第68話

俺の今の状態はウィンドボールの地面に当たった際に起きる衝撃波により身体が吹き飛んでいる状態だ。

一直線しか移動できないから今魔法を撃たれたら確実に当たるだろう。


そんなことを考えながらも俺の身体は空中の空気を裂きながら進んでいく。

身体に当たる雪はアダプータにより寒さなんてものは感じないが蛆虫に近づくごとに少しずつだが降っている雪の粒は大きくなるため身体に直撃する雪の粒はもはや雹のようなものに変化している。

雹による体力の消耗、動くたびに体力も減る、魔術を維持し発動するのにも体力を使う。

そうして俺の身体は空を裂く。


ナイフを突き刺すような構えをする。

やるのなら確実に殺る。

そんな考えを頭の中で考え込み周囲の状況を見落とさないために目を見開く。


「…ひひひひ…あははは…アハハハハハッ!」


モチベーションを上げるために笑う。

まるで狂ったように笑い続けろ。

そうでなくちゃもう正気でいられないんだから。


身体に力を入れナイフを握り直し身体強化を身体にかける。

あと少し、あと少しで射程圏位内に入る。

敵の攻撃、俺の攻撃が届く距離にもう少しで入る。

そこからはスピード勝負だ。


「らぁぁぁぁぁぁぁッ!」


ナイフを持っている腕を後ろに一度してからフックをする要領でナイフを振る。

蛆虫もこちらへの攻撃を開始しようと魔法を構築している。

だが俺の方がまだ早い。


俺の振るったナイフは1体の蛆虫の傷痕に吸い込まれるようにして突き刺さり傷をつける。

だがまだあの黒い液体は溢れ出してこない。

俺は吹き飛んだ身体が蛆虫に当たり身体が少し痺れる状態だったが自分に喝を入れ無理矢理動かして次の行動を行いナイフを今突き刺した部分目掛けて滅多刺しにする。


「グュルガァァァァァー!?」


蛆虫は悲鳴のような叫び声を上げ身体をうねらせ転がる。

それにより巨体が蛆虫へ当たり魔法の構築を邪魔し発動が不可となり魔力が霧散していく。

滅多刺しした部分からは多量の黒い液体が漏れ出していき蛆虫は痙攣する。


「アイツはもう終わりだな…次だ」


手早く行動して殲滅させる。

そのためには一度動きを止めなければならない。

だからこそ動きを止める魔術を構築し始める。


「雷のシンボル…魔法陣展開!…ッ!」


魔法陣を展開したまま脚に力を入れて蛆虫の元へと近づく。

そして手を突き出し魔術を発動させる。


「痺電流ッ!」


水色の綺麗な色をしたものと黄色に煌めく二つの電撃が目を覆い隠すほどの光を出しながら蛆虫にまとわりつきそれが1体、2体に絡みつき動きを封じる。

その隙を見過ごすことはなく俺はもう一度手を動かして魔法陣を構築する。


蛆虫だって生き物だ。

当然疲労というものが存在する。

ここまでくるまでに蛆虫は騎士たちの攻撃、冒険者たちによる攻撃に耐え傷をつけられ疲労しきっている。

だからこそ俺という孤独に戦う存在を軽く見た。

それが敗因だ。


「風のシンボル…魔法陣展開!エアロスラッシュゥゥゥッ!」


魔法陣からは綺麗な緑色の大剣のような形の風ができており俺はそれを敵に向かって薙ぐ。

そうして緑色の軌跡となった風は蛆虫を真っ二つにし黒い液体すらも巻き込見ながら吹き飛ばす。


この技はあの時俺のことを助けてもらったローガンさんのあのスラッシュを真似したものだ。

まだまだあの域には達してはいないが破壊力でいえば俺の持つ竜喰と同等の威力を持つ魔術となっている。


「残り1体。お前だけだ」


俺は残り1体となった蛆虫の方を向く。

あのいっぱいいた蛆虫の軍団とも言える奴らは見る影もなくなりもうこいつしか残っていない。

だが油断はしない。

慢心もしない。

今やらなければこちらが殺られる。


腰を低くし脚に力を込めナイフを持ち直す。

蛆虫の方も魔法を行使しようと構築を始めている。


そうして身体強化をもう一度かけ直し走り出す。

前からは蛆虫による大きな氷の氷柱が迫ってくるがそれを横にジャンプし避けもう一度走り出す。

足は止めない。

止めてしまえばこれ以上の長期戦になる。


下から上から串刺しにするように氷の槍が生えたり落ちてくるがそれを紙一重で走り抜ける。

吹き荒れる雪が氷の短剣に変わり襲ってくるがナイフを我武者羅に振り回して叩き落とす。

レーザーが来ても足は止めず避け続ける。


身体はもうボロボロだ。

紙一重で避けてはいるが体力はもう限界を迎えており吹き荒れる氷の短剣は全ては叩き落とすことはできないため身体に傷をつけている。

だが諦めずに身体に鞭を打ち喝を入れ走り出す。


最後の一撃に賭けるため身体に血を巡らせ魔力を巡らせ身体を活性化していく。

今から行うのは身体を改造されて手に入れた最高にして人にとっての最悪の技。

人間として生まれた身体への冒涜とも言える行動。

今までこれを発動させようとしても何かが、理性が邪魔して発動することすらできなかったが理性さえ吹き飛ぶ寸前な今の俺ならきっとできる筈だ。


ナイフを虚空庫の中にぶち込み腕を乱暴に横に振り知性を飛ばす。

そうして腕を変異させる。

腕からは薄い灰色のような皮膚へと成り果て鱗のような模様が入り始め硬質化していき内側の筋肉が膨張し骨が軋む。

それに俺は必死に耐える。

そうして耐え続け骨は巨大に変異し完成する。

俺の腕は灰色の鱗を持ち凶悪とも言えるような鋭い爪を持つ腕に変化した。


そうして俺は腕を思いっきり振り、薙ぎ払い蛆虫の身体を切り裂く。

蛆虫の身体の肉は最も簡単にもげそこからは大量の黒い液体が噴出する。

そうして簡単に絶命してしまったソレを見下しながら、笑いながら俺は言葉を発する。


「ハハハハハ…できちまったよ…メタモルフォーゼ『フロストワイバーンの竜腕』」


そうしてまた腕の骨が軋み始める。

元に戻ろうとする。

その痛みに俺は耐えることができなくなり意識を薄くなり倒れ込む。


「ッゥゥゥ…あぁ腹減ったなぁ」


そんな気の抜けるような言葉を最後に俺の意識は闇の中へと消えていった。


*今回使った魔術一覧*


痺電流:スタンボルトの改良版。遠くまで効果範囲が伸びたが電気の威力がスタンボルトよりも少なくなった。

エアロスラッシュ:エアーカッターの改良版。コンセプトはローガンさんのスラッシュという技の威力を出すというもので作られたがまだその域には行っていない。

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