第154話

それからアルキアンが帰って来るまで二日経ちようやく今日帰って来ることがこの館全体に広まった。

レインバード領のレインバード街の端に位置するこの館にようやく主人が帰って来るとなってメイドや料理人などの使用人は大忙し。

かくいう私もこの日ばかりは館の手伝いに尽力しており一生懸命働いている最中である。


遠くからはこの館のメイドの頂点にして長老である婆さんがあちらこちらへと檄を飛ばしており館の裏口には多くの馬車が止まり馬車から荷物が運び出されている。

では…私は何をやっているかって?

それはまぁ料理だね…うん。


「なんでこんなことやってるんだろ?「うるせぇ手を動かせッ!」…はーい」


どうやらアルキアンがここから職場に行くときに懇意としている料理人も連れて行ったせいでただでさえ少ない料理人がいなくなってしまって主人が帰ってきた時に提供する昼ご飯が出せなくなってしまうためこうして下の下にいる使用人が駆り出されているらしい。

らしいって言ってもその通り過ぎてなんも言えんのだがな。


目の前には色とりどりの野菜。

そして大量の香辛料と肉。

コレを誰が調理するのか…そう私である。

私以外の料理人と使用人はまぁこん中で一番格が低いのが私だと理解したのかどうかわからないが全部の仕事を私に押し付け椅子に座りながら本を読んでいる。


ほんとそんなことしているんだったらそこら辺の掃除でもして欲しいぐらいである。

アルキアンの奴め…なんで料理長を連れて行きやがったんだ。

その下のやつが全然働くなっているじゃねぇか。


…とはいえ私もこんな唯々今のように野菜を切っているだけでは料理は進まないなんてことはわかっている。

一応任された仕事だ…こなしてみせるさ。


ただ私が作れる料理なんてものは高が知れている。

前世で作れた飯なんてカップラーメンと卵かけご飯でこの世界に来てようやくマズいスープを旅のご飯として作ったぐらいだ。


そんなレベルの私が料理を作る?…またまたご冗談を(笑)

とか言ってねぇでマジでどうしよう?

作れるのなんてゴミスープぐらい…いやこの際ゴミスープ出すか。

主食は唯々焼いた(生焼けもあるよ)肉と火を通してない野菜が入った水スープ…なんて良い料理達なんだ!


素晴らしい!マーベラス!グレート!

私だったら食中毒にならないだろうが他の人が食べたら絶対に…とは言えないが食中毒やらになるだろうな。

あっ肉に赤いところがある。

まぁ…大丈夫でしょう。


…野菜をこうして肉の赤い所に添えて赤ワインと小麦粉を混ぜてソースっぽいやつを作ろうとした失敗作をかけて…と。

こうすればどっかで見たことがある見た目だけは高級っぽい料理になるね。

ついでに紅茶も注いでおこうアルキアンが来る頃には冷め切っていると思うけど。


「アルキアン坊ちゃんがおかえりになられたぞ~ッ!料理を出せッ!」


あらこのままじゃ熱い紅茶を出すことになっちまうな。

まぁええか…えーとこの料理を台車に乗せて出発進行~。

台車に乗せて厨房を抜けて食事場へと台車を運ぶ…当然毒味役は任されているがマズいと分かっている料理を自ら食べるような馬鹿では無い。


「えっ!あ…ちょレ「どうぞご賞味ください」」


台車を前に前に動かしアルキアンの横に着いたところでどうやら私の顔を見たアルキアンが私のことに戸惑っているがそんなことを無視して料理を置く。

アルキアンはそんな料理を見て顔をひくつかせながら口に運び…顔を青くした。


「レ、レナさん?コレは…貴女が?……あぁそうだ!ここに帰って来る前に露店でご飯を食べてしまってね!ハハハ申し訳ないけど後で…食べるというのは」


「ん?…良いから食べな?私が作ってやったんだぞ?」


「アッ…ハイ」


何かアルキアンが言ったがそんなことは気にせず食べさせる。

仮にも暴食のスキルを持つ私だ…残ったら残ったで私が食べる訳だが日本人精神として食べ物を残すのは許せん。

配膳したのだから配膳した分はきちんと食べて貰わないと。


そんな高圧的な態度に壁側にいた騎士がコチラへ一歩足を進めて来るがアルキアンがそれに対して手をかざして静止させる。

どうやら腹は決まったらしくアルキアンは神妙な顔をしながら食べ始めた。

肉を食べては微妙な顔をしスープを飲んでは渋い顔をしスープの具材をジャーキーを噛むかのように噛み締めながら食べる。


「…ング…あ、ありがとう美味しかったよ。ハハハ」


「それは良かった…そんな美味しかったんだったらおかわり作ってくるけどいるかい?」


そう私が言うと高速で首を横に振ったので「あぁそう」と私が呟き皿を下げた。

とりあえずはコレで昼ごはんは終了だ。

大量の食材もこうしてアルキアンの腹の中に消えた訳だし日本人としても満足である。


「さて…それでアル?私に何か言うことはないのかな?」


そうしてそこからアルキアンの言い訳が始まった。

最初は離れていた分の仕事を行うためとかなんとかといい感じの言い訳を並べていたが私がそれに対して「で?」と言う度に頭を下に下げ違う言い訳を並べて来る。

それに対してまた「で?」とか「だから?」とか言いまくっていたらいつの間にか土下座のような格好になってしまっていた。


「とりあえず今日はもういいよ…使用人とかに私のこと話しといて。今まで私がここで使用人してたんだからさ」


そう私が呟くと青い顔をさらに青くしアルキアンはその場から走り去った。

とりあえずその次の日から使用人が私の事を見る度に小さな悲鳴をあげていたと言う事だけ報告しておく。

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