第67話
こちらの残りMPは半分より少し少ないぐらい。
身体強化をしても数十分は持つだろうしかなりの威力の魔術だって十発は撃てるぐらいには残っている。
「敵は…目に見えているのは6体か。あの威力の魔術を受けても倒せたのは2、3体か」
といっても敵の体表には切り傷や刺し傷もあるからそこまで体力があるわけでもなさそうだ。
何せ体表から出ていた青白い光がもう出ていないし。
まぁ敵のMPも有限だからな。
もはや青白い光を出すことさえできない状況なのだろう。
俺はとりあえずこの檻から抜け出すため先程のミニマム・ヘルによる熱により溶けた部分から外へ抜け出し出来るだけその場から離れる。
流石にあの場所で戦闘をするのは分が悪い。
あんな鉄板の上で戦っていたらいつかは足の裏が火傷してしまうし。
「とりあえずはここまで来ればいいかな?…一応実験も兼ねて回復しておくか『回生』」
俺がそのスキルを発動させると共に頭の中に子供特有の耳鳴りのような音が響く。
頭が割れるように痛い。
そして指先がとてつもなく熱くなったり逆に冷たくなったりした後にまるで何かに思いっきりぶつけたかのような痛みが身体全体に広がっていく。
「ぐッ…………ゥゥ」
右手を掲げて目で目視する。
確かに回復はしているようだ。
あの凍傷、黒ずんだ皮膚はもう見る影もなく手は真っ白な皮膚となっている。
だがこれは回復していっているというよりかはあるべき姿へと巻き戻ったかのように思えた。
まるで昨日の自分の状態になったかのような感じだ。
「ハハハ…」
つい乾いた笑いが出てくる。
確かにこれは精神的にきついものがある。
何せ自分の傷が目に見えるように戻っていくのだから。
俺の場合は凍傷だったからまだ黒色の皮膚が白く戻っていくだけだったから良いものの例えるなら斬られた部分にこの回生をしたとしたらおそらくは斬られた痛みをもう一度体験しながら治っていくということとなるだろう。
腕を切られたら腕が飛んできてくっつく感じにもなるだろう。
これなら説明文の精神力を消費するという意味がよくわかるな。
そうこうしていると俺が走ってきた向こう側から何かが這いずる音がして振り返る。
そこにいたのは6体の蛆虫。
相変わらず傷口から黒色の謎の液体を出しながら移動してくる。
そこで何故か俺は悪寒を感じた。
そして即座に今いた場所から離れるように後ろに飛ぶ。
目の前に上から巨大な氷柱が突き刺さるように降ってくる。
それを見てから俺は走り出す。
時にジグザグに動き回り時にジャンプして下からくる氷の刃を避ける。
「くそッ!蛆虫野郎はMPがないんじゃなかったのかよ!?」
どうやらあの蛆虫はMPがないわけではないらしく俺に魔法を撃ってくる。
だが蛆虫の魔法の構築速度はあまり速くないのでこうやって走り回るだけでも結構避けれるのだが無駄に精度が精密なので避けるのが大変だ。
だがこうして避けていくとわかることがある。
それは蛆虫共の魔法には予備動作のようなものがあるということだ。
例えば氷柱を作る際には構築される上空に氷の粒が集まるのでそこに行かなければいい話だし氷の刃は速度がないので軌道さえきちんと見れば余裕を持って避けることができる。
視野を広げてちゃんと動けば避けられる。
だがこのまま避け続けていても状況は変わらない。
こちらから攻撃をしなければ先に潰れるのは俺の方だろう。
だからこそ俺は腰に下げている2本のナイフを抜き蛆虫に向かって走り出し標準を合わせる。
走りながらコレをするのは難しいがまぁ敵の視線ぐらいはそらすことができるだろう。
そうして俺は両手の親指をトリガーに乗せる。
「いくぞ…3…2…1…発射!」
俺は発射と同時に雪を蹴り上げ標準を合わせた蛆虫に向かってトリガーを押し込んだ。
そうしてナイフの刀身はまっすぐ蛆虫の方へと射出され…。
「「グギィィィィィィッ!?」」
2体の蛆虫に命中する。
流石にこの距離であの巨体に当たらないなんてことは流石にない。
蛆虫共はそんな顔に深々と顔に刺さったナイフに叫ぶ仲間を見ている。
もはや俺の姿なんて見てもいないだろう。
俺はナイフにMPを少し流す。
そうすると蛆虫に刺さったナイフの刀身はカタカタと動き出し蛆虫の顔面の傷を抉りそして刀身が飛び出した。
そうして戻ってくるナイフの刀身。
蛆虫はナイフにより顔面に傷ができておりそこから黒色の謎の液体がまるで噴水のように噴き出ておりそして…倒れた。
どうやらあの謎液体はアイツらにとっての血のようなものらしい。
ということはアイツらに傷をつけ失血させれば簡単に倒せるということだろうか?
さっき考えた方法なら簡単に近づくことは可能だがまだ敵の数は4体もいる。
油断は禁物だ。
まぁ思いついた方法を試してから後のことは考えることにしよう。
そうして俺は斜め後ろに手をつき素早く魔法陣を構築する。
「魔法陣展開『ウィンドボール』」
そうして生み出される風の玉。
それは俺の身体を軽々しく飛ばすほどの勢いで発射され地面に当たり雪が砂埃のように舞いその衝撃による風で俺の身体を斜め横に飛ばす。
蛆虫共はその音と同時に正気を取り戻したかの如く俺がさっきいたところに向かって先ほどよりも鋭い刃を高速で発射させ今まで一本しか出してこなかった氷柱を3本に増やして地面から出してくる。
だがそこには俺はもういない。
にしてもやはりこいつらは俺を弄ぶためにわざと弱い技で攻撃していたらしい。
何せ先ほどよりも殺気のようなものが混じっている。
「…弱者に対しても本気でやらなくちゃやられる。それぐらい分かりきっていることだろうに…」
俺は軌道を変えるためもう一度魔法陣を構築しそれをナイフの先に持っていく。
そうしてナイフを蛆虫とは反対方向に向け斜め下に構える。
「魔法陣展開!ウィンドボール!」
もう一度風の玉が発射され地面へとぶつかりそれによる衝撃が発生し俺の身体を飛ばしていく。
俺の身体は蛆虫共に真っ直ぐと射出される。
いつのまにか移動した俺に蛆虫は反応が遅れその巨体をのそのそと動かすが仲間も巨体なので身体同士がぶつかり俺の方向を向けずにいる。
これはチャンスである。
この方法もうまい具合に成功した。
もう体力的に戦闘は終わらせなくてはならない。
俺は一息つきナイフを構える。
二刀流というのはやったことはないがぶっつけ本番。
やれるだけやってみようではないか。
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