩まで現れた。
全く…魔術を本気で取り組めば私のような魔術師と言えるやつは溢れることとなるというのに。
人の努力により発現される魔術より実在するとされる神の加護で使える魔法の方が優先されるというのはあまりにも…何というか継がれてきた人々の努力が否定されているように思える。
そんな風にして一躍有名人となった私が選んだ選択は逃げることだった。
原因となったアルキアンには相当の罰として使いパシリの奴隷として働いてもらっている。
外に行けないから料理はアルキアンに運んできてもらい必要なものはアルキアンに持ってきてもらっている。
「レナぁ聞いてるの?」
「んー?…わかったよ今退けるって」
そう言いながらアルキアンの背から降りる。
この船にはベッドはあるがクッションが無いし椅子は木製でずっと座っていたら尻が痛くなるためベッドにアルキアンが寝そべりその背中に座ることで机と丁度いい高さを手に入れれるためそこで私はずっと本を読んでいたのだ。
私が船の揺れに身体を動かした時にアルキアンが「ぐぁ」と蛙を潰したかのような声を出してたのが面白かったんだが…もう終わりかぁ。
「クッションの役目お疲れさん」
私が感謝の言葉と共に立ち上がるとアルキアンも寝転びながら見ていた書類を片付けて立ち上がり年寄りのように腰を摩った。
やはり長時間は答えたのだろうか?
やっぱり座らなかった方が良かったのかな…と後悔の思考になるが私はこれは罰なのだからと言い聞かせ視界を移し見ないこととした。
「それじゃあ僕は部屋に戻って船から降りる準備をしてくるよ…船が止まったら船の甲板に集合ね」
アルキアンはそう言いながら部屋から出ていく。
集合場所は甲板と言っていたがそんな簡単にアルキアンのことを見つけられるか不安だが…まぁなるようになるだろう。
その時その時で考えればどうにかなるってのは楽観的に考えすぎだろうか?
私は机に置いてある数々の紙を紐で纏めて虚空庫の中へとしまっていく。
これらは大事な知識の数々が記された私の魔術の集合体だ…研究はまだまだ進んでいないがこれが大成したら私は一段階いや二段も三段だって超えて今までのより強力な魔術を使えるようになる。
自分なりの解釈を魔法陣落とし込み夢想を現実に現す概念すら変えるような素晴らしい力を…。
「まだ少し力及ばずだが…既存の魔法陣を参考にすればきっと」
そう呟き闇の神獣と戦ったあの日を思い出す…星に魅せられ渇望したあの日のことを。
死闘と言える死闘を生き抜きただ一人で認められた星との闘いで目に焼き付けられたあの光景を私は忘れることができなかった。
今思えばあの神獣は異常と言えた…神は魔法という自らが作り出した手法があるというのにあの神獣はその魔法を使わずに人の作り出した魔術を使っていたからだ。
神本人では無いからその理由はわからないが異常の存在だというのは分かる。
だからこそ私は思うわけだ。
人が作り出した手法でアレぐらいの力を使えるならば私でも極めれば近しい力を使えるのでは無いかと。
そう考え作り出した魔術が今手の中にある…既存の魔術を改良した星を基調とした魔法陣。
まずは知っていることから極めてみようと思う…理想は神獣が使っていたようなあの魔術だ。
今まで色々な魔法陣を使っていたがこれからは同じモノを使い極め改良を加えよう。
器用貧乏じゃこれ以上の成長は見込めないだろうから。
いつか必ず魔術の神髄へと至るために。
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