第160話

「張った張ったぁーッ!今年大一番の賭けが始まりますよッ!今回決闘をするのはこのお方ッ!国の頂点に至る王者にしてあらゆる権能を有する我らがイードラ神の子孫ッ!剣を持ち全てを薙ぎ払う最年少で剣の頂へと上り詰める若き剣王レイベル殿下ぁッ!」


拡声器を用いたアナウンスが学園中に広がり大きな応援の声と共に盛り上がりを見せる。

私が職員室を抜けてあれから数十分人の波に揉まれたどり着いた先はあの時と同じ広場だった。

今ではあの時の決闘の時より観客は多くおり窮屈なほどだ。


その中で誰かが土魔法を駆使して壁を作り紙を張り出したことでこの集団と化した観客は大きな盛り上がりを見せた。

それが今行われている賭けだ。

あんまり賭け事をやったことないしこの世界での賭け事のことはよくわからないせいでどっちが優勢だとか賭け金が多いのかはわからないが…まぁとりあえずアルキアンに金貨100枚ほど賭けておこう。

別にこのぐらいなら支障はないし金なら余るほどある。


「それに対するは我らが王国の一角を収める若き領主にして王に認められし憤怒を背負う神話より語り継がれし生物の希望ッ!アルキアン辺境伯爵様ぁッ!」


拡声器によりそのような紹介がされると共にアルキアンは武装した状態で観客の前にその姿を見せた。

その瞬間に大きな歓声と拍手が送られる。

だが誰もレイベル殿下の時のような大きな声での応援はしない…ただ「うぉぉぉッ!」という本当に盛り上げだけの声だけだ。


だったら私だけでも応援の声を出そうとするがだそうとした瞬間に急に隣にいた人の手によって口を塞がれる。

私はその手を跳ね除け応援の声を出そうとするがその私の口を塞いだ人の顔に見覚えがあったため声を出さずに睨みつけることとした。

だがその手を口に当て声を塞がれたことに納得がいかず私はつい聞いてしまった…。


「ネルちゃんどうして応援の邪魔するのかな?」


そう私が問うとネルちゃんはアルキアンを指差した後にレイベル殿下のことを指差し口にバッテンを作った。

…はぁ私はそのジェスチャーだけで察してしまった。


どうせあれだろう?

身分が違いすぎるとでも言いたいのだろう今から決闘するのは貴族と王族。

どちらが偉いかなんて明確…そうなれば応援するのはもちろん位の高い王族という訳だ。

この世界には世界平和みたいな理論は通用しないし人間は平等ではないしスポーツマンシップなんてものも存在しない。


勝ち残れるのは暗殺やハニートラップや裏金などの妨害を跳ね除ける強靭な人間。

そうして勝った先に待ち受けるのは…さらなる暗殺かもしれないがな。

まぁレイベル殿下は暗殺なんてものをする陰湿な性格じゃなさそうだからそれは杞憂だと思うが、問題は王を神格化していると言われている親王派の、公爵家のましてや同級生の息子の方か。

あっちから手が出て来たら流石に…いやレイベル殿下が命令してもう止めてそうだなアレを見る限り。


私の視界の先には大きな椅子に座りながら自らの武器である槍をここからでもわかるぐらいに潰すぐらいの強さで握りしめる男が見えた。

手には血管が浮き出ておりその顔はまさに鬼の形相。

名前は…まぁ忘れたが確か自己紹介で自分のことを公爵であると胸を張って紹介して来たのを覚えている。

この世界の名前って長くてわかりづらいんよねまぁ私が日本人だったから西欧系の名前に聞き覚えが無かったからこういう長い名前に聞き覚えが無かったといえばそうなんだけど。


「ではッ!コレより決闘を開始いたします…両者位置についてください」


その合図と共に観客は一気にシンッ…と鎮まった。

両者は睨み合いレイベル殿下は手を剣にアルキアンは手を空中に添え構えを取る。


そして拡声器を持つ人の「開始ッ!」という戦いの合図が響き渡る。

レイベル殿下はその合図と共に目にも止まらぬ速さで地を駆けて一気にアルキアンの元に辿り着き抜剣し振り下ろすがアルキアンは剣が辿り着く前に半歩後ろに下がり黒い炎を纏わせた拳でレイベルの顔面を殴った。

その瞬間に大きな衝撃がその場に広がり悲鳴が上がる…そりゃ一国の王子の顔が殴られたのだ悲鳴の一つぐらいは上がるだろう。


レイベル殿下は殴られたことで大きく後ろへと吹き飛ぶが直ぐに体勢を立て直し剣を構える。

殴られた顔は赤黒く変色しているがその色は目に見えるスピードで治っていく…あれほどの速度ということは属性を持たない無属性に分類される神聖魔法や回復魔法じゃないな。


となるとアーティファクトか…あの回復速度だと自己回復能力の向上か外傷ダメージの肩代わりとか?

いや外傷ダメージの肩代わりだと赤黒く変色していた理由にならないかだとすると自己回復能力の向上が妥当かな?

下手しなくてもあれだけの破格の能力だと国宝認定されるモノだな。


そうして戦況は変わっていく。

今のレイベル殿下が飛ばされた隙によりアルキアンの憤怒の黒い炎で出来た鎧が出来上がってしまったのだ。

悪魔のような羽と尻尾が生えその手には脈動するように燃え盛る炎の剣が出来上がっており前見た時より悪魔らしい姿をしている…あの戦闘で成長したということなのだろうか?


だがそれに呼応するかのようにレイベル殿下もその力を引き上げる。

それはあの時の決闘の時のような畏れ敬いたくなりつい気を抜くと自分から跪くそんなオーラを発し改めて剣を構える。

レイベル殿下の元に大量の魔素が集まっていく…そしてそれは剣と共に放たれた。

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