第134話

馬車に乗り惰眠と食欲を満たしつつ移動すること二日がすぎた。

ある時は山を馬車で登っては山賊に出会い討伐しある時は物乞い思ったら野盗の類で襲いかかってきたりと散々な目に会いながら移動していく。

まぁあれ以降戦闘は全て護衛の冒険者達が担当して倒していったお陰で私が出る幕はなくただ単に私は馬車の中で心優しき町民夫婦から食べ物をいただいたり暇で暇でしょうがない幼女の遊び相手をするしかやることが無い。

他の人はというと目を瞑ったりして何の動きも見せない。


まぁそんなこんなでようやく山超え谷超えしてイードラ王国へと辿り着くことができた。

あの時は真っ白な景色で色もクソもなかったがこうして改めて見ると青い屋根の王城が特徴的な国であるということがはっきりと確認できる。

こうして近くで見るとあの時みたこの城下町を囲む壁というのはすごく高く建設されていることが一目でわかる。

ということはだ…城はこの城壁より高いわけだ。

城大きすぎじゃ無いか?


「さて…そろそろイードラ王国城下町に到着いたしますぞ」


そう御者をする商人が言い出すと馬車に乗っている町民は目を開け各自の荷物をまとめ始めた。

周りが動き出したのを見て幼女も自分の母親の元へと帰っていき…そして私たちは無事にイードラ王国の城下町にへと辿り着くことができた。


「それでは…ありがとうございました。では皆さんお身体にはお気をつけて」


「おねーちゃじゃーね」


そう言い残し馬車で一緒になった人達は去っていった。

さてここからどうするべきだろうか…まぁとりあえず宿を取るべきなのだろうか?

冒険者ギルドもこの城下町じゃ見つけることは難しそうだし…うーむ当初の予定ではパパッとギルド見つけてギルドで宿屋を紹介してもらって宿に泊まる予定だったんだがなぁ。


ギルドの紹介される宿屋はかなりの高確率で良い宿屋だから出来ればギルドからの紹介が良かったんだが…。

無いものねだりしても仕方がないので手当たり次第歩き回って探すことにしよう。


そう思い立ち私はその場からゆっくりと歩き出した。

街並みは王城と同じく屋根が青で統一されており家の材質は石でできているようだった。

夏とか暑い日はかなりやばそうだと思いました丸。


そういえばこの時代的に石と材木で家や道路が作られるが多いと思うんだがこの城下町の子供は何故その石材でできた道を平気な顔して裸足で歩いていけるのだろうか?

この国は靴もそれほど発展していないから底の厚さが薄すぎて普通の靴だったら飛び上がるぐらい暑いはずなんだが…。


それをいうとすればこんな中甲冑を身に纏う騎士や兵士の方が大変か。

甲冑の中に保冷剤的なものでも仕込んでいるのだろうか?

私は甲冑とか着たことないから甲冑の中身がどうなっているのかなんてわからないが…やっぱり暑いのだろうか?


そう思いつつ足を進めて一つの宿屋の前までついた。

宿屋の名前は…『無銘天元』というらしい…鍛冶屋なのだろうか?

いやしかし宿屋の看板のマークが描かれているところだきっとおそらく宿屋なのだろう。

うむ、宿屋に違いないことだろう。


無銘というのは刀などの武器に大雑把にいうと名前をつけていない状態のことをいい天元は…まぁよく分からないね。

無銘なのに天元という名前がついている矛盾が生じている宿屋見た目は…扉前とか窓などの細部を見る限り綺麗にしているように見えるが壁が名前に合わないほどの真っピンクで屋根がこの国特有の青色。

正直いってコレほど合わない色はないだろう。


そうして私は扉を開けて目に飛び込んできたのは前世でいうところのカフェのようなテーブルの配置によくあるマスターと呼ばれる店員がコーヒーを作る長机。

そこに満席のように座っているのはずんぐりむっくりの体型をして髭がよく伸びたおじさん…つまりはドワーフがその席の大半に静かに座りながらジョッキを飲んでいた。

宿屋というよりかはコレではただのカフェである。

宿屋要素は一つも見当たらない。

そう思い立ちその場から離れようとした時だった…扉につけられたベルがゆっくりと動き『カラーン』という警戒なことを鳴らした。


「ようこそ『無銘天元』へいらっしゃいました…ご注文は何に致しましょうか?」


私はその場から離れようとしたが耳元でそんな声がポツリと聞こえ直様そちらへと目を向ける。

そこにはタキシードを身につけた普通の成人男性より背の低いドワーフが私の両肩に手を置きながら帰り道を塞いでいた。

逃げ出すことはできない。

仮にも相手は一般人…みたいなものだ冒険者ギルドに所属している者が一般人に何もされていないのに手を出したら罰則がかかる。

ここはおとなしく返事をするべきだろう。


「…宿屋を探している」


「ほぅ…それならちょうどいいですなお客様。ここ実は宿屋なんです…何日泊まりますかな?」


そのまま私はいいえも言えずにトントン拍子に話が進んでいき断りずらい雰囲気になってしまった。

心の中ではやはりコレがあるからギルドの紹介があった方が良かったんだやら選択をミスったなどが後々になって思い浮かんでくる。

少しでも休みたいという欲が出てしまった結果なのだろう。

あの時面倒臭がらずに冒険者ギルドを探していたらもう少しいい宿に泊めれたのではないかと考える今日この頃であった。


「えぇっと最低一ヶ月泊まりで朝と夕のご飯はここで取ると…えぇではこのぐらいになります」


そう言い紳士ドワーフは気前良く伝票を私に渡してきた。

金額は…普通の宿屋より少し高いぐらい。

やっぱりたまには欲に逆らうのも大事だと身をもって思い肩を下ろしたのだった。

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