第161話
誰もが応援をやめじっと目を見張りながらそれを見ることしかできなかった。
あの殿下が使っていた剣神流剣術…王国にいる時に調べてみてわかったことだがアレの流派はなんでも王国の王族のみに継承される流派であるという。
王族でさえそれを使いこなす者は少なく皆伝した者は剣王の名を連ねることができ石碑に刻むことができ未来永劫語り継ぐとのこと。
だがそれ故かその流派は外で他人に見られることが多くそれを天才が真似し作られた流派が多数存在する。
剛力な力こそパワーと信じる剛剣流に速さこそジャスティスな速剣流、剣の幻影を作り出す技を磨いた偽剣流にその威圧的なオーラを放つ事こそが最強と信じる威嚇剣流…。
いや威嚇剣流はそもそも剣を使わなくてもいいんじゃないかって話もあるが…。
その他にも色々な流派はあるが源流は剣神流剣術であるのには変わりはないとのことだった。
さてそんな事を考えていると戦場は動き出していた。
最初に動き出したのはレイベル殿下だった。
剣を構えると足で地を蹴り前へと進む…その細いようで筋肉しか詰まっていない腕で剣を上から下へと振り下ろす。
「剣神流剣術ッ!『フォールインパクト・オーラ』!」
振り下ろされた剣からこちらからでも目視できるようなオーラを放ち剣の周りだけ歪んで見える。
アルキアンは真っ先に後ろへと飛びそれを回避すると共に手から黒い炎を放ちレイベル殿下を焼き払おうとする。
だがそこで『フォールインパクト・オーラ』を放つ所をずらし即座に地にそれを撃つことによってそれの炎を遠ざけると共に剣から地へと纏っていたオーラが地上へ降り衝撃にオーラが乗ってその威力はこの戦場の隅々まで轟音を鳴らす。
コレが剣神流剣術から派生した威嚇剣流が目指す領域、威圧により空気を歪ませるほどの力…コレほどのものをあの細い腕ですら撃てるのだから脅威そのものだと言えるだろう。
放たれたオーラを纏った衝撃波はまるで生き物の様に地を駆け巡りアルキアンの黒い炎と混ざり消えていく。
いや相殺されたというべきか。
戦いはその後も激しさを増していく…レイベル殿下は一度先ほどと同じ構えを取るとまたその剣にはまたオーラが宿り剣が揺らぐ。
流石この国最古の流派にして現代の源流…王族だけが独占する流派といった所だろう。
レイベル殿下が剣を振り下ろしアルキアンはただそれを回避する攻防戦が繰り広げられ時にアルキアンがその手に持つ剣で攻撃を行いレイベル殿下が剣でそれを防ぐといった状況が続く。
どうやらあの『フォールインパクト・オーラ』は防御には使えないようで剣で防ぐ事しかできない。
時に剣がぶれ二つになったりするトリッキーな技が出るがそれすら黒炎により体勢がぶれて消えていく。
攻撃する暇はないに等しい…がそれでもレイベル殿下の剣術は真空波を生み出しアルキアンを追い詰めるように剣を振るう。
完璧でどちらも一退のない攻防戦のように思えるが…そこには僅差での戦闘の差というものがある。
アルキアンはそのすべての攻撃を避け衝撃にも対処するがレイベル殿下はその中の攻撃を完璧に防ぐことはできず防いだ炎は剣を覆い着実にレイベル殿下の身を焼く。
こちらからでは見えないが…おそらく身を焼かれては即座に回復してその傷を隠しているのだろう。
「だが所詮は人間だ…痛みが募れば自ずと」
そうしてその時が来た。
遂にレイベル殿下はその身を動かせなくなった…剣が手からこぼれ落ちたのだ。
人には感情がありそれはどうしても自分では操作することが出来ない…多少は自分でも操作はできるだろうがそんなのはほんの一部だけだ。
痛みを与えられた身体はその痛みを脳に伝え相手に畏怖し自分には恐怖を植え付ける。
そうした無意識にもう無理だと思う事で身体は動かせなくなり鈍って更に攻撃を受け自由な方を選ぶようになる。
それが無抵抗というわけだ…戦う事は無駄だと何処かで思えば察して脳はその部位の感覚を鈍らせ動けなくする。
ゲームではなくて現実だからこそ痛みが伴う…痛いだからこそ逃げたくなる痛くない方へと動く。
いくら回復したとて蓄積された痛みによって脳が身体を動かせなくしてしまえばもうどうにかする手立てはない。
「勝負ありだな…」
そう誰かがこぼした事でそれは現実になる。
片膝と両手を地に着き剣を握ろうとしても握れない…それでも握ろうとして体勢を崩し身体全体が地に伏せてしまった。
そんな状態でアルキアンは剣をレイベル殿下に向ける。
完全にもう決着がついたと誰もが思うだろうがそれでも決闘は終わらない。
決闘が終わる方法は相手が指定された範囲より外に行く事と相手が気絶または死亡する事そして相手が直々に負けたと発する事。
そのどれかを行う事で決着が決まる。
だが範囲より外に行く事…それはアルキアンが運んで外に置けばいいという話ではない。
そんなことしてしまえば相手にとって屈辱的な行為だと捉えられるだろう。
また相手が直々に負けたというのも御法度だ。
相手にもプライドというものがある…それに今回戦っているのは王族だ。
王族が自分より下の身分に負けたと発するなんて愚の骨頂とも捉えられる…だからこそ負けたなんて言うのは観客からしても許されない。
だから今回の勝利方法はただ一つ相手を気絶させる事のみ。
「お遊びはコレで終わりです…大人しく気絶してくださいねお坊ちゃん『憤炎焼却』」
言葉と共にアルキアンの剣に黒い流れが纏わりついていく。
そして剣を地に流すように薙いだ。
瞬間黒いモヤが薙いだ所に残留した後膨れ上がり暴発…黒い熱風が生まれレイベル殿下の身体を飲み込んだ。
熱風によって肌が燃えては回復をし溶けては回復する。
そうして熱風が空に無くなった時痛みと回復を繰り返して頭がキャパオーバーしたレイベル殿下はその場で気絶してしまった…こうして決闘は決着を迎えた。
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