第143話

『厳格』と呼ばれた奴がそういうと手に杖を取りこちらへ向け魔法の詠唱を始める。

その方に一瞬気を取られている間に『激怒』と呼ばれる奴は空中をまるで地面と同じ感覚で走るかのようなスピードでこちらまで近づいてきておりその手にはガントレットのような物を付けていることが確認でき咄嗟にそれを避ける。


「それが誘導だということすら分からないのか…『ライトチェーン』」


その言葉が耳に入ると共に周囲の空間からどこからともなく白色の鎖が四肢に絡みつく。

鎖は何本も四肢に絡みつき束になり身体を揺らすが緩むことが無い。


だがこれが光の鎖であるということはこの鎖は簡単に外すことができる。

光ならそれと対極となる闇を使えば消滅させることが可能だ。

まぁその為には相手より高い魔力を使って闇の魔力を発さなきゃいけないが…加護もあるし行けんだろ。


「魔法陣展開…『ダークミスト』」


私が魔法陣を起動すると黒い霧のような魔力が周囲を包み込み視界を奪っていく。

その霧が周囲に広がっていくと四肢を縛り付けるように絡まっていたライトチェーンが闇に溶け無くなっていく。


さて、ここからどう立ち回ろうか。

敵は3体…ゲームで言うなら魔法使いと格闘家と…まぁサポーターかな?

結界みたいなの張って攻撃防いだぐらいだしサポーターでいいだろう。

あちらから見て私と突っ込んできた格闘家の姿は見えないはず…ということはここは安全に身近にいる格闘家から潰すのが得策だろう。


自分で言うのもなんだがこのダークミストをやってしまうと目でなにも見れなくなってしまうんだが。

そんな中どう動くか…そんなの気配を頼りに動くしか方法はないね。


さて『激怒』の仕留め方はどうしようか…見るだけで先生ほどではなかったが筋骨隆々だったから並の攻撃じゃ跳ね返されてしまうだろう。

だからといってあの時の戦闘訓練のように土を目にかけて目眩しみたいなことはできない。

仮面やローブのせいで人間の急所が隠れてしまっているせいでいつものような相手の薄い部分を狙う確殺みたいなことはできないだろう。


「だとすると唯一攻撃が通りそうなのは首か…」


下手に心臓とか狙うと変に動いて肺とかに当たっちまうし。

それに…あれだけ身体がローブ越しでも分厚く見えるんだ鉄プレートとか服の下にあるのかも知れんし。

ならば特攻して瞬殺するのが一番簡単そうだね。

ここからでしかも視界もこうだと魔術で攻撃しようにも座標が狂ってしまうし。


足に力を込め全身に魔力を回し足を浮かし空気と地面の間に魔素を収束する。

ただし上半身には力を入れずなすがままに脱力し頭で何度もシュミレーションを行い両手で魔法陣を二つ構成していく。


並行思考というのは実に難しい。

何せ頭で歌の歌詞を思い出しながら右手で勉強、左手でゲーム、足を使ってダンスをしてるような感じだからだ。

ほんとスキル様々だ。

本来の私だったらこんな芸当はキッパリ言って出来ない。


「我流戦闘術…膩ノ術『神風脚』ッ!」


脚を叩きつけ火が起きたような火花を散らすエネルギーが生み出されると共に足に爆発が起こり強力な推進力が生まれる。

目指すは『激怒』の真横を…通り過ぎたその先へッ!


「ここッ魔法陣展開!アースボールッ!」


私はもう一度足に力を込め少しだけ向きを変えると共に身体を捻り通り過ぎた『激怒』の方を向く。

視界に入った『激怒』はどうやら私が通り過ぎたということを理解したのか通り過ぎた場所へ拳を振り下ろして本当に手探りに探している…が私はもうそこにはいない。


足を痛めてしまうが奴の攻撃を喰らうよりかはダメージは少ない。

進行方向に放ったアースボールに足がめり込みそれこそ足にヒビが入った感覚が脳が響くが…こんなもの気にしては生き残れない…そうだろう?

それに痛みなんてもの今の私には無いに等しい。

すぐさまに足を浮ばせ魔素を収束させ手に次の作戦である魔法陣を構成させる。


「もう一度…膩ノ術『神風脚』ッ!」


足に本当の火がついたかのように熱くなり前に前にと脚を動かしても無いのに進んでいく。

そして…『激怒』の腹を蹴る。

足には硬い物にぶつかった感覚がし後から金属音が鳴りだす。

『激怒』は咄嗟のことに驚きながらもその場から動くまいと私の策を潰したからとフンッと鼻息を荒くして踏ん張っているが私の狙いはこれだけでは止まらない。


「魔法陣展開ッ!エアロスラッシュッ!」


足を少しずらしぶつかって落ちてしまったがなお消えない推進力を呼び起こす。

両手に構えた魔法陣に薄緑色とダークミストの黒色が混ざり風でできた双剣が出来上がる。


だがこんな体制で推進力もある中足をずらすとどうなるか…そんなことは単純明快。

空中に身が投げ出され転がってしまう…だからこそそれは相手からしたら急に走り出したものと同じで予測すら出来ない。

そうして回転しながら首に二回風の斬撃を喰らわせ着地した地面を滑りながら背後を取り先ほどの二回の斬撃で筋肉という装甲が薄くなった首を刈り取った。


「ちぃぃ…足が少し動きずらいがまだ行けるか」


一息つき『激怒』の方を向くときちんと胴体と頭が離れており絶命していることが確認できる。

次は魔法使いとサポーターが残っているのか…一発デカいの撃たないと結界を壊せなさそうだな。

魔力はできるだけ消費したくは無いんだが。


*今回使用した魔術一覧*


ダークミスト:周囲に暗闇の霧を作り出す。ただし使用者も見えず近づくと見えてしまう。

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