第112話

私は腰につけた鉄のナイフを手にレイベル殿下とマッスル先生へと近づいていく。

そうして先にレイベル殿下が辿り着きその手に持つロングソードを構え力一杯勢いをつけ薙ぐようしてロングソードを振るうがそれはマッスル先生の両腕で受け止められてしまう。

だがそこからレイベル殿下はロングソードを素早く傾けるとマッスル先生の懐へと潜り鳩尾に肘打ちを行いすぐさま後ろに下がる。

その素早い行動にマッスル先生は虚を突かれたのかまともにそれを喰らってしまうが…やはりダメージになっていないようで平気な顔をして見せている。


普通の人だったらあのまま鳩尾に喰らってうずくまったり痛みに耐えているところにもう一撃入れれそうなぐらいの隙ができるはずなんだが…やはりマッスル先生は普通の人だと思わない方がいいか。

何せ筋肉のある部分に鉄があたるだけで金属音が鳴る先生だからなぁ。


「さてと…私はここからどうするべきだろうか?」


…一応先生の背後を取ってはいるが…一か八かこちらも仕掛けてみるか。

そう呟いた後地面を蹴りスタートダッシュを決める。

狙うは首ではなく足の腱と手首。

ナイフを持つ者の立ち回りとは普通の剣を持っている者のとは違う動きをしながら敵の戦力を削っていくことだ。

つまり今やるべきことは敵の戦闘を鈍らせるための攻撃をすることだ。


私はそう自分に言い聞かせナイフを前に構え近づいていく。

そうして…右腕を振り足が飛んでくる。

やはりと言ったところだろうかこれでも気配はできるだけ薄くしながら近づいて行ったんだが…後ろに目でもついているのだろうか?

まるで私が攻撃してくるのをわかっているかのように私の方に正確に蹴りを喰らわせようとして来やがった。


「むぅ…今のはなかなか」


そうマッスル先生が言いかけた瞬間だった。

レイベル殿下はまたもや一瞬で近づくとロングソードを薙ぐようにして攻撃する。

だがそれもマッスル先生によって防がれ弾かれるがそこで弾かれたロングソードが途端に方向修正され次は突きを放ってくるそうしてそれも腕により止められ弾かれ方向修正されもう一度斬りかかってくる。

それは防がれると同時に速さを増していく。


「あれはあの時戦った時の剣撃か」


おそらくレイベル殿下の最も得意としている撃ち合いに持ち込もうとしているということが一目でわかってしまうほどその剣撃は弾かれると共に滑らかにまるで初めから弾かれてなんかいなかったかのようにして剣撃を喰らわせていく。

それはまるで踊っているようで…その場にいた目につけた者の全てが釘付けとなって見入った。


「さて…そろそろ私も覚悟を決めて仕掛けるとしますかね」


私は覚悟を決め呟いた後に脚に力を込めもう一度突っ込んだ。

そうしてくるマッスル先生によるそれは一度やったからわかっていると言わんばかりの足蹴り。

その足蹴りは私が避けられないように先程とは違く私が切り掛かってくる前に撃つことにより私自身からその蹴りにあたるように配置された蹴りであったが…私はその蹴りに来た脚を利用することにした。


私を蹴りにくる脚…それは鍛え抜かれており筋骨隆々のためもし私が全体重をかけても決して折れることなんてないだろう。

そう思い私はその足蹴りにタイミングを合わせ飛び乗ると同時にナイフで斬りつける。

だがあいも変わらずその鍛え抜かれた脚には一つの傷も付かず薄皮の一つも切れない。

こんなの想定内だ…だから私は左手に握るある物に目を移した後に地面となっている脚を一目見た後空中へとジャンプする。

周りから見たら私はバカな行動をしていると見られていることだろう…何せ敵が目前にいるのに逃げ場もなくまともに動くことができない空中に自ら行っているのだから。


ところで一つ質問がある。

君だったら攻撃されても別に自分には傷をつけられない相手と今すぐにでも傷をつけられる相手がいたらどちらを相手する?

普通だったら自分に傷をつけられない相手なんてほっておいて今すぐにでも片付けられる相手を優先するだろう。

…まぁそれが狙いなんだがね。


私が予想していた通りマッスル先生はレイベル殿下の剣撃から目を離し私の方を見て手を伸ばしてくる。

おそらくこのままでは私は捕まってしまうだろう。

だがどんな時こそこの左手に持つある物の出番だ。

私はそれを思いっきりこちらに手を伸ばしてくるマッスル先生の顔面に向かって投げつける。


そうしてそれは目に入り違和感を起こし目の前は見えなくなる。

揺れる視界に人間ならば誰にでも起きる異常物質を排除しようと働く身体の機能により目の前は涙で滲み掴もうと襲いかかってこようとした手は目に手をやりたいのか動きが鈍る。


そんな私が持っていたのは土だ。

これはどこにでもあってこういう甲冑やら防具をつけていない顔面にはピッタリの武器だ。

何せこれを顔面にぶつけることで敵の視界は眩み口に入ったら反射的に吐き出そうとさせる。

これほど敵の行動を封じるのに適した単純な武器はないだろう…まぁ現代武器を除いてだが。

そうして私はぐらつくマッスル先生の腕を避け顔面に膝打ちを喰らわせるとそのまま顔面を掴み首元にナイフを置きレイベル殿下はマッスル先生の心臓部分にロングソードを突くようにして置く。


「チェックメイト…終わりです…マッスル先生」


そうレイベル殿下が呟くとマッスル先生は笑う。

そのまま笑いながら私を軽々と持ち上げると地面に下ろし腰に付けていた水筒のような物をとり顔面にかけるともう一段階大声になって笑い出す。


「ガハハハハハハッ!いやぁこれは一本取られたなぁ…まさか土で視界を取られるとはなぁ。それでは今日の授業はここまでとする。解散ッ!」


そう言われ腰を落としその場に座る。

こうして私の学校生活一日目の授業は終了したのだった。

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