孤児と大罪を背負う英雄

第153話

あの戦闘から数週間が経過した。

世の中ではあの戦乱を多くの人が目にした罪人が天使と化したことから『天人争乱』と呼ばれている。

此度のソレによって現在この国では多くの人が考えていることが神が人の味方かそれとも敵かということだ。


国の各地にあった教会は大騒ぎだ。

宗教国家ぐらい人間至上主義では無いものの一応この国でも彼の国の宗教であるマデリラ教なる光の女神にして唯一神を崇める教会なんてものがある。

そこで争乱が起きた数日後に起きたのがそのマデリラ教会への大規模な魔法による破壊行為だ。

至る所から教会目掛けて魔法が飛び周囲の人が巻き込むほどの爆発を起こした。


この一件で一方のこの国というか宗教国家以外が主に信仰してきたアイゲン教というこの世の全ての物にそれぞれの属性が宿っているという前世でいうところの付喪神に似た宗教がマデリラ教のようなことが起きないかどうかを問われており不安が高まっているとのこと。

あまりにその規模が大きいことから国はそれを隠すこともできず他国にも不安が高まるような記事が出され混乱を招いているらしい。


まぁそんなことを私にとってはどうでもいいことなんだが。

宗教なんぞどうでもいいしここには神獣なる異形を模るナニカがダンジョンにはいた。

神が光以外いなくなっているのも知っている。

だからこそこの宗教については思うことがある…がそれをどうにかするのかなんて考えてもどうにもならないし何も変わらない。

だからこそどうでもいいと思える。


「ねぇちゃんと聞いてるの?貴方失礼じゃなくて?」


そんなことを思いつつ目の前の現実に目を向ける。

目の前では私より少し歳が上であろう女子が私に詰め寄っている。


…何故こんなことになっているのかというとそれは数日前まで遡ることとなる。

私達…クラスのみんなとアルキアンと私は『天人争乱』に参加してディーセや狂信者を倒しまくったことが貴族や兵士やメイドからも目撃されたことにより一躍注目の的となってしまった。

元々貴族だった奴らは家族の元に褒賞金と共に帰され平民だった奴らも家族がこの城まで来て帰された。

まぁ平民には褒賞金は渡されなかったが。


それで平民である私はというと…何故かアルキアンの屋敷で執事をさせられている。

私はどうにかあの城から離れたかったが私は孤児だ。

故に迎えに来る家族がいない…一人で帰ると王様直々に言ったが何故かそれは拒否された。

理由を聞いても返って来る言葉はなかった。


だから私はアルキアンに頼みアルキアンの屋敷に匿ってもらうこととした。

あぁちなみにだが学園は行ける人は来るという感じになっているらしい。

まだまだ宿題は魔法で飛んでくる…少しめんどくさい。


そこへと匿われた私だったのだが何故かこの屋敷のメイドは私の事を主人が直々に連れてきた男であり新しい教育すべき執事であると認識されたらしい。

確かに私は着ている服がまぁ男とも女とも言えないような服だし…髪は最近伸びてはきたがまだまだ女子がする髪とは言えないであろう。

外見からすると総合して普通より少し髪が伸びている男子に見えるのだろう。


「後コレをするときはこうやって!それと話をするときはこうするの!」


そう言いながら目の前のメイドは身を大きく動かしながら教えてくれる。

ここまで連れてきた当の本人であるアルキアンはというと私がこの屋敷で過ごして数日後になんか素っ気ない態度をとりながらどこかに行ってしまった。

メイドの話によればお仕事らしい…普通だったら一日で終わるらしいが今回はいつもよりお仕事の数が多いそうで帰れなくなっているらしい。


「ぜぇぜぇ…分かったわね?今度から間違えないでよ?」


「あぁ分かった善処はするよ…覚えていればね」


そう言いながら私は窓から飛び降りた。

屋敷の中からは「分かってないじゃ無いのよッ~!」という絶叫にも似た声が聞こえて来るがそんなこと気にせずに私は目的の場所へ歩いていく。


この私でも無賃でこうして泊めてくれているアルキアンの屋敷で何もしない訳にもいかない。

というかこの屋敷のために何かしなければ何か罪悪感があったため私は執事としてそこそこの働きをすることとしたのだ。

まぁすると言ってもメイドがやるようなお茶汲みや掃除なんてものはプロフェッショナルに任せた方が絶対にいい。

だからこそ私は違うことをしている…この屋敷のために。


「ま~たネズミが入ってきてんね」


そう言いながら屋敷を囲うように設置された壁を確認するとそこには私がよるに設置した魔術による罠が作動していることが確認できた。

…作動はしているのに引っかかっているものは見えない。

ということは迷彩とか光の屈折を利用した魔法を自分自身に使って見つからないようにしているのだろう。


この数日私がこの屋敷でやっていることはメイドにはできないであろう用心棒としての働きだ。

アルキアンは屋敷にいる兵士を連れて仕事に行ってしまった…だから私はこうしてこの屋敷へ忍び込もうとして来る輩を倒して回っているのだ。

倒したら拘束し魔術をかけ昏倒させゴミ箱へ捨てるように看守もいない屋敷とは違う外に造られた牢獄にぶち込む。


こうすれば後から聞くことも聞けるし…あぁその前にちゃんと毒殺や自害されないように工作しとかないと。

コレで取り調べもできるだろう。


「にしても…いつまで働いてるんだ?アル?」

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