第105話
赫く輝く槍のような光を纏ったナイフがレイベルへと襲いかかる。
その場で応援の声を上げる観衆はその状況を見て冷や汗をかくものもいればその身のこなしに驚く者。
それぞれが良い反応をしながらその一瞬と言える戦況の代わりように感嘆の声を漏らす。
そうしてその仮面を被った少女の刃がレイベルへと届く一歩までいった時だった。
一瞬にしてその場の誰もが畏れ敬意を表したくなるような感覚に襲われ多数の観衆がその場に跪いてしまった。
ある者はそれに抗うように膝を振るわせ、ある者はその場から逃げるように逃亡していきその場はまさに混乱といった言葉が一番似合う場所へと変わっていく。
それの影響の中心にはレイベルと言われた人物がおり額に大粒の汗を滴らせながら剣を杖にし地面へと突き刺しながら荒く息をついている。
そして仮面を被った少女は何かに吹き飛ばされたかのように土埃を上げながら後ろへと後退しておりその現状は振り出しへと戻ったと言える形となってしまっている。
「はぁ…はぁ…まさかこれほど強いとは思わなかったよ。だがワタシはここで負けるわけにはいかないんでね…」
そうレイベルは私へと投げかけると彼に魔素が集まっていくのが見える。
…というかさっきのは流石に不味かったか…突撃したは良かったがその後のことを考えてなかった。
レイベルだったか、確か殿下とか言われていたから殺したらやばいと思って軌道を修正したらあれだ…なんかめっちゃくちゃ風圧みたいなのが発生して吹き飛ばされたんだよな。
にしてもこれはどうなったら勝利できるんだろうか?
私模擬戦とか前世でもあんまやったことなかったからこういうルールとかわからないんだが…。
とりあえずこの後どうやって攻撃を防ごうか…脚は神風脚でかなりヤバいことになっているのは確かだし治るにしてもあと数分時間がなきゃ動けそうにない。
…ならばここは大人しく身を守るぐらいしかないか?
魔術はできれば依頼人のピグルの前では使いたくないしそもそも使ったらそれこそ面倒なことになりそうだと私の勘が働いているからなぁ。
痛いのは…我慢するしかないか。
私はそう諦めることにしてできるだけ身体への負担を減らす為身体強化で胴体、肩、腕へ重点的に強化を施して防御体制へと入る。
今の私の欠点…それは防御力と言えるだろう。
我流の戦闘術は大体が一発系でありそれぞれが身体に与える負担が多いものばかりで防御を取るという技が一つもない。
まぁその辺は大体魔術に任せているからこんな結果になっているのだがな。
「少々手荒だが許してくれ…剣神流剣術…『クイックスラスター』ッ!」
そう言いレイベルの身体がぶれると同時に身体のいたるところに衝撃が走り後方へとまた吹き飛ばされていく。
分かってはいたがかなり痛い。
待ってこうさ、手加減とかないのかね?
というかこうやって吹き飛ばされている間も私に張り付いて剣戟を喰らわせてくるとか…お前なんて速度を出しながら攻撃してんだよ?
普通ボールを投げたらそのボールは走っても追いつけないのにこいつの場合は投げてもそのボールに追いつくぐらいの速度でてんでマジで。
そうして私はその最後の攻撃によりその場所の一番遠くにあった巨木へと身体をぶつけてその場に倒れた。
そして聞こえる歓声、そしてピグルの声であろう私へとかけられてくる罵声…なんていうかすごく複雑な気分であるな。
今回こうやって対人戦に身を置いていない私でもこうやって実戦の経験と強くなっていたことで少なからずどこかで余裕だと思っていた起こった高慢がこうやって敗北を招くことになるとは…まぁ正直思ってなかった。
この戦いは簡単、勝つのが普通であるという考えがこうして足枷となってくるとは…。
今までは自分を鼓舞してどんな相手でも自分の方が特別、自分の方が相手より歳を食っているから思考深い、自分の方が相手より強いだからこそこの戦いでは勝てる。
それが常識であり自信でありそこから相手より強くなるという自己満足に似た向上心と共にこの人生を生きてきた。
だが結局は自身は身を削り浪漫へと走り強さとは程遠い場所へと至ったというわけか。
浪漫に走っても特別だから勝てる。
全くもって今考えてみたらおかしなことだと思う。
やはり私はまだガキと大して変わらないというべきだろうか…まぁステータスにも年齢がガキそのものだしガキではあるが。
まぁいいやこれからのことは後の私に任せることにしようではないか…今はこの晴れ渡った空を見ながら敗北という景色を見ることとしよう。
「生きる意味かぁ…強くなる以外に何か見つけることができるだろうか?」
強くなることに執着しすぎて強くなったと勘違いをして高慢へと至り強くなることが生きがいと思っていた私は一体これから強くなること以外に何を生きがいにできるのだろうなぁ。
なんというか笑えるなぁ…自分のことなのに何故か自分のことだと思えない。
何故かこれは所謂第三者視点から私を見ているかのようだ…そう思うとこの身体は自分で操作している人形のように思えてきて笑えるな。
「あぁ俺という前世では一体何を生きがいにしていたっけかなぁ?」
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