第131話
あれから私は相乗りの馬車を探してそしてようやく太陽が真上に来る時間を過ぎた時今日乗る馬車を決めることができた。
今回の馬車は商人が操作してこの街の町民が数名と護衛で冒険者をパーティ単位で二団体率いてイードラ王国へと向かうようでそれに乗せてもらうことになった。
馬車を引く動物は今回は前とは違いマトモのようで普通に馬とのことで少し安心した。
まぁ馬といっても異世界らしく戦闘になれば容赦無く敵の顔面を踏んづける野郎らしいが。
「さて…それでは出発いたしまぁーすッ!」
そう馬車を制御する御者をしながら商人がこちらへと呼びかけると手で馬を叩き馬を前へと動かす。
馬の速度は大体人が歩くより少し速いペースで動いていく。
そりゃそうだろうこんなに人が乗った馬車を二匹の馬のみで動かすんだこのぐらいのスピードが妥当といったところなのだろう。
こんなスピードでいつ着くとか考えてはいけない。
そんな気が遠くなるようなこと考えても意味なんてないからな。
とまぁこんな感じだから馬車の護衛というのは冒険者の初心者もとい下級から中級に上がる野郎共には護衛依頼というのは一種の登竜門となる。
何せ何時間も馬のスピードに合わせて歩かなきゃいけないからな。
それには相当のスタミナが必要だし歩くスピードは早過ぎてもいけない遅過ぎてもいけないし常に魔物と野盗の警戒をしなければいけない。
面倒ではあるがコレを超えてようやく一端の冒険者と名乗れるのだ…という風に冒険者ギルドのパンフレットに書いてあった。
まぁ大体の冒険者はこんなパンフレットなんて見ていないことだろう。
冒険者は大体ガサツだからな。
さてここで今回の護衛となった冒険者のパーティを見てみよう。
一つ目のパーティはDランクの冒険者の寄せ集めだ。
見たところパーティ名が無くて話を仲間同士でやっている所からソロ冒険者仲間が集まって一緒に依頼をやっているといった所だろう。
戦闘面では連携はバラバラだが個人の力はすごいと言えるパーティだろう。
となるとこのパーティは護衛依頼を受けることでランクを上げる冒険者の集まりだと分かるな。
んで二つ目のパーティは…Eランクのパーティ『スライム愛好会』ねぇ。
まぁ名前は置いといて本当に護衛する気あるのか分からないパーティだなぁ…。
パーティに所属する冒険者全員が調教師…まぁテイマーというやつで連れているモンスターはスライムのみ。
今はそのスライムは馬車のアイドルになっているがここぞという時戦えるのか不安だ。
いやまぁギルドがこの依頼を通したということはそれなりの実力を持っているということは分かるがスライムかぁ。
「おにぇーちゃ、こえ」
私がそんな風に仮面を外し冒険者の方とのんびりと変わっていく風景をぼんやり見て暖かい風を楽しんでいると舌足らずの声が聞こえそちらの方へと顔を向ける。
そこにはスライムを抱えた町民の娘であろう幼女が私に向かって話しかけてきていた。
「えーと…」
私はそんな状態に戸惑いながら手をアワアワとどうしたものかと動かしているとその幼女は「ん!」と言いながら私に手に抱えていたスライムを私に押し付けてきた。
私はそのスライムを手渡してきた幼女に「ありがとう」というと幼女は笑いながら自分の両親のところへと帰っていった。
彼女の周りには母親と父親の姿が見え私にスライムを上げたことで役に立ったと自慢して微笑ましい空気が流れ込んできていた。
その場面を見て何だが…そう、何だが複雑な気持ちになった。
何で人に物を与えただけで周りから微笑ましい空気が吹いているのだろう?
私にはそれが分からなかった…だけどまぁ何というかあんな風にいつかなれたらいいなと思った。
「『ピーッ!』」
そんな和やかな雰囲気は音共に一瞬にして変わっていく。
御者である商人が笛を吹いたのだ。
御者が吹く笛の意味は魔物あるいは野盗が現れたサインである。
町民は幼女を除いて顔を青くし縮み込み私の腕の中にいたスライムは主人の元へ帰っていく。
冒険者は皆それぞれの武器を手に取り馬は段々と速度を落としそして完全にその動きを止めた。
町民は動けなくなり御者をしていた商人はその手に鞭を持ち警戒しながら唯一御者と馬車を繋ぐ扉を閉め前の状況を見えなくした。
それと同時に私も今まで風景を楽しんでいた馬車の窓を木製の板で埋め完全な密封状態を作り出した。
その状況を両親と共にいる幼女は目をキラキラさせながら楽しんでいる。
無知というのは恐ろしいものだ。
今この幼女にとって短い人生の中で最も危険な状況なのにも関わらず楽しんでいる。
コレを人は愚かと捉えるのだろうか?
それとも…その笑顔が周りの空気を和ませているのだろうか?
そしてその状況から数分が経った後だった。
壁に「トスッ」という音が鈍く響く。
そこから人が想像するのは矢…そしてそこからさらに想像が膨らみ野盗かゴブリンの群れ。
中は急にパニックに陥りそれぞれがとある行動をとるようになっていく。
あるものは指を噛んだり髪を掻きむしったりしている。
やはりEランクとDランクには少し気が重い依頼だったのかもしれない。
私だって初めての護衛の依頼は高ランクのあの人達と一緒にやったぐらいだ。
こういう護衛は何が起きるか分からないから高ランクが付き添わないと安全とはいえないね。
となるとここは私が動くしかないかな?
ここでのんびりしているのもいいが協力して速く終わり安心も出来るから終わらせてくるかな。
冒険者がこのまま倒せるなら手は出さず見守り倒せないようだったら倒す…それでいいじゃないか。
そう思い立ち私はパニックに陥った町民に見つからないように気配を薄くして立ち上がり馬車の外に出ることとした。
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