第155話

アルキアンが帰ってきてから数日が経過した。

メイドや使用人は私を働かせていた事で罰を受け目を合わせたり声をかけると異常に怖がるようになってしまった。

あぁそういえばネズミは無事に駆除されてその巣も見つけることができたとアルキアンのそばにいた騎士が言っていた。

アルキアンの方もどうやらメイドや使用人に紹介を忘れていたらしく非があったのはアルキアンの方だったらしい。


ま、そんなことどうでもいいんだ。

過ぎたことだしな。


「そういえばレナ…学校始まるみたいだけど行かないのかい?」


そんな風に屋敷でだらだらとしていたある日のことアルキアンの部屋で読書をしている時にそんなことを言われた。

そういえばお知らせの手紙で宿題と共にそんなことも送られてきていたなと思いつつページを捲る。


私が今読んでいる本は国の禁書指定されていた魔術についての本だ。

どうやらつい最近までその存在が禁書とされていたが魔術を使う者がいなくなぜ禁書になったのかすら分からなかったと判断されたらしくその本を貰いたい人に譲渡したらしい。

まぁその貰い手がアルキアンだったらしい…どうやらご機嫌取りのためにわざわざ私をここに置いた後に王城へと蜻蛉返りしたとのこと。

果たして本当にご機嫌取りのためにこの禁書を持ち帰ってきたのかはわからないが。


コレがまた興味深いことが書き綴られていてな。

なんでも神の時代とも呼ばれた私達が言う古代文明よりさらに古い文明では人が神に反抗するために魔術が発明されたとか今となってはわからない夢物語とも呼べる話がこの本には書き綴られているのだ。

簡単に言ってしまえば古代文字の研究論文を纏めた物なんだが古代文字というのは魔術に関係しているとこの時は考えられていたらしくそれがこの本の題名『メルファイン王国・旧魔術研究論文書』となっている所以だ。


このメルファイン王国ってのは昔あった王国の一つらしい。

それ以上の情報は持ち合わせてないが力を持った古代文明の時代に存在したという大国だったと他の本では記されていた。

滅んだ理由は不明であるが一説には神を身に降ろした者の力によって滅んだとかなんとか。


「ん~…アルは学校行かないの?」


「いや一応レインバード領の一角の領主だから行ってる事にはなっているんだ…まぁ登校はしていないけど」


そんな会話を交わしながら意識を本の方に向ける。

学校なんて面倒だしどうせならこのままの方がいいと思えてきた今日この頃…というかなぜ私は学校に入ったんだったか?

…あぁ確か王子殿下の側付きとして登校を許されてたんだっけ?

別にそんなんどうでもいいからこんな感じに本を読んで唯々ゆったりとしていたいんだが…。


おぉこの内容もなんか面白いな。

何々…『記憶の保存魔術の可能性』どうやら実際に実験を行ったその結果が綴られているのか。

多くの魔法陣を大人数で展開しそれに自らの記憶を封じた記号を魔法陣に組み込み魔術の記憶のみで構成された大規模魔法陣をたった一人の被験者に送る記憶の伝承実験。

結果としては送った被験者側に異変が起き中止となっているが…興味深い。


あのダンジョンで受け継いだ記憶の伝承。

それがこの実験によって後世に受け継がれて作成されたものだとしたら前提となったのはここに記されている魔法陣から作られているということとなる。

一昔前の魔法陣だとしてもここに書かれている魔法陣は唯一無二この世に一つしか無いと考えればその希少性も分かるだろう。


それに過去の人がこの魔法陣から記憶の伝承の魔法陣を作成したんだったら私でもコレを研究すればロストテクノロジーである記憶を伝承させる魔法陣は作れる可能性がある。

やはり魔術は面白い…自分で作り出すそれこそに意味がある…その点で言えば私は魔法というのは合わないのだろうな。

魔法というのは神に作られた呪文によって発動が可能となるが魔術というのは人が作り出した記号に意味を持たせて発動ができる。


「コレがたまらなく面白い…」


「レナの魔術好きは良く分かったよ…偶にだけどすごい早口でレナは喋るよね~」


おっとどうやら口に出てしまっていたらしい。

この数日アルキアンの部屋で貰った本を読んでいたら考えていたことがつい口に出てしまっていたらしくアルキアンに指摘されて初めて自分に考えていることを口にしていることを知った。


いつからだろうかこんな癖がついてしまったのは?

アルキアンが言うには少なくとも王城にいた時は口に出ていなかったらしいが。

ということはここにきてからか?

こんな癖が付いたのは…。


「…で学校に行くの?行かないの?」


そうアルキアンに指摘されて悩む動作をする。

まぁ学校でも学ぶことはあったがここの屋敷の本を読み漁るのも面白い。

だがなぁ…魔法と魔術以外の勉強は正直面倒だ。


「アルが登校してくるなら考えるよ…」


そう言い返し再び本に目を向ける。

コレだけ分厚くてデカい本だ…読み終わって全てを理解するまでに果たして何ヶ月かかるだろうか?

そんなことを考えながら読んでみると面白い…やはり私は研究者みたく一つのことに没頭しているのが性に合うということだろう。


「はぁ…分かったよ検討してくる」


そう言いながらアルキアンはこの部屋を出て行ってしまった。

アイツ本当に学園に登校するために検討しに行ったのだろうか?

それだったら少し申し訳ないことを…したと感じないな。

まぁあれだ…やったぜ?

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