第69話
…アルキアン side…
僕の名前はアルキアン。
レインバード領の領主の息子だ。
会議が終わり僕は父上に呼ばれてレナと離れて行動することとなった。
今回のこの異常なまでの寒さはさっきあった会議でも話されていたように蛆虫の姿をした怪物が原因らしい。
父上が言うには最近この世界はおかしなことになっているらしい。
ここ数年に新たに確認された魔物、魔獣の数は百種類を超え逆に既存の魔物、魔獣が姿を見せなくなっているとのことだ。
民や冒険者は今のこの時代を暗黒時代と呼ぶ者もいるらしい。
「失礼しますアルキアン様。ご準備が完了いたしました」
そんな時扉の向こうからそのような声が聞こえた。
会議から離れ父上に此度の戦いの指揮を取れと言われた。
指揮を取るといっても小さな小隊であり支給品を運ぶ援軍のような隊だ。
ちなみに本隊は数十時間前にはもう出発している。
その間僕は小隊を率いるために体力を温存させておくために重鎮が使用する暗殺対策がされた特別な部屋で休息をとっていた。
「わかった…今行く。それまで待機だ」
未来の伯爵たる者、威厳を見せなきゃいけない。
父上にそう言われて小隊を預けられた。
その責務を全うしなくてはならない。
いつものように甘い自分ではいられない、部下には弱さを見せてはいけない、犠牲が出ようとも悲しんではいけない。
それが上に立つ者にとっての大切なもの。
「強気でいこう…」
服をメイドに頼み着替え腰に煌びやかな長剣を差し込み準備万端。
僕はそう呟いて歩き出した。
「小隊よ!僕に続けッ!」
そうして僕の小隊は王国から出発した。
目的地は港町。
今回参謀から聞かされた戦略はまず騎士と冒険者が突っ込み傷を負わせて一時退却し支給品を与えてからもう一度突っ込むというものだ。
敵は蛆虫だから我々の馬の速度についてくることは出来ず退却することが可能だから余裕のある戦いが可能だと会議が終わった後に父上を介して話された。
「にしても前よりかは吹雪の強さが弱くなってねぇか?」
そう後ろにいた騎士が言い僕たちは確かにと思った。
あの蛆虫が弱まっている証拠なのだろうか?
僕たちはそんなことを思いながら足の速い駿馬を走らせる。
馬を走らせること数時間。
もう吹雪はほとんど吹き止んだ。
そんな時だった。
空気が振動するような轟音が当たりに響いた。
僕はすぐさま後ろの騎士に呼びかけ馬を止めさせ周囲を警戒する。
まだ轟音は続いている。
どこからその音が鳴っているのかわからないが何かしらのことが起こっているのは明らかだ。
「あっ!あれを見ろ!」
そう1人の騎士が指を刺しながら言う。
僕たちはその騎士が指している方向を見ると山が見えた。
その山はまるで生きているかのように形を変える。
「な、雪崩だ!」
そうそれは大規模な雪崩。
山全体の雪が一斉に動き出している。
こちらは遠いので被害は無いがあちらの方向には丁度港町がある。
僕は騎士に向かって「出発するぞ!」と呼びかけ馬を足で叩き走らせた。
そうしてまた走らせること1時間僕たちは予定通り港町に辿り着いた。
そこには多数の部隊がいてその中には参謀もいた。
参謀は昔冒険者だったらしく戦場に行きそこで戦い戦略を練るという少し変わった人だ。
僕は小隊の騎士に支給品を配るようにと命令し馬を降りて参謀の方へ近づいた。
「補給援軍部隊ただいま到着いたしました!」
僕が参謀にそう言うと参謀は少し気味悪い笑いを顔に貼り付けながら僕の方を向く。
後ろにはSランク冒険者の『ドラゴニア』の皆さんと各部隊を率いる部隊長が申し訳なさそうにそこに佇んでいた。
「ご苦労様です。あの蛆虫ですが死骸が発見されましてねあの雪崩で死んだようです」
そう言われ僕は緊張していた胸を下ろした。
だが参謀は「しかし」と言い一層笑みを深めその後の言葉を続けた。
「被害が出てしまいましてねぇ…あの雪崩に飲まれた者がいましてまだ未発見なのですよ。名前はなんと言いましたっけ?確か…レナ?だったかと」
その言葉、名前を聞き僕は目眩がした。
何故ここでレナの名前が出てくるのだろうか?
レナは王国の王城で休息をとらせると参謀が言っていたはず…。
「いやぁまさかレナさんが雪崩に飲まれるなんて予想できなかったですよ。だからあれだけ来ないようにと警告したんですが…あの王国の為という熱にやられましてね。それがこんな結果となるとは困りましたな未来の伯爵様?」
そんな笑った顔で参謀は僕に話しかけてくる。
何故ここで伯爵という言葉が出てくるんだ?
何故今、僕の前で上に立つ者の言葉を僕にかけてくるんだ?
「ですがそんなことを気にしててはいけませんな。何せ我々は今上に立つ者なのですから。命令しなければ。さて無事終わりましたし帰るとしましょうかな」
そう言い参謀は僕の肩を叩き自分の部隊に戻っていく。
参謀の部隊は騎士と冒険者の混ざった混合部隊。
騎士はなんだか嫌な感じを撒き散らしており冒険者は下卑た顔をしておりまるで山賊のようだ。
そんな言葉を聞き放心していると『ドラゴニア』のローガンさんが近づいてきて僕にある物を手渡してきた。
それは仮面。
いつもレナが顔にかぶっていた仮面。
「これは俺らが持つ物では無い…だから坊ちゃんアンタに…」
そう言い『ドラゴニア』は自分の冒険者の部隊へと帰っていった。
僕は受け取ったソレを見続ける。
今までの思い出が頭の中を巡る。
家族で旅行として商業都市に行き1人で行動したいと思い飛び出しスラムに迷いそこで初めて会い助けてもらい一緒に戦いそして今回は指名して連れてきて一緒に寝たりした。
そうして…もう助けてもらう事もできなくなった。
助けることができなかった。
「…………弱さを見せてはならない、犠牲が出ようとも悲しではならない。そんなのできるわけないじゃん」
涙が溢れてくる。
嗚咽が漏れる。
だから涙を見せぬよう僕は手に持っていた仮面を顔に被り息を呑み込み自分の部隊へと歩き出す。
そうして僕たちは王国へと帰還した。
王国はもう吹雪が吹いてはなく祝福するかのような太陽が僕たちを照らしていた。
王国に入ると民衆からは歓声が王様から賞賛のお言葉をもらった。
騎士は言葉をもらい喜び冒険者は金をもらい喜ぶ。
みんなが喜び騒ぎパーティを行う中、僕はそれを喜ぶことは出来ずただただ手に持っている軽い仮面を見続けていた。
…アルキアン side end…
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