第164話

馬車に揺られること3日目流石に足の速い馬を走らせても海上国家シーヒルズ行きの船が出る港町まで行くには時間がかかる。

幸いなことに私達はここまで山賊、野盗に狙われることなくここまで来ることが出来た。

予定ではどうやら今日の昼頃に港町に着くらしくその為に朝早くから馬車を走らせている。


「ダイスは…2でえーと『ドラゴンに襲われて金貨300枚落とす』ですか…はぁ」


「アルはあんまり運が良くないよね」


アルキアンがそう言ってがっかりしているところに私はこの3日間で思ったことを言い放つ。

この3日間私達2人は馬車の中では退屈だということで街でアルキアンが買った娯楽遊具を使って遊びまくった。

トランプから始まり馬車が揺れないということでジェンガをやりこの異世界にはないだろうと思っていたが何故かあった将棋もやった。

ちなみにアルキアンは王様ゲーム用の棒も用意していたが2人しかやる人がいないということでやらないこととした…アルキアンは何故か非常にがっかりした顔をしていたのを覚えている。


「そろそろ着きますので準備しといて下さいね~」


そんな風に遊具で遊んでいると眠そうな御者の声が聞こえたので遊具をしまうこととした。

御者を相変わらずやってくれているレイノルドさんはほぼ眠らずに馬を操縦してくれている為身体的疲労が多いようだ。

港町につけば休める筈だし宿で休ませることとしようとアルキアンと話をした。


そうしているうちに馬車は港町の入り口を抜けて馬車置き場とされている広場に置かなければならないとのことなので私とアルキアンは海の近くで降りることとした。

その際にアルキアンは御者の方に近づくと手にそっと銀貨を握らせるとこの後の指示を出してこちらへと近づいてきた。

どうやら予約をとった宿にそのまま移動させる指示のようだったようだ。


「さて、ようやく港町に着いたわけだが…何しよう?」


「そうだね…とりあえずせっかく港町だし屋台を見て回らない?」


周りを見るとこの港町の馬車の通る大通りの端には屋台がずらりと並んでおり船が出ることもあって内陸では見られなかった魚の屋台や異国のアクセサリーが見られた。

2人並んで屋台を見ながら歩いて行く。


こうして平民と貴族が並んで歩くなんてのは側から見れば珍しいことだと思うが…アルキアンと私が着ている服というのは冒険者が着るような機能性に優れた防具。

貴族が着るような煌びやかな装飾が付けられた服ではない為貴族には見られない筈…だと思いたい。


「寄ってらっしゃい見てらっしゃいッ!美味しいよ安いよ~ッ!ヘイッそこのお二人さんこちらの朝の採れたてのシールドフィッシュ焼きはいかがだい?一つ銅貨3枚だよッ!?」


色々な魚や果物をアルキアンと共に食べ歩きながら歩いているとそのように誘い文句がこちらへと向けられそちらを見る。

ソコには…売っているおっちゃんの顔ぐらいの大きさのカブトガニのような姿の魚というには難しい形容し難い何か異様な魚っぽい奴がグリルの上で焼かれていた。

焼かれているのに焼き目はそのシールドフィッシュの血であろう青い血が色づいておりどう見ても食欲が起きる気がしないが未知のものを食べたいという欲求もある。


「おっちゃん…それ一つ」


そう言いながらポケットから銅貨を3枚取り出し手渡すとおっちゃんは「勇気あるね嬢ちゃん」と呟きながら木でできたスプーンと共に手渡してきた。

チラッと横目でアルキアンの方を見ると少しワクワクしているような顔をしている…。

というかこれの食べ方はこのシールドフィッシュの身をスプーンで抉って喰えば良いのだろうか?


私とアルキアンは屋台の裏にある家の石段に座ると身をスプーンで抉って喰らうこととした。

…味は意外にも美味しい白身魚の味がしてホクホクしており見た目が最悪だが美味いと言える。

私はそのまま美味しそうに食べて行くと視界の端のアルキアンが食べたそうにコチラを見ていた為一口サイズにスプーンでシールドフィッシュの身を抉りアルキアンの口に運ぼうとするが…何故かアルキアンはそれを食べようとしない。

食べたそうに見ていたのに何で食べようとしないのだろうか?


こうしているうちに冷めてしまうと思った私は手に持ったスプーンをそのままアルキアンの口に無理矢理入れて食べさせるとシールドフィッシュの身をもう一度抉り再び口に入れては抉って身を掬うを繰り返し…残るは皿代わりとなっていた表面の殻のみになってしまった。

私は手に持っていたスプーンを屋台のすぐそばに置いてあるスプーン置き場と書いてある場所に置くとそのまま手に残る殻に齧り付く。


横から驚きの声が聞こえるが気にしない。

少し硬いが食べれないこともない例えるなら少し硬いお煎餅って感じ…味はグリルで殻を下にしていたからだろうか炭とこげの味がする。

それ以外には味がしない為そもそもが殻は無味なのだろう…まぁ食べれないこともないっていえば良いのだろうか?


「それ美味しいの?」


私が独り言のように「味がしない」と呟くとアルキアンは怪訝そうな表情でそう言ってくる。

まぁ食べてしまったもんはしょうがない…食べ始めたんだから最後まで食べないと行儀が悪いからねちゃんと食べなきゃいけない。

そう思いながらバリバリボリボリと音を立てて無味の殻を早食いする。


「…ご馳走様。それじゃ行こう?」


そう言って次の目的地へとアルキアンと共に歩き出した。

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