第156話

アルキアンが外に出て行って数時間が経過した…その間私はというと相も変わらず分厚い本を読んでいた。

頭の中では魔術やら魔法のことでいっぱいである。

まぁまだ改良やらなんやらの作業は行ってないが…まぁ今度やることだろう。

未来の自分よお願いします。


「はぁ…レナ。手続きしてきたから学校行くよ~」


本を読んでいると窓の外からアルキアンの声が聞こえ窓の外へと顔を向ける。

窓から見える場所はこの屋敷の正面出口と庭が広がっているのだがそこには多くの馬車が並んでおりメイドや使用人はその馬車へ荷物を運んでいる姿が確認できた。


…数時間前のことをもう手続きしていけるようにするとかそれでいいのか領主などと考えながら虚空庫から冒険者セットであるいつもと同じ外套やらを着る。

最近ではアルキアンがいるせいでこういう冒険者の格好ができずにいたがようやく防御力が高い服に着替えられて私の心は平静でいられる。


ここのメイド達は私が冒険者の格好をするとビクビクしながらも叱ってくるんだよなぁ…女の子の格好を心がけろとか言われるが根が成人男性ぞ?

スカートなんてモノ着てられるかってんだ。

まぁ下手に抵抗したら無理やり着せてくるから抵抗はしないんだがな。


やはり力…私には力が足りない。

こんな屋敷で働いている一般メイドの腕力にも強化しない状態だと負けてしまうとは…。

いやここでいうとすれば力より筋肉が正しいのか?

筋トレも習慣づけた方がいいのだろうか?


「よしっ後は仮面を…顔につけるのは辞めておくか。別に今はなくてもいいしな」


そんなことを呟きながら手に持った仮面を腰のベルトに挟む。

そうして虚空庫からナイフを取り出しコレもまた腰のベルトに差し込む。

こうして差し込んでどうして激しい動きをして取れないのかという質問は受け付けない…私も原理は知らないからな。

まぁあれだ魔法やらスキルやらの効果がいい感じになって取れなくなってるんだろう知らんけど。


「おーいアル~。もう行くのか?」


私はそんなことを言いながら窓から身を乗り出し飛び出した。

その瞬間メイドや使用人がギョッとした目でコチラを見て数人は走り出してきたが身を空中で翻し着地する。

得点をつける人がいれば今の私の飛び込みは高得点間違いなしだったであろう。

着地すると私はそのままアルキアンの方へと駆け寄って行く。


「まぁね…仕事もここでやることは無いし都合よく代理が見つかったからね。ではここのことは任せるよフユキラ男爵殿」


「ハッ!アマガル様…こちらのことはワタクシにお任せくださいませ」


アルキアンはそんな風にいうとちょうど隣にいた特に特徴もない男性がコチラへ90度のお辞儀をしてくる。

その目はギラついており手にはお金が入った袋が握られていた。

それを見て目をギョッとさせながら私はアルキアンの方を見て「コレっていいのか?」と目で訴えるように見続けるがアルキアンは笑ってこう言った。


「フユキラ男爵はねアマガルが推薦した元騎士爵の家臣なんだ。まぁ彼は根が傭兵なせいでお金が大好きでね…こうして四六時中お金を手で持っているのさ…あぁ彼が持っているお金は私のでは無いからね」


そう言いながらアルキアンは馬車の中へと入りコチラへ手を差し出してくる。

私はその手を握り馬車へ乗り込むと自動的に馬車の扉が閉じられた。


「それじゃあ出発するよッ!それじゃあレイノルドさんよろしくね?」


そう言うと馬車はゆっくりと動き出す。

揺れは無く中にいる自分達はまるで動いていないと錯覚するが外の景色はゆっくりと動き出しどんどんと加速していきあっという間に屋敷が豆粒ほどの大きさへと変わって行った。


目が点となってしまうのを自ら感じながらその光景をボーッと見続けてしまう。

そんな感じに私が見続けていると私の横にいるアルキアンの方から笑い声が聞こえそちらの方をなんとなく睨んだ。


「フフッ…あぁいやごめんね君がそんなに驚いていることが面白くてさ。こんなに馬車が揺れないのは彼…レイノルドさんのおかげだよ」


アルキアンの話によれば彼…レイノルドさんはいつの日か王都に向けて雪の日に共にしたあの奴隷の御者の男性がこの状況を作っているらしい。

聞く話によるとあの雪の日から彼は強い後悔に苛まれこれ以上の失態を起こさないために身に鞭を打ち御者の特訓を行いその結果として職業が『馬の操者』という今までに確認されたことがない職業へと転職できたらしい。

その職業のスキルのお陰で馬車は揺れず近づく敵は馬により踏み蹴散らす無敵の御者となったとのこと。


「正に不動の御者だよね~…そうそうそんな彼はね前に商会のお嬢さんにね告白されてね?そうして彼はなんて言ったと思う?それはね…」


「あッ!ちょっとアルキアン様ッ!それ言わない約束では!?」


そんな他愛もない会話をしていたら聞き耳を立てていただろう御者がついに恥ずかしさのメーターが吹っ切れたのかコチラへ顔を向け抗議してくるようになった。

その間の馬はというと相変わらず平然とした顔で走り続けていた。

ふむ…『馬の操者』か。

やはり魔法にかかったかのように平然と走り続ける馬を見ていてわかるがコレがそのスキルの効果によるモノなのだろう。


「おっと…そんな話はここまでにしようかレイノルドさん…野盗さんのお出ましのようだよ」

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