孤児のTS転生

第144話

あぁ本当に脚が上がらない…これはヒビとか入ってそうだな。

それでも別に歩けないわけじゃない…ただ脚を動かすとピリッと神経が過剰に反応して変に動くただそれだけ。

「気配的に…こっちか」

あの仮面をつけたやつは残り二人。

というか私もアルキアンも仮面つけているわけだが。

結界はどうやったら壊すことができるのだろうか？

強い衝撃を加えれば壊せる？

そもそも物理が有効打なのだろうか…それとも魔力的な攻撃が有効打なのだろうか。

それすらわからないがまぁ火力ある魔術を打てば分かることだろう。

「魔法陣展開ッ！竜喰ッ！」

私は気配を頼りに標準を合わせ魔術を発動する。

空気を巻き込み黒い霧を吸い込み青白い魔力の光が点滅する竜の顔が顕現される。

しかしそれは黒い闇に光る道筋とも読み取れそれすなわち私の位置を表す目印とも相手に理解されるという事は言わずもがな。

「だが…今になってこちらの存在に気づいたとて手遅れだ…喰らうがいいよ」

魔力が十分に充填された竜の形をした魔術は遂にその魔力を震わせ地を喰らいながら目標へと迫っていく。

地を貪り土と砂利、石を巻き込み…そしてここから薄く光る結界を呑み込んだ。

石と魔力の塊が結界にぶち当たりここからでも分かるような火花を火打石の要領で放たれる。

だが壊れない…これだけじゃまだ足りない。

結界を見れば完全に後ろの防御を捨てており正面のみに結界を作っており防御を固めるのに必死になって二人は私のことを見すらしない。

まぁそれが壊れれば身体がぐちゃぐちゃもしくはバラバラになるのが確定しちゃうし一つのことに集中するのはしょうがないっちゃしょうがないよねぇ。

ま、私にそんなこっちの事情なんて関係ないわけだが。

私は脚を進め黒の霧に紛れて背後に回る。

結界を見ればヒビが入り二人は疲労困憊のようで肩を大きく上下させ息切れしておりその結界の前には竜喰により呑まれた砂利や石が壁のように積み重なっている。

「そこで疲れてるとこ失礼するよ」

まずは結界を貼って面倒い悲しげな仮面をつけた奴目掛けて脚を前に突き出し蹴り飛ばす。

蹴飛ばされ地を転がり石の壁にめり込んで力無く地に伏せる。

『厳格』と言われていた仮面をつけていた奴はそんな状況を見ながら手を此方に突き出し「悪魔が…ぁッ！」と震えながら…言う。

恐怖から来るのか…はたまた仲間を殺されたからこそ来る怒りからだろうか感情を込め吐き出された言葉の後に敵を目の前にして魔法の詠唱を始めた。

「はぁぁ…馬鹿なのかなぁ？」

私はその状況に即座に蹴りを腹に入れる。

唾を吐き出し地に伏せ恨めしそうに此方を睨み「卑怯者が…」と吐き捨ててくるが…詠唱なんて待つわけないだろ。

全くもって理解に苦しむ。

何故こうも詠唱を邪魔しただけで此方を睨んでくるのだろうか？

命のやり取りの最中でもこういう馬鹿は何故面子ばかりを気にして多くの選択肢があるのにも関わらず自分の得意なことに固執し続けているのだろうか。

魔法使いは魔法だけを極め剣士は剣しか極めない。

そういうのは冒険者をやっていた頃から低ランクの奴らに多かったが高ランクになるにつれその傾向は少なくなっていた。

仮にもコイツらは信者達のリーダー的存在なのだろう…なのにこんな無様で杜撰な思考。

最初の動きは悪くなかった…なのにどうしてここまで何もできないんだ？

怯えて一層震えを大きくする『厳格』の首を手で握る。

実のところ私は密かに期待していたんだ…あのアルキアンが苦戦する奴らのことを。

強い相手を倒し強くなるそれこそが目標であり生き甲斐その生きる意味を見直してなおまだ強くなりたいという気持ちは昂り闘争を求める。

だからこそ強敵に心は荒ぶりどんな勝ち目なき敵でも立ち向かえる。

そうして期待した敵がこんなんだと…萎える。

「あぁ…本当にがっかりだよ」

手に力を込めじわじわとなぶる様に手の中で死を象っていく。

そして…そうして手の中で命が尽きる。

さっさとナイフで喉笛や血管を切ってしまって失血死させるのも良かったが…衰退の力で痛覚が衰退したおかげでナイフを握った感覚までもがあまり感じなくなったからこうして自らの手で自分の手の強さを確かめるというのは大事な行動だったのだ。

いつもの様な感じで握っているとしても実際はその倍の力で握ってしまったりしたら握手とかする時面倒なことになるしな。

そう考えると痛覚を衰退させたのは間違いだったかもしれない…痛みを感じないということは力のセーブが効かないということだし何かの拍子に怪我をして血が出ても気付けないということだから。

「さて…もう君も用済みだね？それとも君も私の力の実験体になってくれる？」

ようやく砂利と石の壁から出て『厳格』の方を見て顔を青くしている…確か『悲観』とか呼ばれてた奴を見据える。

握手の練習にサッカーの練習に戦闘訓練の練習君にはやってもらうべきことが沢山あるんだ。

丁度思いついたことだがこのままアルキアンに会って加減知らずに握手なんかしたら痛がるだろう。

だから…私は君を実験体にして前に進もうと思うよ。

そして君が事切れてから私はアルキアンが今もなお互角に戦っているあの天使の援護を行おうではないか。

何故すぐに向かわないのかって？

そりゃぁ…勝手にだが此方が一方的にアルキアンのことを『信用』しているからだよ。

私がこんな遊びをしててもアルキアンは負けることはないだろう。